疾患関連遺伝子同定の手順



1.はじめに

ほとんどの精神疾患は複数の遺伝的要因と環境要因によって発症にいたる多因子性疾患であると考えられる。ここで言う遺伝的要因とはすなわち疾患関連遺伝子に他ならず、その同定の試みは精力的に行われてきているが、現時点では未だ確固たる成果を得たとは言えない。しかしながら、方法論的な進歩はめざましく、後で述べるように全ヒト遺伝子解明も目前であり、近々成果を上げることが十分予測される分野である。本論の執筆時点でも、方法論は流動的であり、出版時点では全く新しい方法が発表されている可能性が高いことは想像に難くない。

本稿においては、一般的な疾患遺伝子の同定についての概略は他の成書17)を参照していただくことにして、多因子座位の同定から候補遺伝子の選定、その後の変異検索という流れの中で、現時点において実際上研究に有用と思われるトピックスについて取り上げ概説することとした。引用した図117)は疾患遺伝子同定手順のフローチャートであるが、複合多因子疾患に関してもこのうちの幾つかのルートに従っていくことにする。

 

2.精神疾患関連遺伝子の同定

a. データ収集

 第一になすべきことは、着目する精神疾患について臨床情報を集積し、その上で臨床情報の伴ったDNAを収集することである。ここでいう臨床情報とは診断、重症度、家族歴の有無といった情報に加え、その患者の持つあらゆる表現型と考えて良いだろう。近年脚光を浴びているPharmacogeneticsに必要な臨床情報としては、薬剤への様々な反応性(効果、副作用含めて)である。診断にかんしては前章T−Eでも述べられたとおり、可能な限り構造化面接に基づく統一された診断基準に従っておこなう必要があろう。薬効判定等に使用する様々な評価尺度に関しても同様の配慮が重要である。

b. 候補遺伝子の選定

 候補遺伝子選定のためのアプローチとしては、ゲノム位置情報に基づくものとそうでないものに伝統的に分けられてきたが、精神疾患に関してはゲノム位置によらないアプローチを可能にする病態生理の解明がなされていないケースが主であるため、仮説に基づいて仮説を立て、候補遺伝子を探索するがごとき方法がとられ、現在に至るまで確証的な結果は何一つ得られていない。一方位置情報を積み上げて候補遺伝子の的を絞っていく方法(ポジショナルクローニング)についても、多くの精神疾患が多因子要因(ポリジーン)であり、かつまた技術的問題から、再現性のある位置情報は得られていないのが現状である。
候補遺伝子座位位置情報の検討(全ゲノム関連研究)
 ヒトゲノム情報の90%が2000年3月に公開されるに予定であり2) (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/genome/guide/)、同時にゲノム上でのより精密な地図作製に一塩基置換変異(Single Nucleotide Polymorphisms)SNPs (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/SNP/)が利用可能になれば、位置情報検討に関する事態は大きく変わることになる。ヒトでは遺伝子全塩基配列約30億塩基対の中で、500から1000塩基に一つは多型(変異)、SNPsが存在するといわれており19)、その総数は300万個以上にもなる。従前のDNAマーカーであるRFLP(〜数千)やSTR(〜数万)に比べてSNPsはより超高密度なマーカーとして利用できる。すなわち、ゲノム全体に亘るSNPsを利用した関連検討が可能となり、これによって1cM程度の精度で疾患感受性座位が検出可能になることが目前に迫っているわけである。したがって、今後は全ゲノム関連研究を行えるデータセット、具体的には発端者とその両親の3名のtriadを300-1000組用意し、全ゲノムにわたってSNPs地図を利用してゲノム上での感受性候補座位を同定することが主流になるのではないだろうか。その後ヒトゲノム計画が公表している地図から候補位置に存在する遺伝子について変異探索同定を行い、着目する表現型との病態生理との関連を明らかにして、疾患関連遺伝子の同定となる。

 SNPs mappingについて、当初全ゲノム領域を探索するには500,000座位のgenotypingが必要と言われてきたが19)、最近の報告ではその5分の1程度でも可能と言われている10)。しかしながら、もしそうであっても1個体につき10万SNPs X 1200(400triadとして)のgenotypingを行うとすると、現在のPCR技術をベースとしたテクノロジーではコスト的にも時間的にも大きな障壁とならざるを得ない。そこで、注目されるのが“ハイスループット”といわれる大量データ解析技術であり、その進歩はまさに日進月歩で、本稿作成時点でも次々と新たな技術革新のニュースが入ってきており、今後どの方法が汎用として用いられるかは未だ不明であり、各人の予算や人的時間的制約に従って選択されるべきものと考えるが、主立ったものを以下に概略してみる。

 

3. SNPsタイピング

a.   Hybridization (DNA microarray)
DNAチップ法としてT−Kにて詳細されている。概略だけ紹介すれば現在、主に開発されているDNA Microarrayチップ技術は大きく分けて二つの方法がある。いずれも小さなチップ上に数千から数万種類の遺伝情報が組み込まれる。一つはAffymetrix社(http://www.affymetrix.com/)に代表される基板上にオリゴヌクレオチドを合成する方法であり、もう一つは合成オリゴヌクレオチドやcDNA等をチップ上にスポットする方法である。各々の方法で装置の改良またチップの新規作成が行われている。
DNA チップを用いた遺伝子の塩基配列決定
基板上にオリゴヌクレオチドを合成する方法で作成したDNA チップを用いると、塩基配列決定(または変異の同定)が可能である。原理自体は3で紹介する
Genetic Bit Analysisを応用したものである。解析する対象が膨大な場合、従来の方法では時間がかかりすぎ現実的に対応不可能であったが、DNA チップを用いた遺伝子の塩基配列決定方法であれば、この問題を解決することができる。既にAffymetrix社からは1500スポットをターゲットにしたヒトSNPs解析チップが販売されているGeneChip™ HuSNPhttp://www.affymetrix.com/products/HuSNP.html)。

(以下網掛け部位はは囲み記事とする)
Pyrosequencinghttp://www.pyrosequencing.com/index2.htm
電気泳動ゲルを用いず、96穴のプレートに分注したPCR増幅断片にシーケンス用プライマーと4種の酵素(DNAポリメラーゼ、ATPサルファリアーゼ、ルシフェラーゼ、アピラーゼ)を加えることによって、プライマーからの1塩基ごとの伸長反応を計測して目的部位のDNA配列を最大30塩基までパラレルにシーケンシングする全く新しい原理のシークエンス法。14)具体的には、毎回4つのdNTPを順に各ウエルに注入し、DNAポリメラーゼによって伸長反応が起きた際に生じるピロリン酸(PPi)をサルファリアーゼによってATPに変換し、このATPをエネルギー源としたルシフェラーゼによる発光をCCDカメラで計測する。毎回の反応の際に利用されなかったり余剰となったdNTPによるバックグランドは、アピラーゼによる分解で除去する。96穴プレートを1時間で5枚処理でき、ハイスループットに対応している。また、ビオチンを結合したPCRプライマーを使用すれば、96穴プレート上で行ったPCR反応から、シーケンシング反応に移す処理工程が簡便化され、カラム等の精製処理も不要という。

b.   TaqMan 5’ exonuclease assay
原理はTaqManケミストリーと呼ばれるもので主にリアルタイム定量PCRに用いられる方法3)だがSNPs genotypingにも応用されている8)。2種類の蛍光色素が一定の空間的距離を保っている場合は、共鳴エネルギーの移動現象によって蛍光強度が低下しているが、その2種類の蛍光色素の物理的距離が離れると蛍光強度が増加することを利用し、この蛍光強度の変化をアルゴンレーザーで検出する。まず、5'末端側にレポータ(Fluorescein系蛍光色素)を、3'末端側にクエンチャー(Rhodamine系蛍光色素)をラベルした、PCRのターゲット領域(20mer30mer)に特異的に結合するプローブ(TaqManプローブ)を作成する。このTaqManプローブと、PCRプライマーを用いてPCRすると、TaqManプローブが完全に結合した状態ではTaq DNAポリメラーゼの5'-3'エキソヌクレアーゼ活性により、5'側から加水分解される。その結果、5'末端のレポータ色素が3'末端のクエンチャー色素から離れ、蛍光強度が増加する。TaqManプローブが完全に結合しない場合は加水分解されないため、蛍光強度は増加しない。TaqManプローブを既知のSNPを含む領域に設計すると一塩基置換の検出が可能。要点はプライマーの設計とそのコストであるが、アプリケーションとして確立されれば多数検体でのSNPs genotypingに簡便・迅速に対応できる。

c.   Genetic Bit Analysis
固相化プライマーの伸長によりDNA塩基配列の違いを検出する手法。具体的には、増幅DNAをテンプレートとし、SNPs直前に設計したプライマーと4種のddNTPsのみでポリメラーゼ伸長反応を行うと最初のSNPs部位に対応したddNTPを一分子取り込んだところでこの反応は伸長しなくなる。この後取り込んだddNTPがどの塩基であるかを様々な方法で検出する。原法は各ddNTPを別の蛍光色素でラベルしておき、伸長反応後ラベルされたプライマーを識別することにより、SNPsを判定する(図212)。この方法がDNAChipにも応用されていることは既に述べた。最近では取り込んだ一塩基配列の質量の違いをMALDI-TOF (matrix-assisted laser desorption ionization-time of flight) Mass Spectrometory (MS) (http://www.biospec.pbio.com/biospecasp/)と呼ばれる高感度質量分析計技術を応用して検出する手法が開発されている。1分間に4−5検体の処理が可能で、かつマルチプレックスPCRにより1検体中の複数のSNPsを同時にタイピングできる。ハイスループットを遂行するのには現時点で最も有力な手法ではないかと注目されている。

d.   Invader
上記の方法は全ていずれかのステップでPCRによるテンプレート増幅が必要であるが、ハイスループットを押し進めるにはコストのかかるPCR抜きの高速・大量・安価技術の開発が必要である。
Invader」技術は、DNAまたはRNAの特異的な配列に対し、あらかじめ設計したプローブが結合した場合のみ、特異的に切断する酵素「Cleavase」によりプローブの一部が切断され、これを検出する技術である(図315)。感度が高いため、事前にPCRでサンプルを増幅させる必要がなく定量も可能。最近この技術の特許をABIが買収取得しており、同社の塩基配列同定システムに今後組み込まれて市販される予定である。

e.   Rolling Circle Amplification
DNA
複製時に鋳型が環状分子であると、一方の鎖のみを複製して環状分子のコピーをつくるという事象(ローリングサークル方式)6)を応用してSNPsをタイプする技術である9)図4はこの原理を概略したものである。85 ntの環状プローブが両端に20 ntの標的領域と相同の配列を持ち、6-10 ntのギャップをつくる(図4a)。このギャップを埋めるそれぞれのSNPsに対応した配列を持つプローブを加え、DNAリガーゼを作用させることで‘南京錠’のように標的DNAに絡みついた環状分子が生じる(図4b)。ここでポリメラーゼを作用させると、この環状分子が何回転も増幅した多量体が合成され、標的とギャッププローブの配列がマッチしたときに限って環状分子が合成される(図4c)ので、この環状分子を検出することによってタイプする。原理的には標的DNAが一分子であっても検出できるという優れた感受性と特異性を兼ね備えている。さらに、反応が一定の温度下で連続して行えるのでPCRのように温度を何度も変える必要がなく短時間で検出できる。
この原理をDNAマイクロアレイに応用して、同時に大量のSNPsをタイプする方法が開発されている。図5に示したように固相化プライマーP1と標的DNA (T)をまずハイブリダイズさせ、それにmutant (P2mu) wild type (P2wt)に対応した配列と別々の配列 (赤と緑)を含むプライマーを作用させると、対応したプライマーのみがハイブリダイズしリガーゼで連結される。その後チップに固定されなかった余剰のプローブや標的DNAを取り除き、それぞれに対応した環状プローブを作用させローリングサークル増幅を行う。増幅した産物を特異的に識別する蛍光標識したDNP-オリゴヌクレオチドタグを作用させ、それぞれの蛍光を検出することでタイプする。本法の感度は先にも述べたとおり非常に高いので標的DNAの増幅が不要である。しかも反応がうまくいかない場合はシグナルが検出されずfalse positive となることがあまりない。d.Invader」技術と並び今後のSNPsタイピングの本命とも言える。マイクロアレイチップ一枚と毛根から抽出した微量DNAのみで全ゲノムSNPsタイピングが数時間で可能となる日が近いのかも知れない。

 

3. 変異検索の手法

 疾患感受性位置情報がある程度得られた段階で、さらに高密度のSNPsマッピングを行い位置情報を狭めていくと同時に、着目座位にマップされている遺伝子のなかから、疾患病態生理等から候補と考えられるものを選択して、変異検索を行い、疾患との関連性の高い変異を同定していく必要がある。もちろん位置情報なしでの候補遺伝子アプローチでも同様の変異同定検索をおこなうことになる。

 従来、変異検索には様々な方法が用いられてきた。最も直接的なダイレクトシークエンス法はシークエンス技術の進歩とともに現在でも重要な方法で次に述べる。他には特定位置の塩基置換だけを検出するという目的に合致した合成オリゴヌクレオチドと標的塩基配列とのハイブリッド形成の有無を利用したアレル特異的オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション法、標的RNAプローブと標準DNA断片とのハイブリッドをリボヌクレアーゼAで処理し、ミスマッチ位置でのプローブRNAの切断によって塩基置換の存在とその位置を知るリボヌクレアーゼAミスマッチ切断法、PCRで40個ほどのGC塩基配列:GCクランプをもつDNA断片を作成し変性剤濃度が徐々に変化するポリアクリルアミドゲル上での電気泳動で検出するDGGE法等が行われてきた。ここでは現在主に用いられている変異検索方法について、筆者らの使用経験を含めて概説する。

a.   Direct sequencing
着目する領域が小さいか、もしくは検索すべき個体が少数の場合は、direct sequenceを行うのが最善であろう。特に96検体を同時に全自動で解析できるキャピラリーアレイ型DNAシークエンサー(ABI3700, ファルマシア MegaBACE 1000等)が利用可能で、かつまた消耗品費に余裕のある場合は第一選択である。PCRの条件次第では2−4名のtemplate DNAをmixしてスクリーニングしても十分検出可能である。
 キャピラリーシークエンサーの対抗馬として1999年10月に、水平ゲルDNAシーケンサー(BaseStation)が国内でも入手可能になった。シーケンスの原理1)はサンガー法であり、水平ゲルによる電気泳動を行い4色蛍光色素で判読する点は従来通りであるが、光学系の改良によって測光部位を小さくすることにより泳動時間が短縮された。さらに検出感度も高くなり、テンプレートを最大通常の3200倍に希釈可能となったので、泳動前の精製が不要となった。したがって試料調製コストが40分の1以下と経済性も優れている。自動試料ロード装置や自動フォーカス装置により完全自動運転での96検体の同時解析が可能だとのことである。
蛍光シークエンサーは価格規模に応じて様々なものが入手可能であるため、各施設の目的と予算に合わせて機器を選択することになろう。

(以下網掛け部位はは囲み記事とする)
最近マイクロチップの最新微細加工技術であるLIGA (lithographie galvanoformung abformung) プロセス等を利用したマイクロチップ型マイクロチャネルアレイ電気泳動装置が開発され16)、DNAフラグメント解析、マイクロサテライト解析、多型解析、シークエンシングに応用されており注目に値する。この方法を用いれば、96サンプルの解析がわずか5分以内で可能。Direct sequencing についても条件を調整することにより570bpの解析を20分で行うことが可能で7)、現在のDNAシークエンサーと比較し100倍以上の高速化を達成できる。今後ポストゲノムシークエンシング時代のゲノム解析技術の主流になりうるものとして注目しておく必要があろう。

 

b.   SSCP法 (single-strand conformational polymorphism)
 従来から最も汎用されてきた方法である。比較的簡単な手技で多数の検体を短時間・低コストで検索可能である。二本鎖DNAは一本鎖に解離させた時に独自の高次構造を取る。この解離したDNA鎖を変性剤を含まないポリアクリルアミド中で電気泳動すると一塩基置換が存在しても移動度が異なることを利用して検出する13)。以前はアイソトープでラベルしたり銀染色を行っていたが、現在は蛍光フラグメント解析装置を用いた方法が一般的となっている。ゲルやバッファーの組成、泳動温度の管理等が重要であるが詳細は文献を参照されたい11)。我々はファルマシアのALFExpress II を用いて、主にアクリルアミド:ビス=49:1のゲルとLow-pHバッファー(TMEバッファー)5)、20、25、30℃の三点で検索しており大変良好な結果を得ている。
 キャピラリー泳動装置(ABI310)を用いた方法もあり4)こちらの方が再現性や感受性が高い。ハイスループットには向かない弱点があるといわれているが、10検体までならtemplateをmixしても検出可能である。ただし、キャピラリー泳動装置を用いる場合も様々な条件管理や充填剤を調整するのがポイントであり詳細は文献を当たっていただきたい。

c.    DHPLC法
(denatured high-performance liquid chromatography)

本法は現時点で最も簡便かつ低コストな方法として従来のSSCP法に取って代わってきている18)。原理自体は温度調節ヘテロ二本鎖分析(TMHA: Temperature modulated heteroduplex analysis)で、変異を含むPCR産物と参照DNAを混在させ加熱再重合させヘテロ二本鎖とホモ二本鎖とをHPLCで分離するというものである(図6)。フラグメント分離用のカラムとHPLCの組み合わせでシステムとして市販されている (WAVE™ Nucleic Acid Fragment Analysis System, Transgenomics: http://www.transgenomic.com/index.html) 。Tmの設定が変異検出感度を作用するポイントであるが、付属するアプリケーションソフトによって計算された予想Tm値をもとにして、上下2℃の三点でスクリーニングすればよいようである。筆者らは他社製の同等と考えられるカラムを汎用のHPLCシステムと組み合わせて検討してみたが、専用のカラムが変異検出には優れていた。再現性やシステム管理上でも現時点ではWAVEシステムが優れているようだが他社も低コストのものを随時開発しているので今後も注目しておく必要があろう。カラムのみならず、イオン濃度が微妙に関与するのでHPLCシステム全体を特殊加工しないと再現性に問題が生じるようである。本法をSSCP法と感受性に関する検討を行ったところ、同等か優位であった。弱点を言えばSSCPよりもクリーンなPCR産物が必須でSSCPの様に少々副産物があってもサイズが大きく違えば解析可能というわけにはいかない。PCRの条件設定がポイントになるので、幾つかのオプティマイズを試してうまくいかないときは新たなプライマーを設計し直す方が結局早いようである。
DHPLC法は機器の価格がSSCP法に比べて高値であるが、導入できれば、消耗費・人的労力は最も少なく忙しい臨床教室にはうってつけの機器であろう。   

 

4. 今後の展望

ポスト・ゲノム時代という表現が現実味を増してきており、その課題としてゲノム機能解析、ゲノム多型解析、プロテオーム解析等が上げられている。これらの課題を遂行する上で、高機能解析技術の進展が大きな影響を果たしている。最先端と考えられた技術が一年後には誰も見向きもしなくなる例もすでにあり、技術革新がますます加速している現況を考えると、本稿執筆時では最新と考えられる内容も出版時には既に用をなさない可能性がある。研究者としては常に技術革新をモニタリングしつつ、問題解決に迅速かつ的確に応用していけるか否かが、いっそう問われるのではないだろうか。
 一方、近い将来様々なゲノムデータに基づいた各個人の疾病発症、加齢と遺伝子発現の相関、生活習慣、薬剤服用の有無などをまとめて総合プロファイル化していくことも可能となってくる。このような各分野における多パラメーターの高速かつ一挙解析は、今後生命の複雑系を解明し、医学薬学分野のみならず、多くの分野での未知領域の開拓に大きな進展の鍵を握るだろう。医療分野では、この個人のプロファイルに基づいてレディメイドの医療からカスタムメイドの医療への変革が大きく前進することになると考えられる。21世紀には、ゲノム研究の成果として予防的な医療、あるいは個性に応じた医療が可能となると同時に、生活習慣の改善による健康維持の実現も具体的となることが期待され、精神疾患の克服にも寄与すると考えられる。

 

文献

 

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