成熟mRNA再スプライシング
 
    Tumor susceptibility gene 101 (TSG101:癌感受性遺伝子101)は1996年に発見・報告された遺伝子であるが、翌1997年から様々な癌細胞で異常な転写産物が発現していると、多数の報告が出されていた。
    その異常転写産物は、欠失する領域の両端がGU-AGであることから(図1)何らかの異常なスプライシングが起きていると推測されていたがその機構は不明であった。しかも、長距離にわたり複数のエクソンをスキップし、5‘スプライス部位も3‘スプライス部位もエクソン内にある選択的スプライス部位であるという極めて珍しいタイプのスプライシングであり(図1)、恐らく通常は非常に起こりにくいタイプであると思われた。しかも、スプライス部位の強度を調べると、その選択的スプライス部位は正規のスプライス部位に比べ明らかに弱いことがわかり、正規の強いスプライス部位がそのまま存在する状態ではこの異常スプライシングは起こりえないと推測された。そこで一旦、通常のスプライシング起き成熟mRNAができると、同時に全ての正規スプライス部位が消失し、その後でもう一度余計なスプライシングが起きてしまうのではないかという仮説を立て証明を行った。
 さらに、 Fragile Histidine Triad( FHIT)遺伝子においても同様に成熟mRNAから再スプライシングが起きているとことを発見した。

 つまり、通常遺伝子から転写されたmRNA前駆体はスプライシングされた後、成熟mRNAとなって細胞質に輸送され蛋白質合成の設計図となる。ところが、TSG101mRNAとFHITmRNAでは、癌細胞において、本来再びスプライシングされるはずのない成熟mRNAがmRNA(エクソン)上のスプライス部位に似た配列を浸かって再スプライシングされていたのである。

 このことは、正常細胞には未知の再スプライシング抑制機構が存在しmRNAの品質管理に関与しているということを示唆している。また、癌細胞では遺伝子に突然変異がないにも関わらず異常蛋白質が蓄積しているが、成熟mRNA再スプライシングがより多くの遺伝子で起き、その原因になっている可能性も考えられる(図2)。