対象疾患について/心臓血管外科
●弁膜症について
  弁膜症とは
 弁膜症とは、大動脈弁、僧帽弁、三尖弁などが異常をおこしておこる病気です。この場合、弁がうまく閉まらなくなって血液が逆流する閉鎖不全症と、弁がうまく開かなくなって血液が流れにくくなる狭窄症があります。

心臓と大動脈弁、僧帽弁、三尖弁、肺動脈弁の構造、働きについて
 心臓には右心房、右心室、左心房、左心室という4つの部屋があり、それぞれがタイミングよく連動して収縮と拡張をしています。
 全身に酸素を送り届けた血液は右心房、右心室、肺を通って十分な酸素を取り込み、きれいな血液となって左心房、続いて全身に血液を送る役割をしている左心室という部屋に流れ込みます。そして最後にその左心室から大動脈に血液が押し出され、全身へきれいな血液が送り届けられます。
 つまり、心臓は全身や肺に血液を送りだすためのポンプの役割をしています。
 右心房と右心室の間に三尖弁、右心室から肺への血管の間には肺動脈弁、左心房と左心室の間には僧帽弁、左心室から大動脈への出口には大動脈弁という扉があって心臓が拍動(収縮と拡張)するたびにそれらは開いたり閉じたりしています。
 僧帽弁は弁尖といって2枚の扉からできており、大きく開閉する扉(前尖)とそれを受け止める小さな扉(後尖)から成り立っており、それぞれの弁尖の裏側には腱索というたくさんの細いひもがついて、左心室の壁の乳頭筋というところについているため、うまく開閉できるしくみになっています。
 大動脈弁は通常は3枚のうすい膜の扉(弁尖)からできています。弁尖と弁尖の間は交連部という蝶番のような構造になっていて、これらの弁尖と弁尖のあわさる部分は広く、ぴったり閉じるようになっているます。
 三尖弁は、右心室という部屋と右心房という部屋の間には僧帽弁と同じ様な構造の三尖弁という扉があってやはり心臓が拍動するたびに開いたり閉じたりしています。弁尖は前尖、後尖、中隔尖の3枚から成り立っており、それぞれの弁尖の裏側には腱索というたくさんの細いひもがついていて右心室の壁の乳頭筋というところについているためにうまく開閉できるしくみになっています。つまり左側の僧帽弁とほぼ同じ構造ですが、右心室・右心房の圧力は左心室・左心房よりずっと低いため、組織は薄く弱いものです。
 肺動脈弁は大動脈弁とほぼ同様の構造をしていて、通常は3枚のうすい膜の扉(弁尖)からできています。

弁膜症の原因は
 リウマチ熱や先天性、感染、炎症、動脈硬化性、加齢に伴うものなどがあります。最近は、動脈硬化性、加齢に伴うものが、全体的に増加傾向にあります。

弁膜症を放置すると
 心臓は上記したように体全体に血液を送りだすポンプの役割をしていますが、弁膜症ではポンプ内の部品であるどれか一つの弁が故障しても、ポンプの機能が低下し、やがてポンプとしての機能ができなくなる危険性があります。病気の程度によっては内服薬でポンプの負担を減らし、ポンプの機能を長持ちさせることは可能ですが、根本的な解決には手術治療による部品(心臓弁)の修理が必要になります。
 一方、心臓には代償機能といって都合の悪いことを打ち消そうとする働きがあり、心房は大きくなって渋滞を和らげようとし、心室はたくさんの血液を押し出すために大きくなり、筋肉を増やします(心筋肥大)。弁の故障がゆっくり起きる場合、この代償機能がうまくいって何年も症状(息切れや動悸など)がなく、またなかなか症状が出て来ないのがこの病気の特徴です。その間筋肉はたくさんの仕事をするためだんだん疲れてきます。この状態を長く放置をすると次第に症状が出現(息切れや動悸など)してきて、この時期になるとポンプ全体が駄目になってしまっている場合(重症の心不全)があります。
 したがって、手術のタイミングが重要です。

大動脈弁の治療方法は
 大動脈弁全体を切り取って弁輪という円形のわくのようなところに人工弁というものをとりつける人工弁置換術と、大動脈弁全体を切り取らずに修復する弁形成術の2種類あります。ただし大動脈弁の場合、弁形成術は非常に難しく適応も非常に限られています(大動脈弁が石灰化といって非常に固くなってしまった弁は、弁形成術の対象になりません。)。海外および国内の2〜3の施設でこの弁形成術を積極的に行っている施設もありますが、まだ歴史が浅くはたして十分長持ちするものかどうかの評価が得られていません。当院ではほとんどすべての方に人工弁置換術を行っています。

人工弁置換術には機械弁と生体弁の2種類があります
 機械弁は構造的な耐久性に関してもっとも信頼性が高いのですが、生体に入ると血栓がつきやすく、硬くて開閉にともなう衝撃があるため弁輪が弱い人の場合縫いつけた部分がさけて血液がもれる(人工弁周囲逆流)などの心配があります。特に機械弁に血栓がつくと弁の開閉が障害され急に心不全となったり、血栓がはがれて飛べば脳梗塞をおこすこともあるので、血栓がつかないようにワーファリンという薬(血栓ができないようにする薬)を毎日飲んで血液の固まりやすさを低く保つことが大切です。(月1回の採血検査を必要とします。)このような抗凝固療法をしている人は血液がかたまりにくくなるため逆に出血しやすく脳出血、消化管出血など出血の合併症にも注意しなければなりません。但し、機械弁は耐久性に優れ、日本では非常に多くの患者さんが受けている標準的な手術です。
 人工弁にはもうひとつウシ、ブタなどの動物の組織で作った生体弁というものがあります。生体弁は血栓が付きにくいのでワーファリンは1〜3ヶ月で中止できますし、また人間の弁の形に似ていて血液の流れが自然である、音がしないなどたくさんの利点があります。ただ年月が経つと生体弁が徐々に変性し、硬くなってくるという欠点があります。現在の生体弁は突然壊れることはまずないと考えられていますが、若い方の場合は変性が早いので再手術を覚悟しなければなりません。早ければ10年くらいで取り替えなければならない場合もありますが、65才以上の方の場合、非常に長持ちする事がわかっています。現在当院で使用しているウシ心嚢膜弁は65歳以上の方にお勧めしています。

僧帽弁の治療方法は
 手術の方法には大きく分けて、次の2つがあります。
 (1)人工弁置換術‥‥
 僧帽弁全体を切り取って弁輪という楕円形のわくのようなところに人工弁をとりつける手術。
 (2)弁形成術‥‥‥‥
 僧帽弁全体を切り取らずに形の悪い部分を切り取って縫い合わせたり、延びて変形した弁輪の形を整えたりして僧帽弁がきちんと閉じるようにする手術。

 一般的に、僧帽弁が硬くなってしまった僧帽弁狭窄症や弁の破壊がひどい場合は、形成術の対象にはなりません。

人工弁置換術の場合
 弁−腱索−乳頭筋−左心室壁というつながりがなくなるため左心室の収縮、拡張のしかたが変わり、その分、心臓の機能が若干低下します。
 人工弁には機械弁と生体弁の2種類があり、それぞれに特徴があります。

機械弁の場合
 血栓がつきやすい、感染に弱い、硬くて開閉にともなう音や衝撃があるため弁輪が弱い人の場合、縫いつけた部分がさけて血液がもれる(人工弁周囲逆流)などの心配があります。特に機械弁に血栓がつくと弁の開閉が障害され急に心不全となったり、血栓がはがれて飛んで脳梗塞をおこすなど、生命が危険になることもあるので、血栓予防のためにワーファリンという薬を毎日飲んで血液をかたまりにくくすることが必要となります(抗凝固療法)。また、抗凝固療法をしている人は脳出血など出血の合併症にも注意しなければなりません。そのため、月1回の採血検査を必要とします。
 しかし、機械弁による人工弁置換術は耐久性に優れ、日本では多くの患者さんが受けているスタンダードな手術です。

生体弁の場合
 ワーファリンという薬が不要で音もしませんが、僧帽弁置換術の場合は比較的変性が早く、特に若い方では10年−15年で取り替えが必要になることも少なくありません。当院では僧帽弁の生体弁は70歳以上の方にお勧めしています。

弁形成術の場合
 人工弁置換術(機械弁)の場合と異なり、上記のような心配が少ないばかりでなく、うまくいけば逆流は全くなくなり心臓の働きの点でも人工弁より良いものが得られます。薬も少なくてすみ、よりよいレベルの生活が期待できます。
形成術ができるかどうかは、手術中に実際に弁を見ないとわかりませんが、自分の弁がひどくいたんでいる場合は弁を全部切り取って人工弁置換術に変更します。
三尖弁の治療方法は
 三尖弁の病気の殆どは僧帽弁の病気にともなう閉鎖不全症です。これには弁形成術とくに弁輪(弁の土台の部分)を縫い縮める弁輪縫縮術が適切です。
 弁輪縫縮術には糸で弁輪を小さくするDe Vega(ドゥベガ)法とリングを用いる方法があり、一般にはドゥベガ法は簡略法で手軽にでき、リングを用いる方法は多少手間と時間がかかるかわりに効果がより確実で長持ちする傾向があります。一般的には、重い三尖弁閉鎖不全にはリングを、軽いものにはドゥベガ法を用いて患者さんのニーズにあった方法を使い分けています。

人工弁の選択
 人工弁には上記したように機械弁と生体弁の2種類があり、それぞれに特徴があります。弁の選択は最終的には患者さん本人が選択することになります。したがって、自分のライフスタイル、そして、弁の特徴(耐久性、再手術の可能性など)を十分理解したうえで選択して下さい。

弁置換術の再手術
 何十年という長い間には人工弁がだめになったり人工弁周囲の組織が張り出して再手術をしなければならないこともあります。あるいは他の弁がやられて複数回の手術をやることもあります。

感染性心内膜炎とは
 若い方から高齢者まで少なからず起こり得る弁の病気として感染性心内膜炎があります。原因は、何らかの原因(歯の治療の後など)で血液の中に細菌が入り込み、その細菌が弁について繁殖し、弁に細菌の塊を作り弁を破壊します。感染性心内膜炎は原因菌によっては抗生物質の効きも悪く、細菌の塊がちぎれて飛ぶと脳卒中などの重大な問題に発展します。そこで積極的に手術を行い、菌をきれいに取り去り、こわれた弁はなるべく形成します。形成が良くない場合には人工弁を用いて治療します。


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