血管撮影室実習資料

 

T.血管

図1.    図2.    図3. 図4. 図5. 図6. 図7.

U.血管撮影とは

血管撮影部門は、放射線診断領域、血管内治療の1部門であり、その業務において、我々診療放射線技師だけでなく医師・看護師・臨床検査技師(臨床工学技士)等の複数のスタッフで行われている特殊領域である。1953年にSeldingerによる経皮的カテーテル法の開発から、X線装置・器具・造影剤等の進歩により、診断技術から治療を目的としたInterventional Radiology(IVR)という領域も展開されてきた。本実習書における血管撮影技術は部位別に記入され、必要最小限ながら是非とも覚えて頂きたい事項である。血管撮影は、今後とも目覚ましい発展を続けることが予想され、我々診療放射線技師も技術だけでなく、知識の習得にも努めていく必要があり、そのベースになるのがこの実習書である。

 

V.前処置

血管カテーテル検査は原則的には患者を入院させ施行する。食事は検査が午前の場合朝食を禁じ、午後の場合は軽い朝食を与え昼食は止める。患者の緊張をやわらげる意味で、2030分前に軽い鎮静剤を投与することが一般的である。カテーテルの挿入部は剃毛を行なう。検査前日までに行なう検査は、胸部X線、血液化学検査(血液型、腎機能、肝機能、梅毒、HB抗原、出血傾向など)心電図などがあげられる。

 

W.造影手技

血管造影は、経皮的カテ−テル法、経皮的穿刺法、切開穿刺法、切開カテーテル法などがある。 経皮的カテ−テル法は皮膚を切開し、血管を露出することなくカテ−テルを血管内に挿入し、造影検査、治療を行う方法をいい、穿刺法にはセルジンガー法(@)が用いられている。しかし経皮的カテ−テル法では、操作が煩雑になりやすいこと、血管撮影が高度な撮影、治療に移行したことなどの理由から現在ではイントロデューサー(A)が殆どの撮影に使用されている。動脈の穿刺部位としては、大腿動脈、上腕動脈、橈骨動脈、腋下動脈などである。静脈の経皮的カテ−テル法は動脈の場合と変わりはないが、穿刺時、動脈のように血液が拍出しないため、注射筒で陰圧をかけながら内腔に入ったことを確認する必要がある。穿刺部位には大腿静脈、正中肘静脈、上腕静脈などがある。

@セルジンガー法

  Seldingerにより考案された血管を露出することなくカテーテルを血管内に挿入し、造影検査、治療を行う方法をいう。外套針とともに内套針で動脈の前後壁を貫通させ、内套針を抜いた後、外套針を静かに抜いて、血液が勢いよく出てきたところで針を固定し、ガイドワイヤーの柔らかい端を先にして挿入する。抵抗なくワイヤーが挿入されたら針を抜き、ガイドワイヤーの末端からガイドワイヤーがでたらワイヤーを固定し、イントロデューサー(後述)、カテーテル等を血管内に挿入し、ワイヤーを抜きヘパリン生食で内腔を洗う。

Aイントロデュ−サ−

血管を確保し、ガイドワイヤー、カテーテルなどを挿入するための管で、血液が管から漏れないように弁が付いている。4F14FF:フレンチ)といろいろなものがある。

 

X.合併症

@.造影剤による合併症(別紙参照)

A.手技に関係する合併症

@.出血および血腫/A.動脈の攣縮/B.動脈の内膜損傷、穿孔/C.動脈血栓および塞栓

Y.撮影方法

@.フィルムチェンジャーによる撮影

高速フィルムチェンジャーにより連続撮影が行われている。X線発生装置の制御技術の進歩から、2方向連続撮影や2方向連続拡大および立体撮影が可能となっている。機構的に最大秒間4枚程度の撮影が限界であり時間分解能は良くないが、後述のDSAに比べると空間分解能に優れている。

 

A.シネ撮影とデジタルシネ撮影

冠動脈撮影のように動きの早い撮影や動画で観察が必要な撮影部位には、35mmシネフィルムを用いたシネ撮影が行われる。秒間1560フレームのコマ撮りで撮影が行われ、後述のデジタルシネ撮影に比べると時間分解能に優れている。また、専用の自動現像機で現像処理され、35mmシネフィルム映写機にて観察される。アナログ撮影であるため空間分解能に優れている。現在は、透視及び撮影画像をデジタル画像で収集しリアルタイムで再生し診断できるデジタルシネ撮影が可能となった。シネフィルムに比べて、空間分解能、時間分解能では及ばないがコントラスト分解能が良く、画像処理、保管、検索に優れている。本院では平成14年度よりデジタル化され、現在はシネフィルムを使用していない。

 

B. Digital Subtraction Angiography(DSA)による撮影

フィルム法に比べ造影剤が少なくて済むこと、造影剤の注入速度を下げ安全に撮影できる、血流状態を観察しながら撮影できる、などの利点から多目的に使用されるようになった。撮影部位や撮影目的から、2方向連続拡大や立体撮影および2方向回転撮影が容易に行われるようになっている。撮影法には経動脈性DSA(intra arterial DSAIA-DSA )および経静脈性 DSA ( intra venous DSAIV-DSA ) がある。IA-DSA はフィルム撮影に比べると空間分解能には劣るが、デジタル画像の特色であるコントラスト分解能に優れ、より少ない造影剤の量で鮮明な血管像が得られるため様々な撮影部位に用いられている。一方、IV-DSAIA-DSAに比べ造影能に劣るため撮影部位や撮影目的は必然的に制限を受ける。また血液の循環経路や個々の撮影部位における循環時間などを考慮し、delay time(遅延時間)を考えて造影剤の注入やDSA撮影開始時間、患者の息止め時間など撮影プログラムに配慮することや、障害陰影を少なくする前処置などが必要である。しかし、検査後安静などの処置が必要なく、外来で検査が可能など利点も多く、撮影目的、撮影部位により十分診断価値のある画像が得られる。今日ではIV-DSAを施行する施設も少なくなり、カテーテル法によるIA-DSAが主流となっている。

 

Z.Interventional Radiology(IVR)総論

 現在の血管撮影技術はSldingerによる経皮的カテーテル法の開発以来、X線機器やカテーテル、造影剤などの急速な改良開発によって、それまでの画像診断から治療を目的としたInterventional Radiology(IVR)へと発展してきた。手技別に考えると、カテーテルを利用して局部への薬剤の動注、血管の塞栓、血管の拡張および開通に大別することが可能である。対象目的としては、腫瘍、出血、血管性病変があり、腫瘍については、抗癌剤の動注や経カテーテル的動脈塞栓術(Transcatheter Arterial Embolization:TAE)がある。出血は、血管収縮剤の持続動注や動脈塞栓術、血管性病変では、血栓溶解術や経皮的血管形成術(Percutaneous Transluminal Angioplasty:PTA)がある。現在盛んに行われている経皮的血管形成術の中でも急速に発展しているのは、経皮経管的冠状動脈形成術(Percutaneous Transluminal Coronary AngioplastyPTCA)である。PTCAはバルーンカテーテル、アテレクトミー(冠動脈内粥腫切除術)およびステントの埋め込み術に大別することができる。アテレクトミーには様々な方法があり、病変によりデバイスの使い分けがされている。

[.脳血管系各論

@.目的と適応

最近の頭部領域の検査はCTMRI等による画像診断が確立され、診断を目的とした血管造影はやや減少傾向にある。特に脳腫瘍など占拠性病変においては顕著である。血管性病変においても、近年非侵襲的に血管の画像を得ることが可能になり、症例によっては血管造影が不必要になったものもある。しかし、現時点ではMRICTの血管性病変に対する画像処理法には種々の限界があり、血管造影にとって変わるところまでには至らず、脳動脈瘤などの血管性病変に対しては、多くの場合血管造影は欠かすことができない検査法である。検査方法については、最近の血管造影撮影装置は、DSAによる検査が主流となっている。しかし、スクリーンとフィルムによる血管造影(Conventional Angiography)も行われている。

 

A.IVRへの対応

 a) 動静脈奇形(arteriovenous malformationAVM

本症の治療方法としては塞栓術、外科的手術、放射線治療が行われ、これらを複合して治療を行うことも少なくない。血管造影で eeding artery(供給血管) を確認したのち、超選択的造影カテーテル(マイクロカテーテル)を feeding artery に挿入し、EVAL(ethylene vinylcohollopolymer)NBCA(n-butyl-2-cyanoacrylate)を注入しNidusを塞栓するものである。

 

 b) 脳動脈瘤(aneurysmAN

動脈瘤の外科的な治療としてはクリッピング術が最も多く行われているが、一部の症例において内科的な治療としてカテーテルによる塞栓術を行っている。手技は超選択的造影カテーテルを動脈瘤内に挿入し、GDC (Guglielmi detachable coil) などのプラチナコイルを使用して動脈瘤内に留置、塞栓するものである。

 

 c) 硬膜動静脈瘻(dural arteriovenous fistuladural AVF

外頚動脈領域の硬膜枝と海綿静脈洞に交通ができたもので、手技的には、外頚動脈造影を行い Feeding artery を確認したのち、各 Feeding artery に超選択的造影カテーテルを挿入後、スポンゼル(ゼラチンスポンジ)PVA(polyvinyl alcohol foam)により動脈塞栓を行う。その後経静脈的にプラチナコイルやステンレスコイルを使用して、海綿静脈洞を塞栓し治療を終了する。

 

 d) 内頚動脈海綿静脈洞瘻(carotid cavernous fistulaCCF)

内頚動脈と海綿静脈洞のあいだにできた瘻孔を経カテーテル的に塞栓することができる。塞栓物質としてはDetachable Balloonを使用することが多く、手技的にはカテーテルの先端にマウントした Balloonを内頚動脈より瘻孔を通して海綿静脈洞内に挿入する。Balloonが海綿静脈洞内に入ったらBalloonを膨らませ瘻孔をふさぐ。親カテーテルより造影し、瘻孔が塞がっていることが確認できたらBalloonを離脱する。その後確認造影を行い終了する。

 

この他にも脳腫瘍の摘出手術の前処置として行われるFeeding arteryの塞栓術、脳内動脈の塞栓線溶療法や、くも膜下出血で発症した脳動脈瘤破裂症例の血管攣縮に対する塩酸パパベリン動注療法などが現在行われている。IVR症例が多くなってきた今日では、透視時間の増加、高線量透視の使用や撮影回数が多くなるなど、放射線被曝や放射線障害が問題となる。被検者被曝や術者被曝についても関心を持ち、被曝低減に努力することが我々放射線技師としての重要な役割である。

\.心血管系各論

@.目的と適応

心臓カテーテル検査(以下心カテ)は病名の確定、治療方針、手術適応の有無や手術術式の決定には欠かせない検査である。しかし、近年の心臓画像診断法は超音波検査を始めとし、CTMRI、核医学などの非侵襲的検査の進歩が著しく、観血的な心カテの役割が大きく変化してきている。その例として、治療を目的としたIVRが盛んに行われている。心臓領域に関するIVRの例は後述する。

また、心カテは機能的検査法、形態的検査法の2つの方法に分けられる。

機能的検査法は、心臓、大血管内にカテーテルを挿入し、各部位の血圧及び血流を測定し、さらに血液を採集分析し酸素含有量、酸素飽和度測定などを行う。また心臓から駆出される血液量を求める心拍出量測定、心腔内の心電図・心音図・ヒス束心電図測定などが挙げられる。

形態的検査法は心臓、大血管内の内腔に造影剤を注入し、それらの同定と位置や大きさなどの内部構造に関する解剖学的診断と血液の方向(短絡、逆流など)、量および速さなどの血行動態異常による形態変化に関する診断を目的とする。

 

A.冠動脈の解剖

 a) 左冠状動脈(left coronary artery)

左冠動脈は左Valsalva洞から起始しており、主幹部(left main trunkLMT)が肺動脈基部の背面を通り、左心耳の下に出て左前下行枝(left anterior descending arteryLAD)と回旋枝(left circumflex arteryLCX)に分かれる。

 

 b) 右冠状動脈(right coronary artery)

右冠動脈は右Valsalva洞より出ている。右Valsalva洞を出た後、右心耳と肺動脈の間を通り右心耳より右房室間溝の中を走りその太さは1.55.5mm(平均3.2mm)であり、その間に多くの枝を分枝する。

 

B.各造影の目的と撮影時の注意点

 a) 左心室造影

左心室と関連する部位の解剖学的な把握と左心室全体および局所の機能を評価する。先天性疾患を除いて通常はRAOLAOの二方向撮影が行われる。造影には一般的にpigtailカテーテルを用いて行われる。

 

 b) 大動脈造影

大動脈疾患、大動脈弁およびその周辺組織の異常の有無(大動脈弁閉鎖不全、胸部大動脈瘤など)の評価をする。造影にはpigtailカテーテルを用いることが多い。

 

 c) 右心室造影

先天性心疾患では形態異常(肺動脈弁狭窄症、Fallot四徴症、大血管転位症など)の把握、三尖弁の評価(閉鎖不全の有無とその重症度)、右心室機能の評価を行う。

 

 d) 肺動脈造影

肺動脈自体の疾患、肺静脈相から左心系にかけての疾患を評価する。造影にはバルーン付きの側孔カテーテルがよく使われる。

 

 e) 冠動脈造影

冠動脈疾患の確定診断と治療方針の決定を目的として行われる。

冠動脈造影は@大腿動脈からのアプローチとA上腕動脈からのアプローチ及びB橈骨動脈からのアプローチによって行われる。IVRの場合は手技の点から@が選択されることが多いが、大動脈疾患がある場合を除いても術後の止血安静時の短縮が必要になってきており、特に診断においてA,Bからのアプローチも増えてきている。使用されるカテーテルは@,Aともに左冠動脈、右冠動脈それぞれ専用のもの(Judkinsカテーテル)を使用するがA,Bでは一本で造影できるもの(マルチパーパス型カテーテル)が用いられる事も多い。

撮影方向としては左心室造影と同様RAOLAOが基本的な方向であるのだが、狭窄部位や狭窄方向、さらには他枝との重なりに応じて頭足方向(cranial)、足頭方向(caudal)を交えて様々な方向から診断・治療し易いviewを選択、撮影する。

 

 f) 左右の内胸動脈造影

冠動脈に狭窄部位があり、外科的治療(ACバイパス造成術coronary artery bypass graftCABG)前の検査および術後のFollow upの評価を行う。

 

C.IVRへの対応

最近では器具の開発や技術的な進歩によって、心臓、大血管領域のIVRが盛んに施行されIVRの有用性が認識されている。基本はカテーテルを用いて治療する術式である。もともとは  経皮経管的冠状動脈形成術(Percutaneous Transluminal Coronary AngioplastyPTCA)と呼ばれていたが、最近では後述する種々のニューデバイスを含めてPCI(経皮経管的冠状動脈インターベンション:Percutaneous Coronary Intervention)と呼ばれるようになり、従来のPTCAPOBAPlain Old Balloon Angioplasty)と呼ばれるようになった。PCIには血管、弁、中隔などの拡張、閉塞、異常導線の切断、異物の除去などが含まれるが、診断に比べると透視時間が長く、患者、術者被ばくが増すことも新たな問題となってきている。

 

a) 狭い部分の拡大を目的としたIVR

@バルーン冠状動脈形成術(Plain Old Balloon AngioplastyPOBA

心・大血管領域の各種IVRの中で、もっとも広く行われているのが虚血性心疾患の治療法としてバルーンによるPCIがある。当初は適応となる症例や病変もかなり限られ、一枝病変に限局し、求心性で石灰化がないものとされていた。しかし、最近では器具の開発や技術的な進歩によって、多枝病変、完全閉塞や急性心筋梗塞まで適応が拡大してきている。しかし、再狭窄や急性冠閉塞などの問題も残されており、POBA施行後、6カ月の再狭窄は2030%の頻度で起こるといわれている。

 

A経皮経管的冠状動脈内血栓溶解療法

(Percutaneous Transluminal Coronary RecanalizationPTCR)

心筋梗塞急性期の治療法で、冠動脈内を血栓によって閉塞した血管に血栓溶解剤を投与して、血流を再開通させるものである。その適応は6時間以内とされている。

 

B経皮的冠動脈アテローム切除術(Directional Coronary AtherectomyDCA)

カテーテルの径が大きいため、対象は蛇行のない近位部の限局性病変。バルーンによる狭窄病変の拡張とは異なり、病変組織を切除して狭窄を解除しようとするものである。

 

C経皮経管的冠状動脈形成術―高速回転式

(Percutaneous Transluminal Coronary Rotational AtherectomyPTCRA Rotablator)

先端にbarのついたカテーテルを1分間に16万〜20万回転の高速度で回転させ、アテロームを微細な粒子に破砕するものである。高度石灰化病変に対して適応可能である。

D冠動脈内ステント(STENT)植え込み術

急性冠閉塞の予防・治療および再狭窄の予防を目的とし、現在多くのStentが開発されている。その種類によっては臨床成績上かなりの相違がみられる。冠動脈内ステントには永久的に留置してしまうpermanent typeがほとんどである。またステントタイプには、self expanding typeとバルーンによって拡張させるballoon expandable typeがあるが後者が主流である。

 

E経皮的静脈的僧帽弁交連裂開術(Percutaneous Transvenous Mitral CommissurotomPTMC)

僧帽弁狭窄症の患者に対しバルーンカテーテルを用いて経皮的弁拡張術を行うものである。又、バルーンカテーテルを変える事により、大動脈弁・肺動脈弁の拡張が行われる。

 

b) 異常導線の発生個所を解明し切断する

@電気生理学的検査(Electro Physiorogical StudyEPS

His束電位図を含む心腔内電位図を記録しながら、心臓に種々の電気刺激を加え、不整脈の機序を解明・発生個所の決定を行う。

 

A経皮的カテーテル心筋焼灼術(Ablation

経皮的に電極カテーテルを心腔内の標的部位に挿入し、カテーテル先端電極と体表に装着した対極板との間で高周波通電を行い、頻拍の原因となる心筋組織の異常興奮発生部位、異常興奮旋回路または異常興奮伝導路を選択的に焼勺することで変性・不活性化し、頻脈を治療する。

 

) その他

@大動脈内バルーンパンピング(Intra-Aortic Balloon PumpIABP)

大腿動脈からバルーン付きカテーテルを胸部下行大動脈に挿入して、心臓拡張期に拡張、収縮期に収縮させて、冠血流を補助する機器である。IABPの効果には冠状動脈血流量の増加、心拍出量の増加、左心室駆出抵抗の減少等がある。大動脈内バルーンパンピングで補助できるのは全心拍出量の15%までで、血栓ができやすい、動脈を損傷しやすいなどの欠点もあり、長期的使用が困難である。

・拡張期:バルーンの拡張により大動脈拡張期圧が上昇し冠血流量が増大する。

・収縮期:バルーンの急激な収縮により大動脈収縮期圧は減少する。

 

A血管内超音波(intravascular ultrasoundIVUS

    冠動脈造影法(CAG)によるPTCAの効果の判定は近接正常部との相対的狭窄度の変化によって行われる。CAGでは撮影方向の制限や拡大率に問題があり、正確な定量的比較は困難な場合がある。

0.9 1.0mm径の細径の超音波探触子(20-30MHz)付カテーテルを冠動脈内腔に挿入し,血管の横断面(血管壁や粥腫の内部、組織性状)をエコー像として経時的に描出することができる。通常、IVR時に併用することにより、冠動脈の形態的、組織的観察が可能となり、カテーテル治療のデバイスやサイズの決定、治療の結果判定には特に有用である。

 

B血管内視鏡

冠動脈内腔の直接観察を目的とし、内腔の立体的構築、粥腫、血栓といった動脈硬化性病変の形態、色調の詳細な評価に有用である。血管内視鏡カテーテルの先端位置を確認してから、カテーテル先端のバルーンにより血流を遮断し、加温ヘパリン加生理食塩液を2から4ml注入して、血管内腔の血液を排除し、血管の内腔を観察する。

].胸腹部血管系各論

@.目的と適応

胸腹部領域での血管造影は、動脈硬化症、動脈瘤、高安病、動静脈瘻などといった血管性病変の診断(血管径の変化、血管の辺縁や走行、分枝の異常、側副血行路:colateralvesselesなど)や腫瘤性病変の存在診断、質的診断(鑑別診断)、局在診断、進展度診断、手術適応と術式の選択、血管分岐形態の把握(feeding artery、血管走行異常、狭窄、数の変化、新生血管の有無、実質像の異常)といったことを目的として行われている。

 

A.撮影上のポイント

 a) 胸部血管

心臓、冠動脈、肺動脈、気管支動脈等の血管造影では、撮影視野内に縦隔と肺野というX線吸収の差が非常に大きい組織が存在する為、適切な補償フィルターの負荷が必要となる。また、心臓近辺では拍動によるモーションアーチファクトが必ず発生する。これに対しては、数拍分のMASK像を撮影しREMASK処理により対処する。また、通常のDSAでは画像加算をすることによりS/Nの向上を図っているが、モーションアーチファクトが発生する撮影では画像加算によりボケが発生してしまうので画像加算の枚数を減らすことによりボケに対処する。

 

 b) 上腹部血管

肝、胆、膵、脾の血管造影では、腹腔動脈と上腸間膜動脈造影を行った後、必要とされる選択的造影を行うことが多い。膵癌の主要所見である膵内動脈の微細なencasement(虫食い)像を得るためには超選択的、かつ拡大立体撮影などが必要となる。胃、膵、十二指腸の診断には、鎮痙剤を投与し発砲剤で胃を膨らませることにより血管解剖がより分かり易くなる。ただしDSAの場合はガス部のハレーションやミスレジストレーションアーチファクト対策がより重要となる。

門脈造影法には、上腸間脈動脈に造影剤を注入しその静脈相(門脈相)を撮影する@経動脈的門脈造影法(arterial portography)と、経皮的に脾を穿刺し造影剤を注入するA経脾門脈造影法(splenoportography)や、経皮経肝的に門脈を穿刺し造影するB経皮経肝的門脈造影法(percutanous transhepatic portography PTP)がある。@の経動脈的門脈造影法では動脈造影により門脈像を得るので、他と比較すると手技的には容易で安全だが、造影能をよくするため血管拡張剤の使用が必要である。一般的に門脈造影ではコントラスト分解能に優れているDSAが有用とされている。

また、腎、副腎の腫瘍や腎動脈起始部に狭窄が疑われる場合は、腎動脈、副腎動脈以外からも血液供給を受けている可能性もあるので、大動脈造影(Aortagraphy)の必要もある。場合によっては血管収縮剤を使用した薬理学的造影法も併用される。

 

c) 骨盤部血管

  骨盤部の消化管出血や腫瘍に対しての血管造影は基本的には上腹部血管と同様、主要血管(総腸骨動脈、内腸骨動脈、外腸骨動脈など)の造影後に選択的造影を行うことが多い。ただし先の腎、副腎同様、他血管からの血液供給を受けている場合が多々あるため、最初にpig tailカテーテルにて大動脈分岐部の少し上もしくは腎動脈起始部位にカテーテル先端を置いて大動脈造影を行い骨盤全体や卵巣動脈、下腸間膜動脈の血管走行を把握しておく。

         

B.血管造影法とCT検査法の組合せ

 a)  CT arteriography (CTA)

カテーテルを目的の動脈まで挿入し、カテーテルから50mg/ml程度に希釈した造影剤を注入しながらCT像を撮影する。肝腫瘍や膵癌の診断に用いられる。

 

 b)  門脈造影下CT (CT during arterial portographyCTAP)

多くの肝腫瘍が肝動脈からのみ血流を受けていることを利用した方法で、転移性肝癌などの小病変の検出を目的として行う。悪性腫瘍に限らず、肝嚢胞や海綿状血管腫などの良性腫瘍も、門脈血流を受けていないので陰影欠損として描出される。

 

 c) リピオドールCT

油性造影剤であるリピオドールは、正常組織はwash outされ肝腫瘍部に集積するという性質を持つため、肝細胞癌の小転移巣の検出に用いられる。しかし集積の認められないHCC(肝細胞癌)もあり、血管腫などのように肝動脈からの血流に富む腫瘍で集積が認められる。またTAEの経過観察中に、腫瘍内のリピオドールの集積に虫食い欠損や集積自体の消失が認められたときは、局所再発が疑われる。方法としては、固有肝動脈からリピオドールを注入し12週間後にCTを撮影する。

 

 d) 血管造影法と超音波検査法の組合せ

US Angiographyは、超音波検査下に肝動脈に挿入されたカテーテルより、超音波造影剤として良好な造影効果を持つCO2を注入し、一連の動態観察により肝腫瘍の質的診断に役立てる方法である。

 

C.IVRへの対応

 a) 気管支動脈注入療法(bronchial artery infusionBAI)

肺癌に対する治療法として、栄養動脈である気管支動脈に対し抗癌剤(MMCADM)を注入する。肺門や縦隔リンパ節転移にも効果がある。放射線療法等と併用される事もある。

 

 b) 気管支動脈塞栓術(bronchial artery embolizationBAE)

難治性の喀血に対してスポンゼルや金属coilで塞栓する。再発が多く、繰り返し施行しなければならないこともある。

 

 c) 肝動脈塞栓術

肝癌の根治療法として外科的切除があるが、多発性のものや高度の肝硬変を伴ったものも多く、これらは手術不能で経カテーテル的動脈塞栓術(transcatheter arterial embolizationTAE)の適応となる。

肝の血流は門脈と肝動脈の二重支配で、正常肝ではその比率が3:1(門脈:肝動脈)である。これに対して肝細胞癌は、ほぼ100%肝動脈だけで栄養される。ここで腫瘍の栄養血管に塞栓物質を注入し血流を遮断することにより、腫瘍を阻血状態にして壊死させる方法である。この時、正常肝組織は門脈からも血流を受けているのでほとんど障害されない。塞栓物質は、抗癌剤(ADMなど)と油性造影剤であるリピオドールを混合したもの(emulsion状態)をはじめに、次にゼラチンスポンジの細片を逆流しないよう注意しながら注入する。リピオドールは塞栓物質としての阻血効果は弱いが、選択的に主腫瘍や娘結節、転移巣へも集積する性質を持つ。

 

 d) 経リザーバー的肝動注療法

転移性肝癌やTAEの適応にならない肝細胞癌に対しては、リザーバーによる抗癌剤持続動注療法が行われ、患者のQOLの向上にも役立っている。これは血栓のできにくい処理をした留置用カテーテル先端を肝動脈に留置し、その末端にリザーバーポートを接続し鎖骨下動脈や大腿動脈近辺の皮下に埋め込むもので、このポートから随時抗癌剤を注入できるため、持続動注療法が可能になった。

 

 e) 消化管出血

悪性腫瘍や潰瘍、炎症などによる消化管出血に対して、塞栓療法や血管収縮剤の持続動注が行われる。腹腔動脈、上腸間膜動脈、下腸間膜動脈の選択的造影を施行するが、出血が間欠性であることが多く、また出血量が少ない時は血管造影では検出できないことがある。

 

 f) 腎出血、腎動静脈奇形、動脈瘤

腎出血の主な原因としては動静脈奇形や動脈瘤などの腎血管病変や外傷によるものがあり、コイルやスポンゼル等により塞栓が行われる。

 

 g) 腎癌

手術困難な腎癌や術中の出血を減らす目的で腎癌に対するTAEが行われる。バルーンカテーテルを用い、腎動脈の血流を遮断して無水エタノールによって塞栓する。疼痛が強いため注入に際して十分な注意が必要である。

 

 その他にも以下のようなIVRが行われている。

h)    バルーン閉塞下動注化学療法(balloon Occluded Arterial InfusionBOAI)

i)     部分的脾塞栓術(Partial Splenic EmbolizationPSE)

j)      血管拡張(形成)(Percutaneous Transluminal AngioplastyPTA)

k)    血管内異物除去

l)     下大静脈フィルター

m)   経頚静脈的肝内門脈大循環短絡術(Transjugular Intrahepatic Portosystemic ShuntTIPS)

n)    バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(Balloon occluded Retrograde Transvenous ObliterationBRTO)

 

]T.四肢血管撮影

@.目的と適用

四肢の動脈・静脈の血管撮影の適応は血管自体に病変を有する疾患と、腫瘍の浸潤範囲や質的診断を目的とした2種類に大別できる。血管造影は、現在のところ四肢血管疾患の診断に際しもっとも重要な方法であり、治療方針を決定する上で必要不可欠なものである。

また四肢は形状が不定形で、長細い被写体の為、X線透過量が部位により大きく変化し、直接線がフィルムやI.I.へ入射する。DSADAではハレーションの発生原因となり、撮影条件設定において関心領域内へ直接線が入射することにより条件不足が生じ、画像の劣化が起こる。このため、補償フィルターやボーラスを用いX線強度分布の均一化を行い画質の向上を図る必要がある。

a) 四肢動脈撮影

四肢動脈撮影は閉塞性疾患、血管奇形、機能性疾患、骨・軟部腫瘍などに適用される。

 

b) 四肢静脈撮影

四肢静脈撮影は閉塞性疾患、血栓症、静脈瘤などで行われる。

 

A.IVRへの対応

四肢血管のIVRは、血管の狭窄に対する拡張術、動脈血栓症に対する溶解術、腫瘍に対する塞栓術がある。装置は撮影直後に画像が得られる即時性のあるDSAおよび高画質の透視画像が必要となる。

 

A.造影部位とその解剖

 a) 上肢動脈

@鎖骨下動脈− 第1肋骨外側縁までの部位をいい、腋窩腕頭へつらなる。右側は腕頭動脈より分岐し、左側では、大動脈弓から直接分岐する。

A腋窩動脈− 鎖骨下動脈の延長で腋窩に存在する部分であり、第1肋骨外側縁から大胸筋下縁までをいう。

B上腕動脈−腋窩動脈の続きで、大胸筋下縁から肘関節までの部分をいう。

C前腕動脈−橈骨動脈、尺骨動脈、総骨間動脈からなる。

D手の動脈− 橈骨動脈と尺骨動脈の分岐により深掌動脈弓と浅掌動脈弓を形成して交通する。深掌動脈弓からは掌側中手動脈が分岐し、浅掌動脈弓からは総掌側指動脈が分岐し、両者が合流して固有掌側指動脈になる。深、浅の両動脈弓は、完全動脈弓と不完全動脈弓に分類されているが、異変も多く非常に複雑である。

 

 b) 下肢動脈

@大腿動脈− 総腸骨動脈から内腸骨動脈と外腸骨動脈が分岐し、外腸骨動脈の続きで内転筋腱裂孔から膝窩に出るまでをいう。

A膝窩動脈− 大腿動脈の続きで、中枢側から外側上膝動脈、内側上膝動脈、中膝動脈、腓腹動脈、外側下膝動脈、内側下膝動脈などの順番に分岐する。

B下腿動脈−前脛骨動脈と後脛骨動脈および後者から分岐する腓骨動脈の3分枝からなる。

C足の動脈− 前脛骨動脈の続きである足背動脈と後脛骨動脈の続きである足底動脈の領域に分けられる。足底動脈は内側足底動脈と外側足底動脈の2枝に分岐し、内側足底動脈は第1中足骨側に、外側足底動脈は第5中足骨側に至る。

 

]U.周辺機器

@.フィルムチェンジャー

フィルムチェンジャーは未撮影フィルムをサプライマガジンから撮影位置に送り、その位置でフィルムを増感紙で圧着したのちX線を曝射し、曝射終了後にフィルムをレシーブマガジンに送り込む装置である。現在、血管撮影に用いられるフィルムチェンジャーは、大角サイズ(35×35cm) のフィルムで、各造影部位に応じて撮影プログラムをあらかじめプリセットできるようになっており、最高毎秒4枚で30枚までの撮影が可能である。

 

A.増感紙、フィルム

血管撮影に用いられる増感紙/フィルム(S/F)システムは、小焦点による拡大撮影やフィルムチェンジャーによるX線曝射時間の制限、撮影枚数が多いことなどから、一般に高感度システムが使用される。フィルムチェンジャー用の増感紙は増感紙の保護とフィルムとの密着を良くするため、表面に小さな凹凸を付け、密着時に空気が逃げやすくなるようマット処理という特殊な処理が成されている。

 

B.レーザーイメージャー

デジタル画像をフィルム化する場合、レーザーイメージャーによって画像データをレーザー光の強調に変え片面レーザーフィルムに記録して画像を得る。現在湿式(ウェット)のものが大半を占めているが、今後乾式(ドライ)のものに置き換わっていく傾向にある。レーザーイメージャー(湿式)は、レーザー光源の波長により適合するフィルムを選択する必要がある。

 

 

C.造影剤自動注入装置(インジェクタ)

   血管撮影に用いられているインジェクタはフィルムチェンジャー、X線装置などに同期していなければならない。性能として、フローレート(注入速度)は心大血管で用いる場合(本院では10ml/sec)から抗がん剤等を動注する場合(本院では0.1ml/sec)まで広範囲に細かい設定が出来ることが必要である。安全機構としては、設定した注入量や注入速度、注入圧を超えた場合、自動停止する機構が必要である。

 

D.ポリグラフ

診断から治療へと進んだ血管撮影では、重症疾患の患者を扱うことも多く心電図による患者監視が重要となってくる。特に心臓カテーテル検査に置いて必須機器の1つであり、四肢誘導は当然の事ながら標準12誘導や血圧、心拍出量電気生理検査のユニットが装備されている。

 

E.画像解析装置

   コンピューター解析を用いて左心室機能(拍出量や駆出率など)、血行動態、血管狭窄(狭窄率など)を定量評価するシステムである。これにはX線装置に内蔵されてオンラインで即時解析できるものと、シネフィルム、超音波などの画像をオンラインで解析できるシステムがある。

 

F.除細動器

カテーテル検査は侵襲性の高い検査であり、緊急時の準備をしておく必要がある。除細動器(直流除細動器/defibrillator:DC)は検査中に発生する不整脈で重篤な心室細動、心室頻拍、上室性頻拍などが起きた場合に胸壁から直流電流を通電し、心臓に電気ショックを与え、心臓の動きを正常化させるものである。

 

]V.最後に...

侵襲性の高い検査は、患者さまの立場に立ってものごとを考え、施行することが必要である。わずかな言動で、患者さまに余計な負担をかけることは、検査や治療の妨げになる。患者さまの協力があって、はじめて様々な手技がうまくいくものである。検査中は特に患者さまとのコミュニケーションを密にして、意志の疎通をはっていくことが重要である。また、検査および治療中は、万全な体制であっても不慮な事故や容態の急変は、免れないものであり、普段から緊急対策を立てておく必要がある。そのためには、造影剤の副作用の症状、救急時に必要な薬品の作用と名称、および機器・器材の取り扱いや名称などを習得しておくよう不断の努力を怠らないように心掛けたいものである。