「チーム・FUJITA」と私

国立精神神経センター武蔵病院神経内科 山本敏之先生

私が最初に才藤教授を知ったのは先生の摂食嚥下の講演会を聴講したときである.当時の私は,神経内科の疾患における摂食・嚥下の問題の重要性について感じていたものの,process modelすら知らず,嚥下造影検査でみる咀嚼嚥下が,古い教科書の記載とまったく異なることに疑問を持っていた.才藤教授の講演は初学者にもわかりやすく,1時間ほどの講演時間があっという間だったのを覚えている.

その後,私は留学するチャンスに恵まれ,恩師である川井充先生(現国立病院機構東埼玉病院副院長)から「摂食・嚥下について勉強しては?」と勧められたことで,私の将来の方向性は決まった.しかし,留学先の当てはなく,前途多難.いろいろ考えた末,その道の第一人者に訊いてみようと思いついた.そして,講演会で感銘を受けたというだけの理由で,当時,まったく面識がなかった才藤教授にお願いにあがったのだ.

普通なら才藤教授にアポイントメントをとり,手土産を持って,ご挨拶に行くのが「大人の常識」だろうけれども,当時の私は(といっても数年前なのだが),これから講演しようとしている才藤教授を,講演会会場の前でつかまえて留学先を紹介してくれと懇願したのである.明治天皇に直訴する田中正造のようなもの,世が世であれば無礼討ち,良くて門前払いというところだろう.しかし,才藤教授は即座に私にとって最良の方法,後の恩師になるDr. Palmar(ジョンズホプキンス大学教授)を紹介してくれたのである.この衝撃的なファーストコンタクトは,今,思い出しても感涙である.

ここで誤解のないように書いておくが,これから留学しようと考えている諸先生方が,私のような方法で才藤教授にお願いにあがることを勧めているわけではない.

才藤教授の御厚意で,アメリカに行く直前の2004年1月,嚥下造影検査の勉強のため,藤田保健衛生大学医学部リハビリテーション医学講座に滞在させていただいた.この一ヶ月間が私と才藤教授率いる「チーム・FUJITA」との関わりの始まりである.滞在中は,馬場尊先生(現藤田保健衛生大学衛生学部リハビリテーション学科教授)をはじめとした医局の先生方や言語聴覚士,そして東京医科歯科大学から研修にいらっしゃっていた先生方に,大変親切にしていただいた.勉強に来たはずの私が,食事を御馳走していただき,最初の10日間は歓迎会,次の10日間は親睦会,最後の10日間は送別会と,充実した日を送ったのである.

ここでも誤解のないように書いておくが,これから藤田保健衛生大学で研修する諸先生方が,私のように時間外のオプションを要求することを勧めているわけではない.

2004年3月から2005年4月まで,私はジョンズホプキンス大学に留学し,Dr. Palmarや松尾先生にお世話になった.留学中にモントリオールで行われたDRSの学会では,才藤教授や「チーム・FUJITA」のみなさんと再会し,学会発表の合間を縫って観光したり,御馳走になったりした(今更ながら「御馳走になった」ばかりの文章で恐縮である).

帰国後の第13回日本摂食リハビリテーション学会の総会で,私は大会奨励賞という栄誉ある賞を授与された.受賞後,まっさきにお祝いしてくれたのは才藤教授と「チーム・FUJITA」のみなさんだった.このときばかりは私もちょっぴり御馳走し,受賞の喜びをかみしめると同時に,「チーム・FUJITA」のみなさんと出会えた不思議な「縁」に感謝した次第である.

より良い医療は臨床で遭遇するシンプルな疑問を解決することから始まると私は信じている.そういう点で,「チーム・FUJITA」の摂食・嚥下障害に対するアプローチの仕方には感服している.今後も,藤田保健衛生大学リハビリテーション科のみなさんから,良い刺激をいただきたいと思っている.

2007.10.11