No.066

髄液細胞診により癌性髄膜炎とした大腸癌の1例
豊橋市民病院 中央臨床検査室1) 臨床病理科2) 脳神経外科3)
○夏目 篤二1) 内田 一豊1) 山本 明美1) 山本  司1) 松落 とし子1)金田 なな1) 市川 寛子1) 前多 松喜2) 渡辺 正男3)
【はじめに】
 癌性髄膜炎を引き起こす原発巣としては肺癌が最も多く、次いで乳癌、胃癌の順で大腸癌は比較的少ない。今回、髄液の一般検査で異型細胞が検出され、細胞診検査で印環細胞癌による癌性髄膜炎と診断したが原発は不明で、最終的には病理解剖で大腸癌の転移とわかった症例を経験したので報告する。

【患 者】
 48歳、女性(ペルーより来日、日本語不自由)
【既往歴】
 35歳、左側外傷性頭蓋内出血

【現病歴】
 平成9年3月23日朝6時頃トイレに行こうとしたところ、崩れるようにして倒れたため、当院救急外来へ救急車で搬入された。来院時は意識清明、右片麻痺、呂律困難の状態でCT上、左視床出血・脳室穿破を認めた。

【臨床経過】
 血腫量が少なく、水頭症も無いため、保存的治療が行なわれた。
入院3日目:発熱、傾眠傾向あり、15日目:昏睡状態、髄液検査:異型細胞(+)、髄液培養(−)、髄液細胞診:印環型の悪性細胞を認めたため胃癌など消化器原発の印環細胞癌転移を疑った。18日目:内科へ上部消化管内視鏡検査を依頼されたが患者の状態より施行不可能であった。22日目:腹部CTでは多発性にリンパ節腫脹判明、24日目:頭部CTで広範な脳梗塞を認めた。27日目:心肺停止状態となり、永眠され解剖が許可された

【髄液細胞診所見】
 きれいな背景の中にN/C比大、核大小不同、核クロマチン増量、核小体腫大、核偏在著明で細胞質にPAS染色(+)、アルシアン青染色(+)の粘液を持つ印環型悪性細胞が孤在性で多数認められ、癌性髄膜炎と診断された。

【剖検時病理組織所見】
 横行結腸にBorrmann 2型、4×4B大の腫瘍があり原発と考えられた。組織型は低分化腺癌であり、部分的に印環細胞癌のところも見られた。脳には髄膜、Virchow-Robin腔内に印環型の悪性細胞の浸潤があり、癌性髄膜炎の状態がみられた。その他に胃、下行結腸、両副腎、両肺、脾臓、膵臓、膵周囲リンパ節、右腎門にも転移がみられた。

【考 察】
 本症例は大腸癌原発の低分化腺癌であったが部分的に印環細胞型の部位もあり、癌性髄膜炎にみられた印環型細胞は大腸癌からの転移と考えられた。大腸癌は分化型の腺癌が転移巣でも多いので高円柱状を呈することが多いが、本例のように印環細胞型を呈することもあり、大腸癌の転移巣での形態として高円柱状のみをイメージすると原発巣の推定を間違うおそれがあると思われた。
                    
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