No.093

肝嚢胞腺癌の一例
聖隷三方原病院 生理検査 腹部超音波室
◯ 宮本 悦子 荒谷 浩一 岡井 直子 斎藤 晴義 田中 一江 藤田 夏子 山口 浩司
【はじめに】
 肝臓内の嚢胞性疾患は腹部超音波検査上 検出しやすい所見の一つである。今回我々は比較的稀な疾患である肝嚢胞腺癌の一症例を経験したので報告する。

【症例】
患者:75才、男性    
主訴:右季肋部痛
既往歴 家族歴:特記すべきこと無し
現病歴:平成10年10月13日右季肋部痛を訴え近医受診。腹部超音波検査で肝左葉に low echoic massを指摘され当院消化器に紹介、11月9日検査目的で入院となった。
入院時検査成績:軽度の貧血と低蛋白血症を認めた。肝機能、腫瘍マーカーは正常範囲内であった。

画像所見:
<腹部超音波>
肝S4に直径10pの嚢胞性病変を認めた。病変部は球形 境界明瞭 辺縁平滑であった。内部エコーは大部分が嚢胞様であるが壁から内腔に向かって突出するhigh echoicな不整乳頭状隆起部が認められた。この部分にはカラードップラーで血流が確認できた。門脈水平部および中肝静脈は腫瘍により圧排されていたが内部への浸潤は認められなかった。肝内胆管の拡張は確認できなかった。

<腹部CT.>
肝S4に被膜を有し 壁在に増殖性の隆起を認める占拠性病変を認めた。

<ERCP>
左肝内胆管に圧排像を認めるが腫瘍との交通は認めなかった。

<腹部血管造影>
肝動脈自体は圧排所見が主体で、腫瘍の辺縁部分に相当すると思われる血管増生と濃染像を認めた。

   以上より肝嚢胞腺癌と考え平成10年12月
  7日腫瘍摘出術を施行した。

肉眼所見:摘出腫瘍は最大径12.5p 多房性嚢胞で 内腔面には広範囲に壊死を伴う黄白色の乳頭状腫瘍が認められた。
病理組織学的所見:乳頭状増殖を示すbile duct 
cystadenocarcinomaと考えられた。一部にはbile duct cystadenomaを伴っていた。

【まとめ】
 肝嚢胞腺癌は画像診断の進歩に伴い報告件数は増加しているが 全原発肝癌に占める割合はいまだ0.1〜0.4%程度といわれている。
 超音波検査において肝嚢胞腺癌の内部構造は 他検査に比べても明確に描出でき 単純性嚢胞及び他腫瘍との鑑別に有効と考えられた。一方肝嚢胞腺腫は肝嚢胞腺癌同様の腫瘍内部突出像が見られることがあるためこの二つの鑑別は難しく初検査時にはこの点に留意すべきと考えられた。

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