連載 カナダからの手紙

リハビリテーション専門学校  教務主任 金田 嘉清
 
 暑い日が続いています。今年の暑さは近年にない猛暑とのことで、会員の皆様も毎日、暑さにうだっていることと思います。特に、ここ、名古屋の暑さは、昔から湿舌猛暑と言われ、暑さプラス湿度が高く、不快感指数を軽く超える日が続いています。この為に、はじめて尾張で生活する人は、暑さより、肌をカエルになめられる様な気分に慣れるまで、不快な日が続くと思います。

 昨日、テレビで珊瑚の産卵の模様を放映していました。驚いたことに、珊瑚は同体、及び親子、兄弟、親族での産卵が常識で、この結果、遺伝学上では変異体(奇形種)を生じる事が多く、この変異体が自然界の中で新たな種として繁栄していくそうです。これは、他の生体には考えられないことで、本来、生き物はその種の優位なものが遺伝子を残し、膨大な時をかけて変異していく事が普通で、あえて、急いで危険を承知で子孫を残そうとするこの生き方は、現在の遺伝学、生物学の研究者の中では研究の中心となっているそうです。ある研究者は、この方法では死んでいくもの、生き残れないものの方が実際に生き残るものより多く、常識では考えられない。しかし、あえて珊瑚がこの生き方を選んだ事は、いかに珊瑚が過酷な環境の中でぎりぎりの条件で生きている証拠ではないか、見た目は海の中できれいに輝く珊瑚であっても実体は、生きるための真剣な戦いを日々続け、その結果がこの生き方を選択したのではないか?それ故に、この種の変異は変革であると。

 我々医療職にとって、日々の変革とは一体何であるのだろうか?知識を増やし、技術を高め、医療に貢献することがその意味であるのだろうが、あえて危険を覚悟で変革することについては全く考えたことがない。今ある治療法と学問の多くが正しいものとの認識の上で考えを遂行している。抜本から逆説を唱え、疑いをかけ、あえて自分を境地に追い込んで考えていく勇気は今の自分にあるのだろうか?

 理学療法士になったばかりの頃、周りの人からは知識も技術も教えてもらえなかった。周りの雰囲気は上の先生方が行っている治療を見て何をしているのか考え盗むことが一般的であった様な感じがします。先生方がどんな文献や論文を読んでいるのか、何を研究しているのか探求することが仕事であり楽しみであった感じがします。文献も論文も今と比べて極端に少なく、英文を読むことも何となく必要であった感がします。その頃だったら何となく珊瑚の様な生き方(比べようがありませんが)が理解できたかも知れません。

 変革をするには、ある一定の条件にいる時に、変革をすべき経験と知識・技術の習得が必要かも知れません。こればっかりは後から行おうとしても気力・体力が続かないかもしれません。

 初年兵の皆さん、一日に数ページの文献を一つ読む。意地になって読む。読み続けて3年経つと珊瑚の気持ちが解るかも知れませんよ。