藤田の思い出
藤田保健衛生大学医学部リハビリ医学講座研究員
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
老化制御学系専攻口腔老化制御学講座
口腔老化制御学分野 大学院
戸原 玄

 残暑も厳しい今日この頃ですが,皆様はいかがお過ごしでしょうか?.もうすぐ僕の研修期間は終了しますが,この1年間リハ科の皆様には仲良くして頂いて,本当に楽しく過ごせました.色々有難う御座いました.

 知らない方も多いと思いますので先ず自己紹介をいたします.僕は,去年の10月からこちらで1年間研究員としてお世話になってきました,戸原 玄と申します.とはら はるかと読みますが,男です.職業は歯科医師であります.歯医者なのにここに来たいきさつをごく簡単に申します.僕がまだ東京の医局にいるときのことです.始めて藤田での研修の話を聞いたのは1999年2月12日,雪の降った休日の翌日のことでした.いつもは外来にこない医科歯科大学の教授が,午前中外来に見えて「昨日はすごい雪だったねえ.」といいました.僕が「そうですね.」と答えましたら,「じゃ、戸原君ちょっといい?」と世間話も程々に外来から教授室に参りまして,ファックスを1枚もらいました.読んでみると,“先日の戸原先生の研修の件はお引き受けいたしました.才藤栄一”とありました.教授は「そういうことだから.」とおっしゃいました.そういうことでこちらに来たのです。数年前より歯科の世界でも摂食・嚥下リハビリテーションは大きな注目を集めておりまして,そのメッカである藤田に行って来いということでした.歯科の世界に於いても“才藤栄一”はビッグネームですから,僕にとっては願ってもないという話でした.

 そして,先ず宮下健吾先生という僕の先輩がその年の4月から,9月までこちらで研修をいたしまして,10月から僕にバトンタッチという運びでありました.その前任の先生はいい人なのですが,「戸原は胸毛ぼうぼうだ.」と僕についての誤った情報を医局で流しておりまして,その訂正には難渋いたしました.ここに来た直後(から現在まで),非常に貧乏だった僕は“検食当番”をさせていただいて非常に助かりました.検食とは病院食の味見です.食事の内容は糖尿食だったのですが時にはおいしく,時にはそれなりにいただきました.

 始めて訓練士の先生方のカンファレンスに出席させて頂いた時は丁度学会前だったようで,予演会が行われておりました.非常に刺激を受けたのを覚えています.僕の大学では医局員の数が多いこともあるのですが学会発表をする人間は限られておりまして,特に若い人達の中で発表する人は少ないのです.初めの段階でどう見ても僕よりずっと若い人たちが発表の予演をしているのを見たために,これはがんばらないといけないという気になりました.医局に勢いがあるように感じました.その後嚥下障害に携わらせて頂くこととなったのですが,僕の主な仕事は治療・訓練ではなく,ビデオ嚥下造影検査,嚥下障害患者のデータ集め,そしてビデオ作りでありました.ビデオ嚥下造影検査とは飲み込みの検査,嚥下障害の検査法で,透視下で患者さんに造影剤を嚥下してもらってその動きをビデオで見るのです.ご存知の方も多いと思いますが,1回の嚥下にかかる時間というのは1秒程度で,その間には色々な器官が多様な動きをします.その短い時間の中で何が起こっているのかがわかるようになるまでには結構時間がかかりましたが,馬場先生,小野木先生、武田先生,奥井先生のお陰で何とか見ることが出来るようになりました.特に馬場先生には“公私ともども”大変お世話になりまして,その感謝の程は文面にすることは出来ません.

 嚥下障害のデータ集めでは,患者さんの基礎データ,臨床所見のほか訓練についての情報が必要でしたので,数多くの訓練士の先生方にご協力を頂きました.非常に面倒な表を渡して記入して頂いたのですが,皆様快く引き受けてくれましたことを感謝いたします.特にSTの先生方にはご指導頂き本当に感謝しております.お陰様で貴重かつ詳細なデータを多数得ることが出来ました.このデータは今後のこの分野において重要なものになると思います.ビデオ作りのなかでメインに行っていたものはビデオ嚥下造影検査画像の加工です.デジタルビデオで取り込んだ検査の画像を1/30秒ずつ解析して,その動態を見るという方法です.それも含めてビデオ作りとは大変な,まことに大変な作業ですよね,都築先生,長江先生.今後もがんばっていいビデオを作りましょう.

 2月以降は七栗サナトリウムにも週1回行かせて頂いて,入院患者さんたちの歯科治療もさせて頂き非常に勉強になりました.先ず歯科検診から始めたのですが,才藤先生の言う「病院は無歯科村である.」というのは実にその通りでありまして,今まで見てきた歯科の外来患者さん達とは明らかに異なる口腔内環境を有していることを実感致しました.また,治療の需要が多い中,限られた人材,器材,スペース,時間(入院期間)で行う歯科治療は非常に思うところの多いものでありました.

 その他,関東人の僕は車を持っていないもので名古屋生活には少々てこずりましたが,皆様に面倒を見ていただいたおかげで何度も助かりました.特に藤井先生の車には何度乗ったかわかりません.いい人だ,あなたは.また,酔いつぶれていた時に家まで迎えにきてくれた上に,点滴までしてくれた三沢先生,いい人だ,あなたも.
 
 以上,思い出は尽きずとりとめもなく書いてしまいましたが,兎に角皆様には感謝しております.ここの医局に来た当初は「歯医者が医者の医局にきて上手くやれるのだろうか」と非常に不安がありましたが,才藤先生はじめスタッフの皆様には公私ともども良くしていただきまして,非常に楽しく,無事に研修期間を終えることが出来ました.普通の歯科医師では得られない経験を沢山できたことを大変満足しております.第2の故郷という言葉がありますが,藤田は僕にとって第2の医局という感じで,東京に行く(帰る?)のは非常に寂しい思いです.呼ばれなくてもまた来ますので,その際にはまた話してやってください.では皆様お元気で.