自殺

自殺の対処が上手な精神科医は実は自殺をあまり(全く)経験しないが、一方下手な精神科医は多くの自殺を経験する。

→他者の経験からよく学ぶこと。失敗しなくても上手な人は上手。

 

精神科医は職業として自殺を扱う。不断の学習による知識・技能の向上に専念すること。不十分な準備しか持ち合わせない精神科医にとって患者の自殺は精神科医自身をも破壊する。そうした医師は自殺に直面したとき、否認や合理化といった安っぽい防衛規制で何とかしようとするが、心の芯に打ち込まれた朽ちた杭を簡単には癒すことはできない。

 

自殺の事実

自殺の9割は何らかの精神疾患がある

→例えば借金苦や病苦のみでの自殺は5%にもみたない

日本は年間3万人以上の自殺者で年々増加傾向先進国ではドイツと並んで最も自殺率の高い国である

40,50歳代男性の死因1位である

自殺企図は女性がやや多いが、完遂者は男性が多い

完遂者は単身者、何らかの疾患がある、高年齢が多い

→様々な治療法が進歩しているにもかかわらず減少どころか増加している

5-HT減少との関連が指摘されている

 

自殺の評価

自殺の方法(致死的か否か)と状況(発見されやすいか否か)、疾患(気分障害・統合失調症等か、人格障害等か)について評価する

Parasuicide—準自殺

 

気分障害の自殺

自殺者の45%−77%が気分障害

気分障害の15%が自殺企図(7%が完遂3%という報告も)

大うつ病の場合最初の3ヶ月が最も危険発病後5年間はハイリスク

未治療の双極性障害は20%の自殺完遂率

治療中であれば双極性・単極性にあまり差はない(10%弱)

躁うつ混合状態やbipolar IIはハイリスク

 

統合失調症の自殺

10%が自殺を完遂、若年者が危険

最も自殺がおきるのは、精神病相期を脱した後の回復期の抑うつ状態

→多くの精神科医は精神病症状が激しいと入院させるが、精神症状がない抑うつ状態だけだとあまり入院させない。

自殺企図と命令性幻聴がある場合はハイリスク

自殺はうつ病と同様、「望のなさ・絶望感」から起こるが、主に自分の病気への洞察が根本にあり、うつ病のような簡単な認知療法的アプローチでは扱えない

患者の自己に対する認識、現実見当識、社会適応技能、サポートシステムについて常に慎重に評価することが重要

 

アルコール・薬物依存の自殺

米国では自殺完遂者の25%がアルコール依存

多剤薬物依存若年者の7割弱が自殺を完遂、30歳以上でも4割強

 

境界型人格障害の自殺

完遂率は3−8%、主に他の精神疾患が合併している

parasuicideが多い

多くは他の参考文献を参照

→主治医としてBorderlineの自殺企図を扱う場合、面倒でもしっかりした構造の精神療法を提案するのが私のやり方。治療に乗る人はacting outはほとんどしなくなるし、だめな人は治療そのものにのらずどこかへいってしまう(他の医者を捜して流れていってしまうよう)