OGOB INTERVIEW

藤田医科大学 卒業生インタビュー仕事で大切にしていること、
なんですか?

医師

INTERVIEWvol.014

大切にしているのは、患者さんと誠実に向き合うこと

大谷内 樹那JUNA OYACHI

藤田医科大学病院 腎臓内科学 助教

医学部 2010年卒業

取材日

DESCRIPTION

「落ち着いていて堂々としている」「慌てたり、取り乱しているところを見たことがない」。これは大谷内先生が所属する藤田医科大学病院腎臓内科の医局スタッフの先生評だ。このことを先生に伝えると「アハハハ、そうなんですか。確かにそう見えるかもしれませんが、失敗して落ち込んだり悔しい思いをしたこともたくさんありますよ。でもあまり引きずることなく、復活できる方かな」と笑いとばす。冷静沈着でいられることは医師にとって大きな強みといえる。とはいえその道のりは決して順風満帆だったわけではない。自身の体調不良、そして大学4年生の時には病気に伴う不慮の事故で母親を亡くした。辛さを知っているからこそ、「自分が患者さんだったら、家族だったらどうしてほしいか」。そんな患者視点で考えることを何よりも大事にしている。

この仕事をずっと続けていきたい

─まずは普段のお仕事を教えていただけますか?
月曜日が腎臓内科の外来、金曜日が腹膜透析の外来を担当しています。それ以外は、入院患者さんの診察やシャント手術、腎生検などですね。

─シャント手術、腎生検とはどういうものなんでしょうか?

腎生検は、背中側から腎臓に直接針を刺して組織を取り、顕微鏡で見て腎臓の状態を調べる検査です。シャント手術は…その前に血液透析について説明しますね。血液透析は、機能しなくなった腎臓の代わりに腕に刺した針から機械によって血液を取り出し、老廃物や余分な水分を取り除いてきれいにした上で体内に戻す治療です。血液透析を行うには、1分間におよそ200mlの血液を循環させる必要があるので、手の動脈と静脈を一部吻合することによって、血流量を確保します。この血管をつなぎ合わせる手術がシャント手術です。

─なるほど、血液透析に必要な処置というわけですね。

そうです。透析治療は主に「血液透析」と「腹膜透析」の2種類があります。血管を通して行う血液透析に対し、腹膜透析は胃や腸などの臓器を支えている腹膜という薄い膜の中にカテーテルという管を使って透析液を注入・排出するので、シャント手術は行いませんが、カテーテルを体内に埋め込む手術が必要です。

─そういう違いなんですね。勉強になりました。ところで大谷内先生が腎臓内科を選ばれたのはどうしてですか?

先ほどの透析や腎生検もそうですし、手術もあり、治療が多岐にわたるところですね。腎炎や膠原病など症例も幅広いですし、そういう点が魅力でした。あとは、医局の教育的な雰囲気ですね。カンファランスの時も上の先生がしっかりフィードバックしてくれ、研修医向けのセミナーなんかもたくさんあるので、自分が入っても何とかやっていけるかなって思いました。

─指導がしっかりしているのは安心ですね。

研修医1年目で結婚していたということもあり、この仕事をずっと続けていきたいと思っていたので総合的に考えた時に腎臓内科かなと。

─現在は、大谷内先生ご自身も学生や研修医の先生に指導される立場かと思いますが、その際に心掛けていることはありますか?

各診療科を回る4、5年生時のポリクリ(臨床実習)では、研修医の先生に丁寧に指導してもらったので、私も学生さんや研修医の皆さんには、教えられることはしっかり伝えていきたいと思っています。

─では、医師として一番大切にしていることはなんでしょうか?

「自分が患者さんだったらどうしてほしいか」を考えて行動することですね。分かりやすく説明してほしい、こんな対応はしてほしくないとかあるじゃないですか。患者さんの思いを汲み、誠実に向き合うこと、それはいつも大事にしています。

サポート体制がしっかりしているから安心して勉強に打ち込める

─話は変わりますが、先生が医師をめざしたのはいつごろからですか?

子どもの頃になりたかったのは、漫画家です。絵を描いたり、本を読むのが好きだったので。高校1、2年生の頃は、職業の選択肢がよく分かっていなくて、女性が一生働ける仕事ということを考えた時に医師が浮かびました。とくに読んでいた本の影響もあって精神科医にあこがれていましたね。

─なんていう本ですか?

『最後の家族』という村上龍さんの小説です。精神科医が心の病を抱えた方のサポートを通して家族を再生させていく話なんですけど、そういうサポートができる精神科医ってカッコいいなって思ってました(笑)。

─あこがれから始まったんですね。

でも成績があまり良くなかったので結構苦労しました。とくに中学・高校と月経困難症で痛みがひどく、子宮内膜症みたいな症状もあって、毎月生理のたびに吐いては1週間ぐらい寝込んでいました。成績も伸びず悩みましたね。病院では痛み止めを出してもらっていたんですけど、あまり効かなくて。それで高校生ぐらいの時に、インターネットで子宮内膜症を調べて、低用量ピルによるホルモン療法があるってことを学んだ上で、婦人科に相談に行ったんです。

─婦人科の先生に低用量ピルの処方をお願いしたとか?

女子高生が「低用量ピルを出してください」って頼むんですから、びっくりしますよね(笑)。古い考えの先生だったら「いかがわしい」って思われたかもしれませんが、私の担当の先生は理解があり、処方していただいてすごく症状が良くなったんです。

─自分で病気を調べて、薬を探し、症状が楽になった。そういう経験も医師への道へつながったんですね。

ほんとにそうですね。

─医学部以外の選択肢はなかったんですか?

いろいろ考えましたけど、他の選択肢を考えるより、まずは頑張って受験しようかなって。

─それで藤田医科大学を志望されたわけですね。

何より、家から近い (笑)。一人っ子なので、自宅から通学できる方がいいと思いました。「藤田のこういうところが魅力で受験しました」と言えるといいんですけど、本当の魅力って入学前にはなかなか分からないものなんですよね。私は、入る前より入ってから本学の良さを実感しました。

─具体的にはどういうところが良かったんでしょうか?

一番は面倒見がいいところ、サポートが充実しているところですね。先生方もそうですし、カリキュラム的にもみんながなるべく勉強するような体制になっているので、脱落するリスクが少ない。放任じゃないので、そういった意味で学生も保護者も安心だと思います。実習もいろいろな診療科を回れて興味深かったですし、クラスも仲良く、勉強もみんなで問題を出し合いながらワイワイやるのは楽しかったですね。高校生の時に想像していたよりも、ずっと充実した学生生活でした。

─印象に残っている授業はありますか?

やはり解剖実習ですね。たまたま多発性嚢胞腎という、腎臓の中に水の袋がいっぱいできる腎臓病の方を受け持ったんですけど、普通は腎臓の大きさって握りこぶし大といわれていますが、その方の腎臓を取り出した時にすごく大きくてびっくりしたことを覚えています。医学生ならみんなそうだと思いますが、それまでは座学だったのが、ご献体の解剖をさせていただくことで、自分がこれから医師になるんだという自覚に身が引き締まる思いがしました。他には、やはりポリクリが印象に残っていますね。

─どういう点が印象的でしたか?

帝王切開の手術だったんですけど、ものすごいスピードで赤ちゃんを取り上げて止血の処理を施し、縫っていくんです。3つ子の出産とかも見ましたが、とにかく手技の速さに驚きました。また、研修医1年目の時には腎移植の手術にも関わらせていただきました。移植登録している患者さんが亡くなりそうだという他病院からの連絡を受けて、腎臓を取り出す手術に向かう泌尿器科の先生に同行し、勉強させていただいたのも貴重な経験だったと感じています。

─移植医療というのに初めて触れたわけですね。

そうですね。死亡宣告されたばかりのご遺体を手術室に運んで、腎臓を丁寧に取り出し、持ち帰って移植するんですが、学生時代に見たホルマリン漬けになっているような臓器と全く違って、生きている臓器というのを目の前にしてとても神聖な気持になりました。

─移植医療や希少疾患の診察も含めて、病床数や症例数が多いということは、貴重な経験や学びを得られる機会もおのずと多くなりますよね。

ポリクリで手術室に入ると、取材陣が来ていたりすることがよくありました。最先端の医療を身近で学べるというのは、医師となる上ですごく良い経験になるのは間違いないですね。

─ポリクリや研修医時代でもいいんですが、ご自身が診察に関わりはじめた頃、とくにうれしかった出来事があれば教えてください。

研修医時代の腎臓内科に入ることが決まっていたぐらいの時だったと思いますが、いろいろな診療科で診断がつかなかった20代女性の患者さんを診察したことがあります。カルテとかで情報を集めて診察してみると、顔が丸くて、皮膚のところが赤くひび割れているような特徴的な所見があって「絶対、クッシング症候群だ」って確信したんです。ホルモンの病気なんですけど、他の先生方に先駆けて診断をつけられたことは初めてだったので、すごくうれしかったし、自信になりましたね。

レベルが高い環境で自分を磨くことが成長につながる

─学生時代に教員の先生から言われて心に残っている言葉とか教えはありますか?

うーん、どの先生に言われたのかは忘れましたけど「5人の法則」かな。

─5人の法則?

最も一緒にいる時間が長い5人の平均が「私」になるという、アメリカの起業家の言葉です。価値観や思考など近くにいる人の影響を受け、その平均になっていくそうです。どんな人と一緒に過ごすかが大切ということですね。

─ポジティブな人が周りに5人いれば自分もそうなれるし、レベルが高いところにいれば自分も成長できるようなイメージですね。

そうです、そうです!だから私自身、藤田医科大学病院にいるのかも。ここの先生方は皆さん勉強熱心ですし、レベルも高いですから。

─勉強以外で大学時代に経験しておいた方がいいことを後輩に伝えるとしたら?

体力とコミュニケーション力を鍛えることですね。私は、中学・高校時代は運動部ではなかったんですが、「絶対に体力が必要になる」と考え、本学ではバドミントン部に入りました。練習は週3、4回でしたが大会に向けて、楽しくがんばっていましたね。部活の仲間や大学の同期は、困った時に相談したり、今でも何かと頼りにしています。

─確かに医師という仕事はハードですし、体力がないときついですよね。

そうなんです。でも、医師になる上で一番苦労するのはコミュニケーションかも。幅広い年齢層の患者さんやご家族と良好な関係を築くのは簡単なことではないので、学生時代から少しでもそういう練習をしておくのはおすすめです。私は、靴や服が好きだったということもあり、学生時代は販売のアルバイトをしていました。その中でお客さんに「こういう商品がありますよ」と提案したり、言葉遣いやコミュニケーションを学びました。今思えば患者さんと接する上でこの経験は大きかったですね。自分の経験では、余裕があれば部活やバイトをやるといいと思いますよ、気分転換にもなるので。

─藤田で学んだことが今の仕事にどのように役立っていますか?

コツコツと勉強する習慣が身についたことかな。学生時代はこまめにテストがあったり、誰一人、脱落しないようにサポートしていただいたので、医師になった今でも専門医の試験を受けるにあたり、計画的に勉強できるようになりましたね。現在は、腎臓内科の専門医、透析の専門医、総合内科専門医の資格を持っていますが 、すべて出産後に受験したので、そういう習慣がなければもっと大変だったでしょうね。

─計画的にですか…それがなかなかできない(笑)。

普段においても、やはり3歳と8歳の子どもの母親ですし、わりと限られた時間で勤務しているので、出勤後には今日は何をやる、何をやるっていう段取りをある程度決めて就業時間内には仕事を終えるように心掛けています。

─ご家族は大谷内先生の仕事をどう見ているんでしょうか?

夫は、子どもがハチに刺された時も私が慌てず対応したせいか「妻が医者で良かった」って安堵しています(笑)。子どもたちに対しては、働いている母親として接したいなと常々思っています。「社会に貢献しとるんだよ、お母さんは」って。最近は上の子と算数や英語を一緒に勉強したり、ギターの教室に付いて行ったりする時間が楽しいですね。

─そんな大谷内先生の今後のキャリアプランを教えてください。

目標としているのは当科教授の長谷川みどり先生ですね。たくさんの患者さんを診てらっしゃるはずですけど、「こういう患者さんが」って相談すると「ああ、あの患者さんね」って一人ひとりの情報や病状の経過など、細かいところまで把握していることに圧倒されます。そういう先生を身近で見ていると、疾患だけでなく患者さんを取り巻く環境や生活習慣を含めてトータルに診られる医師をめざしていきたいと思いますね。

私の相棒

スマートフォン

薬の量を調べる専用のサイトや、患者さんが在宅で行っている腹膜透析を遠隔でモニタリングできるプログラムなど、いろいろなサイトを活用しています。また、医師や医学生は皆さん使っていると思いますが「UP TO DATE」というサイトは、海外の最新情報を手軽に調べられ、日本の医療情報も系統的にまとまっているので重宝しています。他にも、他病院と病理のデータを共有しながらTeamsで治療方針などを検討することもできるし、そういう意味でもスマホは仕事に欠かせないツールですね。

家族の話となると、より優しい表情になる。医師として、妻として、母親として忙しい日々を送る中で、家族のバックアップが何よりの力の源になっているんだろう。そんな大谷内先生に医師としてのやりがいを問うと「先生に診てもらって良かったと言われること」という返事が返ってきた。患者さんからのシンプルながらも信頼を込めた一言。その言葉を聞くために、大谷内先生は今日も誠実に患者さんと向き合い続ける。