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臨床研究について


腹部難治がんへの適応拡大を目指して

藤田医科大学BNCT研究センターでは現在、膵臓がん、胆道がん、肝臓がんといった腹部の難治性がんに対するBNCTの適応拡大を目指し、新たな特定臨床研究および企業治験の準備を進めています。
これまでBNCTは、主に体表に近い頭頸部がんを対象として再発など難治性の一部の患者に対しては標準治療化されてきました。しかし私たちは、この革新的な治療法を、より深い場所にあり、従来の治療では根治が難しいとされる腹部のがんにも届けるという世界的な挑戦に踏み出しています。この挑戦の鍵を握るのが、「F-BPA PET」と呼ばれる特殊な画像診断技術です。BNCTが効果を発揮するためには、治療の前にホウ素薬剤ががん細胞に十分に集まっているか、そして正常な臓器には集まりすぎていないかを正確に見極める必要があります。F-BPA PETを用いることで、体内の薬剤分布を治療前に可視化し、「本当にBNCTが有効かつ安全に実施できる状態か」を一人ひとりの患者さんで事前に予測することが可能になります。これは、診断と治療を一体化させる「セラノスティクス(Theranostics)」という最先端の医療概念に基づくアプローチです。

さらには、単に現状の薬剤分布を「評価」するだけにとどまらず、治療効果の飛躍的な向上を目指す新たな戦略の構築も進めています。現在のBNCTで主に使用されるホウ素薬剤(BPA)を用いた腹部深部腫瘍の治療において、最大の壁となるのが「腫瘍組織と正常組織の薬剤集積比(T/N比)」の改善です。腹部には放射線に弱い腸管などの正常臓器が隣接しています。そのため、正常組織へのホウ素の取り込みを相対的に抑えつつ、がん細胞にだけより多くのBPAを取り込ませる(T/N比を極大化する)ことができなければ、腸管を守るために中性子の照射時間を短く制限せざるを得ず、深い位置のがんに十分な線量を届けることができません。
そこで私たちは、がん細胞特有のアミノ酸を取り込む仕組み(LAT1トランスポーターなど)の性質に着目し、腫瘍と正常組織における集積の「差」を劇的に広げるための最適な薬剤投与プロトコルや新たな戦略の開発に取り組んでいます。この「T/N比の改善」を臨床で実現することこそが、深部への照射時間を安全に延長し、腹部の難治がんを根治へと導くための適応拡大のコア技術となります。

腹部深部腫瘍へのBNCT適応拡大という極めて難易度の高い領域を開拓するためには、単一の専門分野だけでは太刀打ちできません。
そのため本臨床研究は、当センター単独ではなく、藤田医科大学病院の消化器内科、病理診断科、放射線科、そしてセラノスティクスセンターという各領域のエキスパートと強固なスクラムを組んで実施されます。
消化器内科による的確な病態評価と検体採取、病理診断科による細胞レベルでの詳細な解析、放射線科およびセラノスティクスセンターによる高度な画像評価。これらが一つのチームとして融合することで、初めて安全かつ精度の高い研究が実現します。
私たちが目指すのは、単なるデータの蓄積ではありません。この特定臨床研究を通じて、腹部がんに対するBNCTの安全性と有効性の基盤を確立し、2028年に予定されている本格的な臨床試験、そしてその先にある新たな標準治療の確立へと確実につなげていくことです。全学横断的なチーム医療体制のもと、難治がんに直面する患者さんに新たな光を届けるための道を切り拓いていきます。