藤田での経験

独立行政法人国立病院機構東京病院 服部史子先生

Hattori_Dr 新潟大学歯学部在学中に「ターミナルの患者さんのQOLにとって食は非常に重要で,歯科医は食の面からターミナルケアに関われる,そのために摂食・嚥下障害を知ることが重要」という講義を聞きました.歯科医は歯を削る器用な人,というイメージしかなかった私にとって,歯科医でも命に向き合えると知ったことは,歯科の印象を根底から崩されるほど大きなことでした.この時点で私の歯科医として目指す方向は「嚥下だ!」と決まりました.卒後の進路は「藤田リハへ勉強に行ける」ことが決め手となり,東京医科歯科大学の大学院(高齢者歯科)へ入学しました.

 藤田リハには,大学院2年生の秋から3年生の秋まで,研究生として約1年間お世話になりました.嚥下に関して臨床も研究も初心者同然で藤田に行った私を,先生方や療法士さん皆さんが,本当に懇切丁寧に指導してくださいました.VF・VEの手技や評価方法,嚥下訓練の進め方,それらを元にした研究,などいずれも興味深く刺激的で,大変ながらもわくわくしながら学んでいたことを覚えています.また,リハ科の患者さんの訓練やカンファレンス,回診など通じてリハビリ全体を学ばせていただいたことも非常に貴重でした.嚥下障害を診る基盤を築かせていただくために不可欠の1年だったと思います.さらに藤田後はアメリカに行く機会まで頂くことができました.嚥下を学ぶ者としてはこの上ない環境を終始与えてくださった藤田リハに,心から感謝しております.ありがとうございます.

 大学院卒業後は,高齢者歯科の嚥下チームの一員として臨床・研究に取り組みました.中でも,在宅や施設の嚥下障害患者さんに対する訪問診療に関わったことは,地域医療への取り組みを志すきっかけになりました.「食べられるのに食べない」「食べられないのに食べる」というちぐはぐな栄養摂取環境にいる患者さんが多く,どうしてこのような状況になるのか疑問を持ちました.一昨年より,一般病院の院内歯科に勤務していますが,ここに来て初めて,先の疑問の答えが一部わかったような気がします.いろいろな制約のもと入院中に十分な嚥下評価・訓練を受けられず,退院・転院先でも嚥下障害に対するフォローがなされない(訪問診療で知ったこと)患者さんが,残念ながらとても多いようです.病院と在宅・施設を結ぶ連携が非常に重要だと痛感しています.

 嚥下障害をもった患者さんが,その患者さんにとって有用な医療を,今いる環境で十分受けられるシステムと人材をつくることが,私にとっての大きな課題です.嚥下を志すきっかけとなったターミナルの患者さんに対しても,この課題は広げられかもしれません.そう考えると,自分の初心やこれまでいろいろと勉強させていただいたことが,少しずつ集約され目標として形になりつつあることに不思議さを感じます.簡単な目標ではありませんが,あきらめず地道に取り組んでいこうと思っています.

 

2008/9/19 Layouted by ON