自殺への対処法
自殺の精神療法
最も大事なのは家族(場合によっては友人—その人にとって重要な対人関係にある人)への働きかけ。親密な家族関係、社会的な対人関係がある人ならば、手間かもしれないが最も有効。そういったものが欠落している人は特にハイリスクになる。
患者個人への対応では、
自殺に特有の精神療法技法などはない。
「死なないと約束する」といわれているが…
治療者の転移に注意—「自殺されては困る、何とかしてあげたいが他にどうしてよいかわからない」といった治療者自身の不安を安心させるためにいっていないか?
逆転移にも注意—「どうしようもない」「何とかしたいが何をすればいいのかわからない」「とにかく混乱してしまう」「死んでしまったらどうしよう」といった感情は実は患者自身の内的感情に対する逆転移である場合も多い。逆転移は不安・怒り・悲しみ・困惑といった患者の内的状況を察知するよい探査であり、介入への糸口として十分に吟味すること。
→精神科医は‘自殺’という非常に特殊な状況に対して職業的に対応することを訓練されたプロである、従って上記のような感情に治療者が簡単に囚われてしまうのは多くは逆転移(もちろん実際に訓練されていなく途方に暮れてしまう人もいるかもしれないが)であろう。
死なない約束は当初は有効であろうと思うが、病歴の長い人になると、「先生にも他にどうして良いかわからないのだ、不安だからとにかく約束させたいんだな」と見透かされてしまうものです。むしろ患者の絶望感を補強する結果になるので、私は初診やまだ出会って間もない人以外にはむしろ言わないようにしています。もちろん自殺に対する様々な対応法を心得ており、今の患者の状況に対して適切な処置を選択しているというのが前提ですが。できない人はせめてもの波止めになるかもしれませんから、禁じ手といっているわけではありません。約束は一回でいいと思いますが、ただ一回はすべきでしょう。最近私の初診場合多くは「死んではいけない」と指示的にいうだけで、約束はあまりしません。ただ病勢が強く一時的に危険な状況も次の外来までにありうるかなと感じる人に対しては使います。希死念慮の強い人を外来でみる場合は、もちろんですが頻繁に来院させます。通常週2回で、ハイリスクの人は病歴の長い人でも毎週こさせます(これはSchizoの人がほとんどですが)。
→最も有用なのは治療者—患者間の信頼関係(治療同盟)を再認識しあう作業を共感的態度で注意深く行うこと。もちろん全ての精神療法的技能を総動員するのは言うまでもない。
その中で認知行動療法をもちいること。特に抑うつの場合は有効。
望みがない、生きていてもしょうがない→自殺という認知モデル。
自動思考は‘望のなさ’であるが、この認知は病状によって歪んでいるという図式。「今はそうとしか思えないが、回復すればそのように思わない」とか、もっと短絡させて「必ず良くなるから死んではいけない」というのはこの認知モデルを治療者側が一方的に提示しているにすぎない。時間をかけ患者自身が認知の修正をはかれるよう支援する。—実際に自殺を試みる場面は患者一人の時に他ならず、その時に患者が自力で認知を修正できないと行動変容(自殺をおもいとどまる)には至らない可能性が高い。
自殺への対処は希死念慮の同定と評価からはじまり、入院を含めた行動制限、薬物療法の調整、様々な社会資源の動員とあらゆる方策を総合的に集約することが必要で、診察室での精神療法はむしろ補助的なものと限界を認知しておく。一方治療者の一言で患者を死から救える(た)のではないかと常にブラッシュアップに心がけること。
身体的療法のポイント
・ 入院の必要性の判断
・ 行動制限のやり方(外出制限、薬物や刃物の扱い等)
・ 治療薬の再考—三環系の投与量など
・ 薬物療法
DA遮断薬の使用
SSRI(含む他の抗うつ薬)のparadoxical effectについて
→薬剤性アカシジア、一時的な5-HT欠乏
・ ECT—ただし過剰評価しない(一時しのぎ)。
・ Li中断による自殺率の上昇に注意。