No.005

腎腫瘍穿刺吸引細胞診の検討
名古屋第二赤十字病院検査部
○瀬古周子、青木光治、加藤正和、浅見美代子、岩政湖乃美、水嶋祥栄、引地睦悦、都築豊徳

[目的]
腎腫瘍の術前穿刺吸引細胞診は欧米では積極的に行われつつあるが、我国では、ほとんど行われていないのが現状である。しかし今後は腎の部分切除術の導入に伴い、組織型を含めた術前診断が必要になると思われる。今回、我々は、腎腫瘍の診断にて摘出された腎臓を用い、試験的に穿刺吸引細胞診を施行し、その細胞像について検討したので報告する。

[対象]
2000年2月から、2001年2月に当院で切除された腎腫瘍18例(淡明細胞型腎細胞癌13例、嫌色素性腎細胞癌2例、乳環状腎細胞癌1例、肉腫型腎細胞癌l例、腎芽腫1例)を対象とした。また正常腎組織l0例を対照とした。

[方法]
手術にて、摘出された腎腫瘍を23G注射針を用いて穿刺吸引を行ない、Pap染色、ギムザ染色標本を作製し、細胞像について検討した。

[結果]
正常腎細胞と腫瘍細胞との主な鑑別点は次のようであった。
1.細胞の重積性集塊を認める傾向は腫瘍において強く、細胞がシート状に出現してい るのは正常の場合が多い。
2.腫瘍却胞においては、細胞の大小不同性および、核に「しわ」を認めることが多い。
3.腫瘍細胞は核クロマチンの増量および核小体を認めることがある。
4.腫瘍細胞はギムザ染色において、正常細胞  とは異なる細胞質の所見を呈した。
5.血管結合繊成分を標本上に認めたものは、すべて腫瘍であった。

腎腫瘍の各組織型別の細胞像の特徴は次のようであった。

淡明細胞型腎細胞癌:他の組織型と比べると採取細胞量は比較的少なく、細胞異型の乏しいタイプでは正常腎細胞との鑑別が難しい場合がある。ギムザ染色において、細胞質が好塩基性に染まり、空胞状に明るくぬけてみえる。

顕粒細胞型腎細胞癌:淡明型の1亜型であるが、採取細胞量は多く、Pap染色において、好酸性の顕粒状細胞質が特徴的。

嫌色素性細胞型腎細胞癌:細胞の大小不同性を示す二相性パターンをしめす。乳頭状型腎細胞癌:採取細胞像は多く、乳頭状細胞集塊を認める。背景に組織球の出現が多い。

[考察]
正常腎細胞と、腫瘍細胞の鑑別は比較的容易であったが、各組織型別分類については、症例により、また細胞のとれかたによって、鑑別困難な場合があった。各組織型別の細胞像の特徴的所見を見逃さないごどが重要である。その際、ギムザ染色における細胞質の染色性が診断の補助となると思われた。これからも症例を増やし、検討していきたい。
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