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着床前診断について



着床前診断のれきし

着床前診断による世界で最初の妊娠は、1990年に報告されました。1998年に日本産婦人科学会から見解が示され、PGT-M(単一遺伝子疾患を対象)が臨床研究として開始されました。日本では、2004年に初めて重篤な遺伝性疾患の1つであるデュシェンヌ型筋ジストロフィーにおいて着床前診断の実施が承認されました。

2006年にはPGT-SR(均衡型染色体構造異常保因者の習慣流産を対象)が見解に追加されました。2018年には臨床研究が終了し、医療行為と位置付けられました。また、2015年からPGT-A(着床前胚染色体異数体検査)が特別臨床研究として開始され、2019年からは実施施設が拡大されて進行中です。

着床前診断と出生前診断の違い

着床前診断

体外で受精させた胚の染色体や遺伝子の検査を行い、病気を持たない可能性の高い胚だけを選択し、子宮に移植して育てることです。着床前診断は出生前診断とは違い妊娠前に行います。しかし、誰でも受けられるわけではありません。

出生前診断

妊娠10週前後の胎盤の一部の絨毛細胞をとって検査する絨毛検査と、妊娠16週前後に羊水をとって検査する羊水検査があります。しかし破水や流産などの合併症を起こすことがあります。一方で、非確定的な検査ですが、採血でできる母体血胎児染色体検査(NIPT)も選択できます。出生前診断は、十分な遺伝カウンセリングを受けた上で、夫婦で検査をするかどうかを十分に話し合い自己決定することになります。出生前診断を受けることを医療者から強要することはありません。また妊娠中は定期的に超音波検査で胎児の様子を調べるため、広い意味で出生前診断に分類されます。


着床前診断のイメージ


染色体とは

※基本的に大きい順に番号がついています

染色体を顕微鏡で見ると左のように見えます。多くの方が、2対22組+性別を決めるXとYの染色体があります。合計46本の染色体は、それぞれお母さんとお父さんから1本ずつもらっています。染色体は、私たちの体を作る設計図なので、本数が多かったり少なかったり(数の変化)、形が変化する(構造の変化)と病気の原因になったり、リプロダクション(お子様をもうけること)に影響が出たりすることがあります。

胎児の染色体の変化

染色体の変化には「数」の変化と「構造」の変化の2種類があります。
ひとつには偶然におこる胎児染色体の数の変化があります。これは高年妊娠によって頻度が増えます。また、体質として胎児染色体に数の変化をおこす頻度の高いご夫婦もおられます。もう一つが、ご夫婦のいずれかに染色体の構造の変化がある場合であり、均衡型の構造変化を持つご夫婦は健康ですが、不均衡型の胎児の妊娠が生じます。いずれも胚発育不全による不妊および流産、染色体疾患の児の出生の原因となります。
現在、日本産科婦人科学会の特別臨床研究として、これらのご夫婦はいずれも着床前診断(着床前胚染色体異数性検査:PGT-A)の対象となります。

染色体の構造の変化

染色体の数の変化

※PGT-Aはこれを検出するための検査です。


着床前診断の対象となる方

a  PGT-A (preimplantation genetic testing for aneuploidy)
不妊カップルの体外受精・胚移植を行う際に、移植胚の全染色体を検査し、数の変化のない胚を移植し、流産率の低下と妊娠継続率の向上を目的とする。現在の特別臨床研究では、直近の2回の胚移植が妊娠しなかった場合や、過去2回以上の流産歴が対象となる。

b   PGT-M(preimplantation genetic testing for monogenic / single gene defects)
重篤な遺伝性疾患に罹患した児の出生リスクの高いカップルが対象となる。日本産科婦人科学会により事例ごとに個別審査が行われる。「成人に達する以前に日常生活を著しく損なう状態が出現したり、生存が危ぶまれる状況になる疾患」を重篤性の基準としている。

c PGT-SR(preimplantation genetic testing for structural rearrangement)
染色体転座や逆位などの構造の変化を有するカップルが流産を繰り返す場合に、移植胚の染色体を検査し、部分的な数の変化(不均衡型)のない胚を移植し、流産率の低下と妊娠継続率の向上を目的とする。

*これでわかる 網羅的手技による着床前診断のすべて 編集 倉橋浩樹 診断と治療社 より引用

着床前診断に関する日本産婦人科学会の報告

(日産婦誌69巻9号参照)
対象:1995年5月~2015年3月
1.遺伝性疾患の認可
1)神経筋疾患
・筋強直性ジストロフィー ・副腎白質ジストロフィー ・Leigh脳症 ・福山型筋ジストロフィー 
・脊髄性筋萎縮症 ・Pelizeus-Merzbacher ・先天性ミオパチー
2)骨結合織皮膚疾患
・骨形成不全症Ⅱ型 ・成熟型遅延骨異形成症 ・拘束性皮膚障害 
3)代謝性疾患
・オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症   ・PDHC欠損症(高乳酸高ビリルビン酸血症)
・5,10-Methylenetetrahydrofolate reductase欠損症
・Lesch-Nyhan症候群 ・ムコ多糖症1 1 Hunter ・グルタル酸尿症Ⅱ型
4)血液免疫
5)奇形症候群
6)染色体異常 重篤な遺伝性疾患児を出産する可能性のある染色体構造異常
7)その他 X連鎖性遺伝性水頭症

着床前診断のメリット・デメリット

メリット

  • 遺伝性疾患が遺伝する可能性のあるご夫婦が子供を持つことを諦めなくて良い。
  • 出生前診断と比べて検査そのものの胎児や母体に対する侵襲度が低い。
  • 妊娠前に行うため中絶による精神的・身体的負担が軽減される。

デメリット

  • 病気の原因の有無がわかっても、疾患によっては個々の症状の有無や程度についてはわからないことが多い。
  • 着床前診断の歴史が浅いため、胚盤胞を操作したことによる出生後の長期的なリスクが不明である。
  • 日本産婦人科学会でご夫婦ごとに審査されるため対象が限られる。
  • 費用が高額になる。

着床前診断の流れ


遺伝カウンセリングとは

  • 遺伝に関わる悩みや不安、疑問などを持たれている方々に、まず科学的根拠に基づく正確な医学的情報を分かりやすくお伝えし、理解していただけるようにお手伝いいたします。その上で、十分にお話をうかがいながら、自らの力で医療技術や医学情報を利用して問題を解決して行けるよう、心理面や社会面も含めた支援を行います。

  • 原則として自費診療になっており、施設ごとに価格が設定されています。一般的には5千円~1万円程度の施設が多いようです。施設によって料金設定が異なるので、遺伝カウンセリングを受けようとお考えの施設にお問い合わせください。  また、特定の遺伝性疾患に対しては遺伝学的検査に保険が適応されています(平成30年度改定)。