「藤田での一年間」
 東京医科歯科大学大学院 口腔老化制御学分野              松尾浩一郎

 
私は現在,東京医科歯科大学歯学部の大学院3年生です.平成12年の9月から平成13年の10月までの13ヶ月間,藤田保健衛生大学医学部リハビリテーション医学講座に研究員という立場でお世話になりました.主に嚥下の研究,臨床のお仕事を一緒にさせていただき,また,週に一回七栗サナトリウムで入院患者さんの歯科治療をしていました.

 藤田に来るまでは嚥下の教科書は読んでいても実際に嚥下障害の臨床,研究を行ったことはなく,藤田に来てからの毎日は常に勉強の日々でした.特に研究に関しては苦労しました.僕が藤田に来た頃からちょうど才藤先生,武田先生を中心に新しい咀嚼嚥下の研究がスタートしていました.その点では,非常にいい時期に藤田に来ることができよかったと思います.そしていざ研究に加わってみると,よく叱られました.今までの人生の中で一番叱られたかもしれません.まあ自分が悪いのですが.それでも諸先生方にいろいろとご指導いただきながら,夜,枕を涙でぬらしつつ,僕なりになんとか頑張りました.半年ほどするとある程度環境にも慣れることができ,嚥下のほかの研究にも携わさせて頂きました.また,臨床では嚥下障害への診断,評価から対応,訓練までの一連の流れを見ることができ,よかったと思います.藤田での一年間の研究,臨床は自分にとって学ぶことが非常に多く,良い経験ができたと思っています.今年の4月からJohns Hopkins大学のPalmer先生のもとで一年間研究する機会もいただきました.ただ今留学準備中ですが,いい結果を残せるよう頑張っていきたいと思います.

 週に一度,火曜日は七栗サナトリウムでの歯科治療の日でした.貧乏学生である僕は車など持っていないので,朝の6時に家をでて前後駅まで20分歩き,名鉄,近鉄を乗り継いで,たまに電車を乗り過ごし,久居駅からバスに乗り,山あいの中から見えてくる七栗サナトリウムに毎週通っていました.七栗サナトリウムでの入院患者の歯科治療の始まりは,僕の先代,戸原の時代でした.愛知県三重県の歯科医師会の先生方と藤田リハ科の先生方との共同事業で病院入院患者さんの歯科検診が行われ,その流れで七栗サナトリウムでの歯科治療が行われていました.しかし,当時は歯科の診療室などあるわけではなく,会議室やST室を間借りして治療を行っていました.しかし才藤先生,園田先生はじめ諸先生方のご尽力により,平成13年の4月から七栗サナトリウムの1階に歯科室が開設され,そこで歯科治療を行えるようになりました.歯科室ができてからは治療の幅もかなり広がりました.2時間半から3時間かけて通っていたのは正直なところ結構大変ではありましたが,それ以上に七栗で得るものは大きかったです.障害をもった患者さんの治療を行うことが自分にとっては非常にプラスとなりました.東京の病院では高齢者歯科というところに所属していたわけですが,都会のど真ん中にある病院にラッシュの電車に揺られて来ることができるようなお年寄りばかりでしたので,高齢者歯科といっても健康な方ばかりの歯科診療でした.七栗サナトリウムでは障害を持った方が入院しているわけで,歯科診療台への移乗や嚥下障害を持った方の治療体位の工夫など,自分でも勉強し考えながらの毎週の治療でした.障害者の方にとって歯科診療台がいかに不便かということもわかりました.このような経験をさせていただき,さらに給料がもらえました.賃金はまあそこそこですが,そのお金で生活がもっていましたから本当に助かりました.松阪牛もおいしかったです.また食べたいです.

 13ヶ月という期間は本当にあっというまでした.最初は慣れないことだらけでしたが,1年間豊明で暮らし,とても居心地よくなりました.来た当初は藤田周辺の暗い夜道にも慣れず,神社の横を通る帰り道が怖くて走って帰ったこともありましたが,それにもすぐに慣れました.たまに寝ながら歩いて歩道から落ちたりもしましたが.仕事以外の面でもいろいろな方と知り合うことができ,豊明ライフを堪能できました.

 最後のひと月は行く予定だったアメリカの学会がキャンセルとなったこともあり,公私様々な送別会続きでした.いろいろな方に送っていただき本当にうれしく思いました.すばらしい方々と一緒に仕事をしてきたことをあらためて実感いたしました.才藤先生はじめ医局の先生方には本当にお世話になりました.心より感謝いたします.貧乏な僕をよく面倒見ていただいた馬場先生,長江先生,本当にありがとうございました.頂いた品,一緒に買った品はしっかり使っています.野球また誘ってください.藤井先生,横山先生,貴重な餞別の品ありがとうございました.貴重すぎて使えません.武田先生,整理整頓いたします.

 これからもまたみなさんと一緒にお仕事をすることがあると思いますが,頑張っていきたいと思いますので,今後ともよろしくお願いします.