新聞誌上で紹介された研究

 この度、嶋田 誠(藤田保健衛生大学 総合医科学研究所 遺伝子発現機構学研究部門 講師)が文部科学省科学研究費・新学術領域の研究チームに参加して進めておりました研究内容が、新聞(中日新聞夕刊2014年1月11日) で紹介されました。 報道された研究内容は以下の通りです。
 私たちが両親から受け継いだ遺伝情報には多くの情報が含まれています。 それぞれ同じ働きを担っている遺伝情報どうしを比べると、いくつかの異なった型がある場合があります。(一般に、アフリカの民族には多様な型が存在しますが、 その他の民族には似通った型が多く存在する傾向があります。)このような型の分布状況を調べることで、それまで人類集団が経験した歴史を知る事ができます。 現代人がアフリカで誕生し、アフリカを出て世界各地へ拡大する約20万前〜3万年前の間に、当時ユーラシア大陸に生存していた旧人との混血を経て、現代人中に受け継がれるようになった型が現代人の中に一部混じっています。 本研究では、このような旧人由来と考えられる型よりも、一般的現代人の型と比べて、さらに違いの大きい型も現代人集団中に存在していることを示しました。
 本研究案を提案して参加しました、 文科省科研費・新学術(交替劇)研究チームは、かつて同じ時代に同じ地方で生活していた旧人と現代人の祖先について、 なぜ旧人が絶滅し現代人が生き残ったかという問題を、学習能力・学習行動における違いが両者の明暗を分けたとする仮説を立てて検証しています。 本研究案は、現代人の中で、他の一般的型との違いが異常に大きい型を示す、遺伝情報が脳・神経系に関連することが多いという印象から、提案されました。
 現在、遺伝情報を解読する技術が加速度的に進み、千人規模で現代人の個人全遺伝情報が公開され、研究に利用されています。 一方、化石人骨から遺伝情報を読み解く技術も進歩し、ネアンデルタール人および ほぼ同時代のシベリアの地層から発掘された、デニソバ人の遺伝情報も公開されています。 本研究では、それら旧人の遺伝情報を比較対照しながら、多数の現代人の遺伝情報を互いに比較することで、統一的尺度でそれぞれの型の違いの程度を表しました。
 本研究により、遺伝情報の種類によっては、非常に異なる型が現代人集団にも存在することが明らかになりました。 今後、詳細な情報を提供できるように発展させることで、各種疾患のかかり易さや治療薬の種類・必要投与量の違いを詳細に提供できるようになることを期待しています。 同時に、多様な遺伝的な型の存在により、社会の構成員に幅ができたことが現代人集団の生き残りにどう貢献したか、他の研究分野との連携により、明らかにされることも期待しています。
 本研究は、文部科学省科学研究費・新学術領域「ネアンデルタールとサピエンス交替劇の真相:学習能力の進化に基づく実証的研究」 および一般財団法人 斎藤報恩会 学術研究助成の資金的援助により行われました。
 また、米国Rutgers大学(現Temple大学)の Jody Hey博士の研究室に本研究実施者が在籍時に行った現代人集団遺伝学の研究(Shimada MK et al. 2007)が構想の源になっています。