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村野助教らの研究成果が国際誌『Nature Communications』に掲載されました。


反復神経過活動が引き起こす「核リプログラミング」を発見
―成熟神経細胞が細胞周期の仕組みを利用して、核構造と遺伝子発現状態を長期的に変化させる―

当研究部門の村野友幸助教、萩原英雄准教授、宮川剛教授らの研究グループは、繰り返される神経過活動が、通常は細胞分裂を行わない成熟神経細胞に細胞周期関連機構の一部を再活性化させ、核構造と遺伝子発現状態を長期的に変化させる現象を発見しました。研究グループは、この現象を「核リプログラミング」という細胞可塑性の一形態として提唱しています。

本研究成果は、2026年7月17日付で学術誌『Nature Communications』に掲載されました(プレスリリースはこちら)。

図. 核リプログラミング:反復神経過活動による核・ゲノム構造の大規模再編
(A)光遺伝学的手法を用いて、マウス海馬歯状回の神経細胞にチャネルロドプシンを発現させ、刺激時間・回数・タイミングを制御しながら神経過活動を繰り返し誘導した。これにより、電気けいれん療法(ECT)を模した神経過活動をマウスで再現した。
(B)反復神経過活動を受けたマウスでは、オープンフィールドテストでの活動量増加や、尾懸垂試験における無動時間の低下など、うつ関連行動の変化が観察された。3日間刺激では一過性の変化にとどまった一方、10日間刺激では行動変化が2週間以上持続した。
(C)反復神経過活動は、成熟した神経細胞の核・クロマチン構造に長期的な変化を引き起こした。クロマチンの開閉状態が変化したほか、通常は分裂しない神経細胞において、核ラミナの部分的崩壊など、細胞周期様の核構造変化が認められた。
(D)反復神経過活動は、細胞周期関連機構を介して、G2/M期様の核構造変化、ゲノム三次元構造変化、未成熟様遺伝子発現を誘導することが示唆された。本研究では、このような成熟神経細胞の核構造と遺伝子発現状態の変化を「核リプログラミング」として提案した。

約90年間残されてきた電気けいれん療法の謎
電気けいれん療法(ECT)は、電気刺激によって脳のけいれんを誘発する治療法で、うつ病などに高い効果を示すことが知られており、1938年に導入されて以来、多くの患者さんに行われています。 一方で、一時的な神経刺激が、なぜ治療後も長期間にわたる効果を残すのか、その細胞レベルの仕組みは十分に分かっていませんでした。
ECTは通常、複数回繰り返して行われます。そこで本研究では、刺激を繰り返すことによって神経細胞がどのように長期的に変化するのかについて調べました。
ECTを模した反復光刺激法「REPOPS」
私たちは、光遺伝学的手法を用いて、マウス海馬歯状回の神経細胞に繰り返し過活動を誘導する刺激法「Repetitive Optogenetic Stimulation(REPOPS)」を考案しました。この方法では、刺激時間、回数、タイミングを精密に制御できるため、ECTを模した反復神経過活動が神経細胞に与える影響を詳しく解析できます。
刺激回数に応じて長期化する「脱成熟」
REPOPS後の神経細胞では、成熟した神経細胞の遺伝子発現が、幼若な状態に近づく「脱成熟」が起きていました。
3日間の刺激では変化は一過性でしたが、10日間刺激では遺伝子発現変化が1か月以上持続しました。行動変化も、3日間刺激では一時的だったのに対し、10日間刺激では2週間以上維持されました。

分裂しない神経細胞で起こる「核リプログラミング」
詳しく調べると、本来分裂しないはずの成熟した神経細胞で、細胞周期G2/M期に関連する遺伝子が再活性化していました。さらに、ヒストンのリン酸化、クロマチンの凝集、核ラミナの部分的な崩壊といった、有糸分裂期に似た核構造変化も認められました。研究グループは、この神経過活動によって引き起こされる有糸分裂期様の核構造変化を、「核リプログラミング」と名付けました。
また、細胞周期G2/M期への移行を制御するサイクリンBを神経細胞で欠損させると、REPOPSによって生じる核構造変化が有意に弱まりました。また、反復刺激後の行動変化も部分的に回復しました。この結果から、細胞周期関連機構の再活性化が、神経細胞の長期的な状態変化に重要であることが示されました。
治療と病態の境界、今後の展望
今回、神経過活動による脱成熟とその背景にある核リプログラミングが、ECTのような制御された刺激下で治療的に働く可能性があることを提唱しました。
一方で、私たちのグループはこれまでに、てんかんや神経変性疾患などの病的な環境下では、脱成熟が不利益な変化をもたらす可能性も報告しています。
今後、有益な変化を引き起こす条件を明らかにすることで、副作用の少ない脳刺激療法や、新しい薬物療法の開発につながることが期待されます。