最近、海外の研究者により、エマヌエル症候群の臨床経過について、63人という大規模な調査による報告がありました。以前にも報告はありましたが、今回は年齢層の幅を広げた調査になっているようです。日本語訳を、少しずつ翻訳していく予定ですが、第1回目は、論文の全体を簡単にまとめた要約と調査にいったった経緯が書かれている序文と方法、結果の一部を翻訳しました。

(日本語訳を公開することはJohn Wiley & Sons社の許可を得ています。また著者のCarterさんも承諾済みです 。)

<要約>

 エマヌエル症候群(OMIM 609029)は、過剰der(22)t(11;22)症候群としても知られており、その特徴は多発性先天性異常、頭蓋顔貌の異常、重度の認知障害です(Emanuel et al., 1976; Fraccaro et al., 1980; Zackai and Emanuel, 1980; Iselius et al., 1983; Lin et al., 1986)。親がヒトで最も頻度の高い染色体相互転座である11番と22番染色体均衡転座を持ち、罹患者には親の減数分裂時に転座染色体が3:1に分離した結果として生じた染色体が不均衡な部分があります。保因者は通常、習慣流産や不妊症の精査、エマヌエル症候群の子供の誕生後に同定されます(Fraccaro et al., 1980)。t(11;22)(q23.3;q11.2)均衡転座の保因者の児が満期まで生存してこの症候群をもって生まれる可能性は10%弱です(Emanuel et al.,1976; Zackai and Emanuel,1980; Iselius et al.,1983)。


この症候群についての臨床情報の大部分は1980年代半ば以前に論文発表されました(Emanuel et al., 1976; Fraccaro et al., 1980; Zackai and Emanuel, 1980; Iselius et al., 1983; Lin et al.,1986)。先天性異常は、よく記録してあり、心疾患、口蓋裂、尿生殖路の異常、腸閉鎖があります。頭蓋顔貌異常も、詳しく記述されていました。発達は、乳児期から大幅に遅延します。しかし、既存文献では、生後数年以降の情報は非常に限られています。エマヌエル症候群の正確な乳児期死亡率は不明ですが、長期生存も可能です。


「Chromosome 22 Central(www.c22c.org)」は、40以上の国の22番染色体関連疾患の患者やその家族を支援しています。子供の少なくともひとりがエマヌエル症候群を罹患しているメンバーは現在82人います。このオンライン支援グループを利用して参加者を募り、妊娠出産歴、先天性異常、診療や手術歴、発達段階や現在の能力に関してエマヌエル症候群の患者の親に調査を依頼しました。アンケート調査に特有の偏りという限界はあるけれども、エマヌエル症候群の症状の自然歴に関する現時点で唯一で最大の臨床研究です。ヒトの11番と22番染色体均衡転座は繰り返し発生するので、本研究の成果は、転座保因者の遺伝カウンセリングに役立ち、エマヌエル症候群の患者の親や健康管理者に特に有用です。

<序文>

 エマヌエル症候群の特徴は、多発性先天性異常と発達障害です。11番と22番染色体の一部を含んだ過剰派生染色体が原因です。この染色体不均衡の原因は、親の11番と22番染色体均衡転座が3:1に分離することであり、この転座は、人で最も頻度の高い染色体転座です。1980年代以来この症候群の臨床症状については論文発表がなく、患者の自然歴に関する情報は限られています。私たちは、「Chromosome 22 Central」という国際的なオンライン支援グループを通して集まった家族にアンケートをおこない情報を集めました。集まったデータは、先天性異常、診療や手術歴、発達や振る舞いの問題点、そして現在の能力の情報を含んだものです。新生児から成人期までにわたる63人のエマヌエル症候群の情報が集まりました。以前から知られていたように、先天性異常の頻度が高く、小耳孔(76%)、小顎症(60%)、心臓先天性異常(57%)、口蓋裂(54%)は高頻度でした。私たちのデータは、視力、聴力障害、痙攣、発育障害、繰り返す感染、とくに急性中耳炎が共通していました。精神運動発達の遅れは共通しましたが、最終的には大多数(70%以上)が補助してあげることで歩行しています。また、言語発達や自分の身の回りの世話をする能力は劣っていました。この調査は、エマヌエル症候群の患者の家族や医師に、臨床的スペクトラムと自然歴に関する新しい情報を提供するでしょう。

 私たちは、過剰22番派生染色体、もしくは、11/22部分トリソミーの患者に関する英語の文献の中の症例報告やまとめで入手可能なものすべてを再検討しました。 染色体検査に基づいてエマヌエル症候群と確定診断したケースだけ(すなわち47,XXかXY,+der(22)t(11;22))に限定しました。症例報告の情報を利用して、エマヌエル症候群の臨床的特徴について調査するために、エマヌエル症候群と診断を受けた患者の親にアンケートをおこないました。とくにこれまでは利用可能なデータが十分でなかったと感じられた領域を重点的におこないました。そのような領域とは、健康管理の問題、乳児期以降の発達や成長、自己管理能力や振る舞いなどを含んでいます。本調査は東部オンタリオ州小児病院の倫理委員会の承諾を得ています。


アンケートは、4つのセクションに分かれています。(1)頻度などの統計、(2)周産期と新生児期、(3)内科的、外科的問題、(4)成長、発達、振る舞い。各セクションでは、回答者(親か第一の介護者)に、選択肢から選択で答えることと、「その他」の項目で自由形式で答えを書くことができるようなかたちで、一連の質問をしました。私たちは家族に患者の写真を依頼しました。私たちは、回答者にカルテの提出は依頼しませんでした。参加者は「Chromosome 22 Central」のオンライン支援グループを通して募集しました。支援グループの個々の参加者には、書類か電子メールのどちらかでアンケートが送られました。同時に同意書が送られ、署名の上、郵便やファックスで研究グループに送り返されました。82人のメンバーに、家族内の患者のためのアンケートが送られました。65人から回答をもらいました。2つは、十分な情報を得られなかったため、調査から除外しました。1つめは、出生前に診断され、妊娠が中絶してしまったから、2つめは、胎児が生まれた初日に亡くなってしまったからです。アンケートのすべての質問から得られたデータは、データベース化しました。

<対象と方法>
<結果>

<調査対象>

 合計63人を調査の対象としました。大部分の回答(48%)が米国からで、残りはカナダ(11%)、英国(10%)、オーストラリア、フランス、イタリア、ノルウェー、スペイン、チリからでした。回答者のほとんど(95%)がエマヌエル症候群の患者の実母で、2人が実父、1人が養母でした。患者の性別は、28人が男性(44%)、35人が女性(56%)でした。年齢の分布は、表1に示しました。回答者の5人は、すでに子供を亡くしていました。亡くなったのは、1か月未満(2人)5か月未満(2人)、33才(1人)でした。残りの58人の回答者は、年齢は9か月と33才の間でした。回答者の71%は、子供の年齢が6才以上(死亡時を含む)でした。

<両親の保因者状態>

95%で両親のいずれかが11,22転座をもっていることがわかりました。保因者の圧倒的大部分(90%)は、母親でした。回答者の5%だけですが、父親が転座の保因者(3人)であることがわかりました。5%は、どちらの親が保因者であるかはわかりませんでした。その理由は、両親がまだ検査を受けていなかったり、子供が養子の場合でした。また、両親が検査を受け、両親のどちらかもが転座の保因者ではないという例はありませんでした。


<診断とカウンセリング>

48%で、エマヌエル症候群は、生後1か月以内に診断されています。さらに30%が、生後1か月から1年の間で正確に判断されています。回答者のひとりは、出生前診断で診断されました。生後1か月で正確な診断を受けなかった場合は、回答者に新生児期におこった問題点に関する説明を受けたかどうかを質問しました。他の最初に受けた新生児の問題点に関する説明としては、ピエールロバン連鎖(4人)、猫目症候群(2人)、未熟児のため(3人)、猫鳴き症候群(1人)、ディジョージ症候群(1人)でした。18%が問題点に関して新生児期には明確に説明されなかったと答えています。


両親に、診断時に予後と自然歴に関して与えられた情報に関して質問しました。一般に、1996年以前の出生児の親は、ほとんど情報が与えられなかった、もしくは、一様に悲観的な情報だけが与えられたと答えています。一部の両親は、子供がせいぜい生きられるのは1-2年と言われていました。他の親は、理解するには難しい医学雑誌の論文を与えられ、そこには、死や重い発育障害以外の情報がなく、ごく限られた自然歴のデータしかありませんでした。1990年以降の出生児の親は、主にインターネット検索で、自分自身の手で容易に情報を見つけることができると思っています。回答者は、繰り返し、「Chromosome 22 Central」とオンライン支援グループのことを、この症候群の最良かつ唯一の情報源である、と言っています。


(文責:細羽、倉橋)

2009/8/10