COSPIRE Project
- standing on the threshold of our new stage-
藤田保健衛生大学医学部リハビリテーション医学講座
教授 才藤栄一
2004年4月の衛生学部リハビリテーション学科開設に向かってCOSPIREプロジェクトが動いています.COSPIREは,また,藤田保健衛生大学リハビリテーション部門が新しい次元に入るためのプロジェクトでもあります.ここでその概要を簡単に説明しましょう.
COSPIREは,the Clinical-Oriented System for Progression
& Innovation of Rehabilitation Educationの頭文字をとった略称で,我々の目指す療法士教育新戦略です.また,「共に息しよう!(co:共に,spire:芽を出す,呼吸する)」という気持ちが含まれています.
ご存じのように,今後35年間における最大の医療課題は「高齢社会決算としての多死・多障害」対応です.その中で,リハビリテーション医学・医療の効果・効率の向上が期待されています.その実際の担い手が療法士です.しかし,療法士教育は大きな問題を抱えたままであり,少子化と養成校乱立により状況はむしろ悪化しているとさえ思われます.我々は,療法士教育の問題点を振り返り,全く新しいシステムを生み出すために専門学校の大学化を計画しました.このシステムがCOSPIREです.
リハビリテーション医療は「学習の医療」です.学習の理論は,学生に何を教えるべきかを教えてくれます.若干漠然としますが,医療者の基準課題*は「科学的な利他的行為者として,その医療者の人生で患者を救ったという積分値を最大化すること」です.そして,学校における医療者教育の基準課題は「学生が卒後,有能(位置,微分共に)であるようにすること」です.
どんな学習も基準課題に転移しなければ問題です.基準課題への転移性を考えると今の教育の問題点が明らかになってきます.以下に列挙しましょう.
・卒後の臨床現場には合理的な動機付け機構はありません.試験はないし,教師もいないのです.療法士が動機づけ機構を自前で有する必要があります.つまり,内的強化因子の保有です.そのために学校では,規範的動機付け**,好奇心賦活,そして,成功体験を大切にする必要があります.
・卒後の対象課題は不明瞭です.正解はわからず,その存在さえ未知であり,さらに,「真理」さえも刷新されます.従って,療法士はその頭脳に,メタ認知・パースペクティブ,メタ学習機能を所有する必要があります.
・卒後の生涯学習が重要です.10年前の知識は嘘になるというのが医療界の常だからです.しかし,授業やノートはありません.そこで,情報ツールを持って臨床に出る必要があります.ツールとして,メタ学習機能***,コンピュータ識文,英語識文,教科書・文献利用可能性が有効です.
・卒後教育の圧倒的不足が療法士特有の問題としてあります.卒後研修制度は極めて脆弱です.従って,卒前における臨床リハーサル,対人関係技術修得が卒後の直面する課題を乗り切るスーツとして必須です.
振り返って現状を考えると,そのほとんどが日常に流されて教育上において不明瞭であることが分かります.
・さらに,療法士教育現場の最大の問題は「臨床不在」です^.学校,教師,学生が臨床から隔離されているのです.すなわち,教員の臨床からの隔離,外注中心の臨床実習がその現れです.理学療法・作業療法は,その名の通り,臨床科学以外の何者でもないのに,です.
以上の問題点を解決し,新しいリハビリテーション教育を生み出すためにCOSPIREを開始します.
COSPIREの最大の特徴は「臨床,教育,研究の統合」です.
システムとしての戦略として,
1)教員/職員配置を根本から見直す,教員は原則的に藤田で臨床を行う,
2)臨床実習を根本から見直し,大幅に増やす,学生と教員が常に現場にいる,学生は必ず藤田での実習を経験する,
3)臨床研究を重視する,EBMを確立する,教員/職員で共同して組織的に行う,
4)卒後教育を重視する,藤田での卒後研修を充実させる,
を計画します.我々は現在,そのプランづくりに熱中しています.具体的な計画として,Small Group learning,解剖実習,FIT-II(臨床実習通年化),新実習評価法,プログラマブルレベルのコンピュータ教育など新しい試みが一杯です.その具体的内容の詳細は順次皆さんに開示していきます.
また,その際の姿勢として,
1)スタンスとしての利他的規範,2)科学的思考と好奇心賦活のためのメタ認知・メタ学習,3)ツールとしてのコンピュータ識文,英語識文,教科書・文献利用,4)臨床への円滑な導入のための臨床リハーサル,対人関係技術習得,を重視します.
各病院リハビリテーション部の確立,七栗でのFITの成功など,基礎固めができたリハビリテーション部門にとって,COSPIREはその発展を加速する新しい枠組みです.この2月から始まる病院職員の定期異動はその一環とご理解下さい.
我々は,COSPIREが,療法士教育の新しい水平線を創造し,さらに藤田保健衛生大学リハビリテーション部門の新しい文化となって,現存する最高峰のリハビリテーション医学・医療を確立すると考えています.そのために皆さんの心と頭と腕が必要です.
the COSPIRE for FHU-R : a new Clinical &
Need Oriented System
Transdisciplinary Disposition
Emphasis on Evidence
Emphasis on Research
Emphasis on Learning
Culture of Openness
注釈 *:基準課題や転移という言葉を知らない人はもう一度よく運動学習を復習しましょう.**:利他的行為者としてのモラル.自由主義社会ではある程度,辺縁的な態度ともいえます.**:学び方の学び方.^:実はこの「臨床からの隔離」は療法士のみならず医師以外の全てのコメディカル教育に当てはまる根の深い問題です.