OGOB INTERVIEW

藤田医科大学 卒業生インタビュー仕事で大切にしていること、
なんですか?

理学療法士

INTERVIEWvol.005

医療の現場に必要不可欠なのは、 「今より少しでも良くしたい」という気持ち。

武田和也Kazuya Takeda

医療法人社団 河村病院 リハビリテーション部

リハビリテーション学科 理学療法専攻 / 2010年卒業

取材日

DESCRIPTION

河村病院は、岐阜県にある大きな総合病院だ。見渡す限り緑に囲まれた静かな環境で、武田さんは理学療法士として働いている。大学院に通いながら河村病院で働き始め、現在9年目。今も仕事をするかたわらで、研究を続けていると言う。「忙しいのに研究も行っていて大変ではないですか?」と尋ねると、「僕にとってはそれが自然なことなんですよね」と話していた。そのもとには、後ほどインタビューで聞く恩師の言葉がある。 取材中、常に笑顔の絶えない武田さん。自然体で肩肘が張った感じがしないのに、その奥に強さがある人だ。それは専門的な知識云々以前の、もっと土台の部分。親への感謝、聞く力、努力を続ける姿勢……。「この仕事を辞めたいと思ったことが一度もない」と笑う武田さんを支えるのは、このしっかりとした土台なのかもしれない。

生活のベースとなる身体機能を良くする仕事

ーまずは、武田さんのお仕事について教えていただけますか。

理学療法士をしています。内容を大まかに言うと、患者さんの身体の機能面の状態を良くするために、リハビリを行う仕事です。医師の診断のもと、この人はどんな動作が苦手で、どうしたら良くなっていくのかを考える。そして社会復帰に向け、患者さん主体の医療を施していくという内容です。

ーなるほど。ちなみに、作業療法士との違いは何でしょう?

よく言われているのは、作業療法士は日常生活の作業の中でできないことをできるようにしていく仕事で、理学療法士はそこに至るまでのベースの機能面の向上を目指す仕事です。例えば起きる、立つ、歩く、などですね。専門性があるにしろ、互いに情報共有をしながら、身体機能面で患者さんの社会復帰を目指すという点では同じです。病院にもよりますが、最近はある程度またがっている領域もあるのかなと思います。

ー武田さんは、医療のお仕事にもともと興味があったんですか?

そうですね。母親が看護師をしていて、医療という仕事にもともとなじみはあったんです。あとは高校時代、ずっとサッカーをやっていたのですが、そこで怪我をしたことがあって。そんなにひどい怪我ではなかったのですが、リハビリを経験したことも大きかったですね。そこで、活動の土台となる身体機能を良くしていくという仕事に、興味を持ち始めましたね。

ーそこで藤田を選んだ理由は何だったんでしょう?

同じ高校のサッカー部の先輩が藤田に進学していたので、よく彼から情報をもらっていたんです。そのときから、実習がとても多いしっかりした学校だというのは聞いていました。それで行ってみようかなと。あとは、僕は神奈川県出身なんですが、一度一人暮らしをしてみたくて……贅沢な話なんですが(笑)。それで県外の藤田を選びました。

「これで良し」ではなく、もっと何かできないか考える

ー大学では特に何に力を入れていましたか?

やっぱり、試験はとても頑張っていましたね。教科数も実習も多いので大変でしたけど、今思えばそれを乗り越えるために、高校時代よりずっとメリハリをつけるようになったように思います。
高校では部活漬けの日々で勉強は少しおろそかにしていたんですけど(笑)、大学ではアルバイトしたり、友達と遊んだりしながらも、ちゃんと本業である勉強に向き合うようにしていました。忙しい毎日でしたが、メリハリをつけることで乗り越えるようにしていたように思います。

ーメリハリがあったからこそ、勉強も頑張れたのかもしれないですね。では、そこで学んだことで、今に生きていることは何だと思いますか?

授業内容はもちろんなんですけど、今思えば、大学では礼儀についても厳しく鍛えられましたね。上下関係でのマナーや、教員との関わり方、言葉遣い、話しかけに行っていいタイミングなど、言われたわけではないけれど、自然に教わり身についていったように思います。それがあったので、社会に出てからすっと現場に馴染むことができました。

ー学生のうちから、現場での社会性を身につけていたんですね。

あとは僕は、大学卒業後に大学院に行っていたのですが、そのときの指導教員の言葉がずっと印象に残っているんです。それは「医療人たるもの、常に探求せよ」という言葉なのですが、それを聞いたときには感銘を受けましたね。治療法でも、患者さんの評価でも、「これで良し」とするのではなく、もっと何かできないか考えるのが大事だということです。
その言葉は今の僕のモットーにもなっていて、後輩にもよく言ってしまいますね(笑)。

大切なのは「聞く力」と「探究心」

ーこの仕事をしていて、一番嬉しい瞬間は何でしょう?

臨床の現場なので、やはり患者さんがよくなったときが一番嬉しいです。もう少し詳しく言うと、患者さんが良くなるために、自分なりにいろいろ考えて介入していった結果、それがぴたっとはまった時が嬉しい。いち理学療法士の力だけではもちろんないんですけど、患者さんの回復に自分の力が関われているのは嬉しいですよね。

ー逆に大変だなってことは思うことはありますか?

うーん。あまり、そういうのは思わないんですよね。大変じゃないって言ったら嘘なんですけど、頑張っていれば疲れるなんて当然ですし、「どの仕事も一緒だろうな」って思います。
僕、一度もこの仕事を辞めたいと思ったことがないんですよ。それはなぜかと言うと、親への感謝が強いからなんです。一人暮らしもさせてもらって、決して安くない授業料を払ってもらって、自由にさせてもらってきたので。
大分前ですけど、僕に対して願っていることを親に聞いたことがあるんです。その時うちの親は、「健康に仕事を頑張っていてくれたらいい」って言ってたんです。そんなこと言われたら、「辞めたい」なんて嘘でも言えないかなって。親への感謝……これも飲み会で気分良くなったときに後輩に言う言葉ですね(笑)。

ーそれは決して忘れてはいけないことですよね。では、仕事の現場で大事にしていることは何ですか?

一番は、患者さんとの信頼関係ですね。そのためにはやっぱりコミュニケーション能力が大事です。いくら頭が良くても、患者さんのことをわかってあげることができないと、信頼してもらえない。この仕事は患者さんが主体となって、僕たちはその補助・誘導をしていく立場なので、どうしても「聞く力」が必要になってきます。いかに相手の気持ちを聞き出してあげたり、引き出せるか。それに合わせて、アプローチを変えていくように気をつけています。
あとは先ほども言いましたが、やはり探究心を持ち続けること。医療の仕事では、常に努力が必要とされます。「今よりちょっとでも良くしたい」という気持ちを持ち続けることが大事だと思います。

ーそれでは最後に、受験生にアドバイスをいただけますか。

今言った通り、日々努力が求められる仕事です。だからこそ、あまり躍起にならないようにと僕は思いますね。無理するんじゃなくて、毎日少しずつ、小さなことでいいので継続していくことから始めたらいいと思います。
専門的な勉強自体は、入ってから頑張ればいい。高校時代は、その時に投げ出さない基礎的な忍耐力、努力を続けられる精神を鍛えることが、一番大事だと思います。

私の相棒

研究ノート

大学院時代の教員に言われた「医療人たるもの、常に探求せよ」という言葉を胸に、今も働きながら研究を続けています。メインで研究しているのは物理療法としての電気刺激なのですが、このノートはその研究のアイデアを書き留めたり、データを記録するために毎日使っています。
僕は朝型の人間なので、早めに職場に来て、準備を終わらせるタイプなんですよ。それで仕事が終わったあとなんかに、研究のための時間をとることが多いですね。
研究と言うと大げさですが、みんないつも「ちょっとでも良くしたい」って考えて工夫しながら働いていると思うんです。僕はそれを形にしているだけ。少しでもいい治療法を、今後もこのノートを使って考え続けると思います。

武田さんの持つ2冊のノートを少しだけ覗かせてもらうと、たくさんの数字が鉛筆で書かれていた。このノートに書きためた内容を基に論文作成や学会発表等を行うのだそうだ。「『ちょっとでも良くしたい』と思うことを形にしているだけ」と武田さんは言っていたが、その小さな積み重ねが、やがて大きな力となるのだろう。そしてそのようにして医療は進歩してきたのだなと、目の前でノートを手にする武田さんを見ながら思う。
「無理はしないで、毎日少しずつ」……気負わず、焦らず、できることを淡々と行う武田さん。今日もまた仕事のあとには、研究ノートに向かって鉛筆を持つのかもしれない。