No.050

意識障害時の脳波とその実施における問題点
名古屋大学医学部附属病院検査部
◯加藤相子 吉子健一 松尾志保 水谷眞規子 平山正昭 根来民子

【目的】
 意識障害時の脳波は、病態を把握する上で重要であるが、脳機能低下を示唆する脳波の徐波化と意識レベルは必ずしも並行するわけではない。波形やパターンは多様性に富み、特殊な検査環境であることも加わって時として脳波の判定を困難にしている。

今回我々は、近年広く普及してきたデジタル脳波計を用いて記録した意識障害患者における脳波について、病因、波形、反応性、予後ならびに記録上の問題点とその対策について検討した。

【対象と方法】 
ICUにおいて脳波検査を行った意識障害患者19例(男性9例、女性10例、年齢21〜80歳、平均年齢57歳)を対象とした。検査時の意識レベルは、JCS3例、同。16例であり、意識障害の原因は、低酸素脳症9例、代謝性脳症5例、脳器質性疾患3例、薬物中毒2例であった。ポータブルデジタル脳波計シーグラフE( Bio-logic社 )を用い、導出部位は左右の前頭極、中心部、後頭部、側頭部の8箇所とし、同側耳朶を基準とする単極導出と縦方向の連結双極導出を組み合わせたモンタージュによって15分〜20分間脳波をモニタリングした。

記録中、音刺激(拍手、呼名)および爪床圧迫による痛覚刺激を実施し刺激に対する反応性をみた。一部の患者では、通常の電極配置 (10/20法+Gibbs法L/RAT)を用いた。すべての脳波検査はベッドサイドで実施し、判読は17インチCRTまたはアナログ出力した記録紙で行った。

経過を見るために繰り返して検査を行った症例は10例(2回6例、4回2例、5回1例、6回1例)であった。なお、筋緊張が高い症例には筋弛緩剤を、薬物中毒の疑われた1例では拮抗薬を投与した。

【結果】
障害の程度、原因疾患によって様々な脳波パターンが得られた。低酸素脳症では低電位脳波、徐波、burst suppression pattern、PLEDsと多彩な脳波像を示したのに対し、代謝性脳症では徐波を主体とし、脳器質疾患ではburst suppression pattern、低電位脳波、薬物中毒ではα波様活動が認めらた。burst suppression pattern、α波様活動、低電位脳波を示した11例中10例は痛覚刺激による脳波変化を認めず、7例が死亡した。モンタージュリフォーマッティング、リフィルタリング、感度調節などデジタル脳波計の機能は判読に有用であった。また、8個の導出電極では、雑音と突発波の鑑別が困難な症例があった。

【考察】
 今回の検討によって、意識障害患者の脳波像の多様性が確認できた。従来ベッドサイドでの検査は、患者の状態、周辺の環境などからなるべく電極を省略し、簡易な方法で短時間に検査を実施する傾向にあったが、これは必ずしも適切ではないことが明らかとなった。

意識障害時の脳波検査において、デジタル脳波計の機能は有用であるが、適切な手技による検査の実施が必要である。装着電極をできる限り多くすること、経時的脳波変化を見ることは、判読精度の向上および病態の変化を把握する上で重要と考えられた。  

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