Supakulグループ
研究概要
主に精神・神経疾患の病態解明や創薬を目的として、患者さんの検体からiPS細胞を樹立し、様々な神経系細胞のin vitro系を作製・解析しています。
(1) 患者さんの検体を用いたヒトiPS細胞の樹立
臨床の診療科と連携しながら、患者さんの検体(血液や尿)を採取し、培養可能な細胞へ処理します。これらの細胞をiPS細胞へリプログラミングし、オリジナル株のiPS細胞を樹立します。樹立したiPS細胞は、核型解析や未分化マーカー発現の確認、三胚葉分化能の確認などの品質評価を行った上で(図 1)、様々な神経系細胞モデルへの分化誘導に使用します。
図1 ヒトiPS細胞の樹立および品質評価
参考文献
Sopak Supakul, 岡野栄之. NEURO LOGICA. 2022
(2) ヒトiPS細胞由来の神経系細胞を用いた共培養系の開発と神経変性疾患解析への応用
iPS細胞株を用いて、さまざまな分化誘導法によってiPS細胞から神経系細胞へと分化誘導を行います。さらに、作製した神経細胞とアストロサイトを組み合わせ、共培養系を開発しています。共培養系は、細胞成熟度を高め、各細胞種のin vivo様の形態に近づく効果をもたらす他、Tripartite synapseの形成や分泌物による刺激などの相互作用を有し、ヒト細胞を用いた疾患解析や創薬研究において強力なツールと考えられます(図 2)。
図2 ヒトiPS細胞由来の神経細胞とアストロサイトを用いた共培養系の開発およびアルツハイマー病の表現型解析への応用
参考文献
(3) 患者さんのiPS細胞を用いた精神疾患のトランスレーショナルリサーチ
統合失調症の患者さんにおける抗精神病薬の治療効果に基づく層別化および治療薬のメカニズムを理解するため、藤田医科大学の精神科と共同研究を行っています。具体的には、患者さんの血液検体を用いて新規iPS細胞株を樹立し、抗精神病薬のターゲットであるドーパミンD2受容体が発現する中型有棘神経細胞(Medium Spiny Neuron: MSN)への新規誘導法を確立しています(図 3)。
今後は、患者さん由来のiPS細胞からMSNを誘導し、治療反応の観点から、統合失調症治療薬であるドーパミンD2受容体阻害剤のメカニズムの解明・新規治療薬の開発に繋がることを期待しています。また、現在の研究基盤を活用し、今後はさまざまな精神疾患の病態解析および治療法開発への発展が期待されます。
図3 統合失調症患者の群分けに基づくiPS細胞の樹立およびヒトiPS細胞由来中型有棘神経細胞の新規分化誘導法の確立
