七栗サナトリウムでの研修を終えて

京都第一赤十字病院神経内科  巨島文子先生

短期の研修をご許可頂き,心から感謝しております.

私はこれまで神経内科医として急性期病院で多くの脳卒中症例を診て参りました.同じ疾患に対して,回復期病院では診察方法・治療方針ともに全く異なる角度からアプローチがなされます.これまで麻痺の程度を評価し、その改善のために最大限の検査・治療を行ってきました.麻痺が改善しなくても、そのまま評価して様々な技術を駆使して訓練し、ADL拡大を目指す姿を実際に見ることができたのは大きな収穫でした.完全麻痺の症例が修正自立歩行で在宅生活に戻る姿を、自分の目で見て手で触れて実感することができました.データに基づく疾患の予後予測がなされ,阻害因子も明らかで,「いつまでリハビリテーションをすることに意味があるのか?」という疑問にも初めて明確な答えを頂きました.

毎日、自分の受け持ち患者のリハビリテーションをひたすら見て考えました.救急入院や外来のある普段の生活ではこの時間を十分に確保することは容易ではありません.専門性の高いリハビリテーションスタッフに指示するには、運動学や装具を初めとして様々な領域にわたる知識を必要とし、専門医の役割の大きさを感じました.回復期の2−3ヶ月という時間はゆっくり流れているようで、毎週の目標の下、その達成のために努力する必要があり、実は急性期病院にも負けず劣らずの忙しさです.

逆に、急性期病院の姿が見えてきて、自分自身を振り返る機会ともなりました.様々な病院で急性期を過ごした症例を診ると,紹介元病院での医療内容が見えてきます.専門領域の治療はともかく,リハビリテーションに関しては専門医の有無で大きな違いがありました.

私も京都に戻って、今までとは違う自分の姿に気づきます.まず、リハビリテーションスタッフとのコミュニケーションが深くなり、話し合いの場が増え、実際の問題点が見えてきました.少しずつですが、体制も変化しつつあります.また、回復期病院への紹介状の内容が変わりました.SIASやFIMなどを用いて客観的に病状を伝え、連携が円滑になりました.急性期病院では検査や治療に追われて一定の時間帯を確保することが困難で、リハビリテーションの時間は短く臥床時間が長くなります.これまで急性期を過ぎて安定すると安心していたのに、今ではリハビリテーションが進まないことに、つい、焦りを感じるようになりました.

専門病院でのリハビリテーション研修は私の念願でした.専門性の高いリハビリテーション・スタッフの熱意や技術・システムなど,本物に出会うことができて幸いでした.回復期は単なるADL改善だけでなく自宅での自分の暮らしを作るための大切な時間でした.実際に主治医として治療にあたる機会を頂き、有意義な時間を過ごすことができました.スタッフの方々には様々な御配慮を頂き、ありがとうございました.3ヶ月は十分な期間とは言えず.今後はさらなる勉強が必要と思いますが、神経内科領域のさらに広い範囲でのリハビリテーションについても勉強したいと考えています.今後ともご指導いただけましたら幸いです.ありがとうございました.

2007.4.26