2015 - 藤田保健衛生大学医学部 第1学年
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読書ゼミナール- 90 -にそろっている。そこへ青い色素を作るメカニズムを移植すると、当然のことながら競合や干渉が生じる。したがって、薔薇の酵素でじゃまになるものについては、これを除去する必要がある。また、せっかく合成された青い色素が安定して存在する細胞内環境を整えないと、薔薇は青さを保てない。そのために色素を安定化する仕組みもツユクサから持ってくる必要がある。 ハカセは根気よくこの作業を一歩一歩進めていった。薔薇を青くするための遺伝子を移植しつつ、薔薇にあって不必要な遺伝子を除去する。何年か後、とうとうFハカセは可憐な薔薇を咲かせることに成功した。花は鮮やかな青色に輝いていた。 ハカセは気がつかなかったが、その花はどこから見てもツユクサそのものだった。(「青い薔薇」“はしがきにかえて”から引用) “動的平衡”とは何でしょうか? 著者は以前ハーバード大学で研究をしていた分子生物学者です。問題提起がきわめてうまく、とても面白く読むことができる科学エッセイです。著者の主張に無理がないか、注意を払いつつ読み進めたいと思います。 各章のタイトル: 1)脳にかけられた「バイアス」、2)汝とは「汝が食べた物」である、3)ダイエットの科学、4)その食品を食べますか?、5)生命は時計仕掛けか?、6)ヒトと病原体の戦い、7)ミトコンドリア・ミステリー、8)生命は分子の「淀み」”  近 藤 一 直(薬理学)後半9コマ「山椒大夫・高瀬舟」森鴎外著 新潮文庫 “小学生の頃だったか、「安寿と厨子王」の表題で書き下ろされたものを読んだ覚えがある。その時は単なる有名作品という程度の認識だったが、作者が作者だけに実は奥が深く、「犠牲の意味を問う作品」などという難しそうな書評もある。物語の舞台が奥丹後の由良であることを近年知ったのがきっかけで、読み直してみようかと思い立った。安楽死の問題をみつめた『高瀬舟』も、私たちが避けて通れない話題かも知れない。 蛇足ながら作者の森林太郎(本名)は東大卒のエリート軍医であったことも忘れてはならない。そんな、私たちにとって縁浅からぬ立場からの、然し特異な視点で描かれた逸品ではないかと思う。”

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