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脳血管障害(血管内手術)

はじめに

カテーテルを用いて血管の病気を治療する手術を血管内手術と総称しています。血管内手術が通常の切開する手術と大きく異なるところは、脳の深部の血管で直接には達することができない場合でも血管の中からであれば容易に到達でき治療が可能となることです。また、局所麻酔でも行え、全身麻酔を必要としないこと、切開しないので傷跡が残らないため身体的な負担が小さく、見た目の問題も残らないこと、脳に直接触らないことなどです。

血管内手術は使用するデバイス(カテーテル、バルーンやステントなど器具類一般)の発展に伴い、治療できる疾患の範囲が着実に広がってきています。1970年代に小さいバルーンカテーテルで始められましたが、1980年代に脳内の血管にまで進めることができるマイクロカテーテルができ、1990年代に動脈瘤を塞栓するコイルや狭窄血管を拡げるステントができたことが大きな発展といえます。今年(2010年)は、動脈瘤の治療をさらに効果的にできる動脈瘤専用のステントや血管に詰まった血栓を取り除くためのMerci(メルシー)というデバイス、脳動静脈奇形の治療効果が高まる液体塞栓材料(Onyx)などが新たに使用できるようになりました。血管内手術の発展は止まるところがない、といっても過言ではありません。

血管内手術は通常の切開手術とは手技が大きく異なるので、当科では専門のチームを作って治療に当たり、年間200~250件の血管内手術を行っています。

血管内治療部門担当医師

■ 認定医制度について

上述のように脳神経系の血管内手術は近年著しい進歩を遂げており、これに用いられるカテーテル、機器類や塞栓材料なども多岐にわたっています。これら器具・材料や上記の疾患に対する専門的な知識や手技を習得することは血管内手術を安全に行う上で不可欠です。
このような背景を反映し、2000年11月に脳神経血管内治療学会により認定医制度が実施されました。同学会の定める認定医には指導医、専門医があり、いずれも血管内手術の経験数や、専門的知識を問う筆記・実技試験などをもとに認定されます。

■担当医紹介
定藤 章代 [Akiyo Sadato]
脳神経血管内治療専門医・指導医
早川 基治 [Motoharu Hayakawa]
脳神経血管内治療専門医・指導医
安達 一英 [Kazuhide Adachi]
脳神経血管内治療専門医
前田 晋吾 [Shingo Maeda]
脳神経血管内治療修練医

2009年 手術数

総数
251
(balloon test occlusion等の検査は含まない)
動脈瘤
88
└瘤内塞栓:80(破裂:17、未破裂:63)
└親動脈閉塞:8
脳動静脈奇形
29
硬膜動静脈ろう
18
急性閉塞性血管障害
38
└血管攣縮:17
└血栓・塞栓症:21
慢性閉塞性血管障害
60
└頸動脈ステント留置:51
└その他:9
腫瘍
8
その他
10

※脳神経系の血管内手術には、出血性疾患(脳動脈瘤、脳動静脈奇形、硬膜動静脈瘻、腫瘍など)を中から詰める「塞栓術」と動脈硬化や血栓による血管の閉塞や狭窄をバルーンカテーテルやステントを用いて開通させる「血栓溶解・除去術、血管形成術」があります。いずれも当科では積極的に行っており、さらに脊椎の圧迫骨折に対して針を椎骨に刺してセメントで固定する椎体形成術も行っております。

代表的な病気に対する脳血管内手術について解説します。

■ 脳動脈瘤

脳の血管にできるこぶのことで、破裂すると、くも膜下出血になります。未破裂のものでも近接する神経などの圧迫により症状を生じることもありますが、一般には未破裂のものでは症状が無いことが多く、脳ドックや他の疾患に対する検査中に偶然に発見されたりします。治療は開頭手術によるネッククリッピング手術か、血管内手術により動脈瘤内をプラチナコイルで充填する方法があります。 (図1)

図1
図1:脳動脈瘤コイル塞栓術の模式図:瘤内に進めたカテーテル(青)からコイル(黒)を押し出して瘤内を充填する。

脳動脈瘤を治療するか否か、また、開頭手術にするか血管内手術にするかは、動脈瘤が破裂したものか、未破裂か、また、部位や大きさ、患者さんの年齢や全身状態など種々の要因を考慮して選択します。いずれの治療方法も手術である以上、数パーセントの合併症の危険性がありますので、専門家とよく話し合って決めることが必要です。検査の結果、大きさが小さいなどの理由で経過観察させて頂くこともあり、その場合は半年~1年ごとにMRAなどで大きさが変化しないかを検査しています。

治療する場合には、5日~1週間程度の入院が必要ですが、手術翌日から歩行可能で、退院後はすぐに日常生活に戻ることができます。

血管内手術がクリッピング術に勝る点は、前述のように切らない、全身麻酔をかけない手術なので、患者さんの身体にかかる負担が小さい(侵襲が小さい、という言い方をします)ことで、高齢の方や心臓病などの動脈瘤以外にも病気を持っている方にも身体的な負担をかけずに治療ができます。欠点は、再開通(いったん充填したコイルが瘤の片隅に押し込まれて瘤内に血液が再び流れ込むようになる)が10~20%程度あり得ること、ネック(動脈瘤の入り口)が広いと中にコイルを収めにくい(はみ出る)点です。しかし、年々コイルやその他の機材が進歩し、治療可能な領域が広がっています。再開通の問題に対しては、吸収性のポリマーで被覆したコイル(商品名:Matrix、Baston-Scientific社)で軽度の炎症を起こして再開通を防ぐものや、初期の充填度を高めることが再開通の予防に最重要であることからコイルの柔軟性を高めたコイル (商品名:ED coil カネカメディックス社)を筆者(定藤)らが開発しました。

また、ネックが広い動脈瘤に対しては、従来はバルーンをネックのところでふくらませてはみ出るのを防ぎながらコイルを充填するテクニックを用いましたがこれでもはみ出るのを防ぎきれないような場合もあり、そのためにステント(網目状の金属製の筒)を併用した治療(図2)が2010年から新たに可能になりました。今後さらに膨潤性のポリマーで被覆したコイルや網目のつまったステント(コイルを追加する必要性が無い、flow diverter stent)など、海外から導入され、より効果的に、より安全に治療ができるようになることが見込まれます。

図2
図2:バルーン併用 (左)、ステント併用(右)
■ 解離性動脈瘤

くも膜下出血の殆どは脳動脈瘤の破裂によるものですが、そのうち、少数派ですが、解離性動脈瘤によるくも膜下出血があります。通常の動脈瘤(真性動脈瘤)は、入り口にくびれ(ネック)のある瘤状に膨れていますが、解離性動脈瘤の場合はネックが無いことが殆どであり(図3)、治療方法が異なってきます。

血管の壁は3層構造になっており、解離はこの3層に外傷や動脈硬化などによってひびが入った状態です。ひびには血液が勢いよく流れ込むため薄くなった血管壁が膨らみ、これが破れるとくも膜下出血になります。また、逆にはがれた内膜(3層の一番内側の層)が血管内腔に突出して血管を塞いでしまい脳梗塞になる場合もあります。

好発部位は椎骨動脈で、特に破裂例や、未破裂でもサイズが大きくなってくる場合は(再)出血の予防のため血管内手術を行っています。

出血した場合、頭痛や意識障害で発症する点は同様ですが、好発部位の椎骨動脈の場合は脳幹に沿って走行する部位であるため、出血の影響が脳幹に及びやすく急激な呼吸障害などで致命的になることが多い印象があります。また、いったん自然に止血されても再破裂すると致命的になる率が大変高くなります。脳ドックによる早期発見・予防治療ができるかどうかについては、一般に、通常の真性動脈瘤が小さいところから徐々に大きくなってきて破裂するのに対して、解離性動脈瘤はある日突然に血管壁にひびが生じて急激に膨らみ破裂に至るため、脳ドックによる早期発見・予防治療ということはできません。時に脳ドックで偶然に未破裂・無症状の解離性動脈瘤を発見することがありますが、このような慢性期の解離性動脈瘤は、破裂しやすい急性期を過ぎているため、経過観察にするのが一般的です。

(再)破裂予防のために治療を行う場合は、ネックの無い動脈瘤であるため、膨らんでいるところを椎骨動脈ごと閉塞する方法が一般的です。近年は血管内手術でカテーテルを用いて、動脈瘤内にコイルを詰める方法が多く用いられます(図4)。

椎骨動脈は左右にあり、一方が閉塞しても脳への血流はもう一方から流れる構造になっているため、このような方法が可能になるわけですが、個人差もあり、生まれつき一方の椎骨動脈が非常に細かったり欠損している方もあります。また、解離性動脈瘤の部位から血管分枝が出ていることもあります。このような場合は椎骨動脈ごと閉塞させると脳への血流や血管分枝の血流を途絶えさせてしまうことになり、行えません。このような例は多くはありませんが、個人的な経験上は20%程度にのぼります。椎骨動脈自体の血流は途絶えさせずに再出血を極力抑える方法として、10年前からステント(金属製の網目状の筒)を使った治療を行ってきており(図5)、2009年3月に行われた脳卒中の外科学会で発表しましたが、同様の発表は殆ど無く、経験豊富な限られた施設でしかできない治療であることが窺われました。

図3   図4   図5
図3   図4:コイルによる解離性動脈瘤の閉塞   図5:ステント・コイルを用いた、血流を遮断しない治療方法

しかし今後は血管内手術の指導医・専門医も増えつつありますし、ステントによる治療も増加・発展することが期待されます。

■ 脳動静脈奇形

脳動静脈奇形は先天的に脳血管の一部に毛細血管を介さない動静脈の短絡が生じたためにできた異常血管塊です。10~20歳代で発症することが多く、主な症状は出血、痙攣、頭痛、周辺の血流低下による脳の機能低下(運動麻痺・言語障害など)ですが、最も多いのは出血で、年間の出血率は1~2%といわれています。また、一旦出血した後は出血率が一時的に高くなることが知られています。生涯での出血率は年間出血率x平均余命で概算することができるので、現在20歳前後であれば60~70%程度になります。

療は、異常な血管塊を全て閉塞させるか摘出するかが必要です。開頭手術による摘出術、放射線治療、血管内手術による塞栓術があり、病変の大きさや部位などによって、これらのうちのいずれか、またはいくつかを組み合わせて治療を行います。血管内手術による塞栓術では、マイクロカテーテルを血管塊の近傍まで進め、硬化剤などで閉塞させます。(図6)

脳動静脈奇形は、部位や大きさなど様々で、流入している血管(栄養動脈)の本数も1本だけのものから多数のものまで様々です。塞栓術はこれらの血管を一本一本にカテーテルを慎重に進めて治療するため、数回の手術を要することもあります。

血管の塞栓に用いる硬化剤としては、従来は手術用接着剤であるNBCA (n-butyl cyanoacrylate)が用いられてきましたが、2010年からは摘出術との併用を前提としてEVAL (Ethylene vinyl-alchohol copolymer: 商品名Onyx)が使用できるようになりました。NBCAとの大きな違いは接着性が無いことで、極めてゆっくりと注入することで血管塊の全体を充填するような塞栓が可能になっています。

図6
図6:側頭葉の脳動静脈奇形(左)(矢印)、NBCAで塞栓術後(右)
■ 硬膜動静脈瘻

脳を取り巻く硬膜に動・静脈短絡が生じるものです。耳鳴りや、頭蓋内出血の原因になります。治療は主に血管内手術によって行われ、種々の塞栓材料を用いて、硬膜上の動・静脈短絡を閉塞させます。

■ 内頸動脈海綿静脈洞瘻

上記の硬膜動静脈瘻や外傷などによって起こり、眼球運動障害(複視)、眼球充血、眼球突出などが症状として現れます。内頸動脈と、その周りを取り巻いている海綿静脈洞という静脈の袋状になったところが短絡を起こしているために起こります。治療は主に血管内手術によって行われ、種々の塞栓材料を用いて短絡路や海綿静脈洞自体を閉塞させます。

■ ステント留置術

ステントで頸動脈の狭窄を広げる治療は2008年4月から保険が利くようになりました。 頸動脈は脳の大半に血液を送っている重要な血管ですが、動脈硬化で狭くなることがあります。この頸動脈狭窄症という状態になると、いつ何時、重症の脳梗塞になっても不思議ではありません。症状が起こる前に、あるいは軽症の脳梗塞でおさまっているうちに狭窄部を広げる必要があります。手術治療方法としては以前から内膜剥離術という手術があります。頸動脈を切開して狭窄の原因となっているプラークを除去する手術ですが、全身麻酔が必要なので高齢者や心臓病のある方には行いにくいなどの欠点もあります。その代替療法としてバルーンカテーテル(風船のついた医療用チューブ)で狭窄部を押し広げる治療はありましたが、充分に拡張できない場合も多く、一般的な治療方法となるには至りませんでした。15年ほど前から海外で始まったのがステント留置術です。ステントは金属製の筒で、頸動脈で用いるステントは自己拡張型といって形状記憶合金などを用いて自然に拡張できるタイプのものです。これにより狭窄部を十分に拡張できるようになり、内膜剥離術に匹敵する治療方法となりました。この治療方法に関わるリスクには数%で塞栓症があります。これは、プラーク内部が柔らかいことがあり、狭窄部位を拡張する際に血流中に出てきて脳の血管に流れ込んでしまうことで起こります。このような合併症を防ぐために、塞栓防御用のフィルターやバルーンを入れておいて行います(図1)。

  図1)ステント留置術の模式図:
6フィルター付きのガイドワイヤーをまず狭窄部よりも末梢まで進めておき、ステントを留置、狭窄部を拡張する。プラークは外側へ押し付けられる形になり血管内腔が広げられる。このときにプラークから柔らかい内容物が血流中に出てくることがあるので、フィルターでキャッチして脳内に流れ込まないようにする。

①:フィルター付きガイドワイヤー ②:プラーク ③:ステント

図2A,B,C)は実際の治療例です。

   
図2A) 治療前。矢印の部分が狭窄部。   図2B) フィルター(矢印)で塞栓を防御しながらステントを留置後、さらにバルーン(矢頭)で拡張を加えているところ   図2C) 最終的には狭窄は完全に消失した。

頸動脈狭窄症は増える傾向にあります。食事内容の欧米化によるが関係しているとも言われます。また、高齢者の増加、脳ドックの普及により発見されやすくなったことも関係していると考えられます。内膜剥離術に比べ全身的な負担が小さいステント留置術はより一層重要性を増してゆくと思われ、より安全に行えるように道具や手技の改良が進められています。