2015 - 藤田保健衛生大学医学部 第1学年
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読書ゼミナール- 87 -7)塚 本 健太郎(微生物学)前半9コマ「予防接種は「効く」のか? ワクチン嫌いを考える」 岩田健太郎著 光文社新書 “「ワクチンは本当に効くのか?」「副作用は?」「自然にかかるほうがいいのでは?」・・・予防接種が感染症による死者や重症化を減らしてきたという功績は、歴史的に明らかなようでいて、未だにワクチンに対する懐疑的な意見はあとをたちません。最近の話題としては、定期接種に指定されたばかりの子宮頚がんワクチンが「積極的な接種勧奨の一時差し控え」となり、社会的な混乱を招いたことは記憶に新しいことかと思います。また、世界的に医療の優れている国・日本ですが、こと予防接種となると、なぜか先進国の中でも遅れた状態にあります。なぜワクチンは嫌われるのでしょうか。著者は、ワクチン開発と副作用による事故をめぐる歴史も振り返りつつ、今の日本の医療政策、メディア、そして医療の受け手側の問題などを一つ一つわかりやすく説明しており、ワクチン接種という白黒つけにくい問題に対してできるだけ公平な意見を述べています。本書を通して、ワクチンの本質について考えてみましょう。”  鏡   裕 行(数学)後半9コマ「新しい自然学-非線形科学の可能性-」蔵本由紀著 岩波書店 “医学は自然科学であるが、その自然科学の基礎となる理学の中でも、最も普遍的な基本法則を探究する学問が物理学である。20世紀に大きな進展を遂げた科学を物理学はリードしてきたが、普段の我々の認識の及ばない遠い「天体の運動や極微の世界については、実に見事に予言する現代の科学だが」、強風にあおられた風船の運動のような「ごく身近な世界についての素朴な問いの大半にはまるで答えられない」という無力さも併せ持っている。著者の蔵本は、このような「不均一な物理学」の原因を、純粋物理学が長い間「要素還元主義」的な考え方に支配されていたことにあるとし、地上の複雑現象そのものに潜む「普遍の原理」を探究しようとする「非線形科学」にこそそのギャップを埋める大きな可能性があると言う。そして、この「新しい自然学」ともいうべき手法において、より一層、「自然は数学の言葉で書かれている」ということを「従来にもまして思い知らされる」と。 最近では、大脳生理学、生態学、発生学といった医学に関わる問題の研究が物理学の「学術誌の誌面を飾ることも、今ではごく当たり前のこととなっている」現在、「堅固で壮麗な建築物を思わせる伝統的な物理学」の世界を俯瞰しつつ、物理学の新たな潮流について思考を巡らせてみることは、これからの医学を志す皆さんにとっても意義あることではないだろう

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