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2025年度


【医学部】選択制臨床実習

小西彩加さん(写真右)

医学部6年生 小西彩加さん
研修先:国立台湾大学(台湾)(前半4週間)
    中国医薬大学(台湾)(後半4週間)

原田佳奈さん(写真左)

医学部6年生 原田佳奈さん
研修先:ネブラスカ大学(米国)(前半4週間)
    シンガポール国立大学(シンガポール)(後半4週間)
1.渡航先の情報について

小西さん:
私が渡航した台湾は、日本と同じ東アジアに位置し、飛行機で3-4時間と気軽に訪れることができる国として有名です。大きさは、日本の九州地方とほとんど同じです。文化としても、日本に近しいものを感じられる国で、至る所に日本の製品やキャラクター、アニメ、本、フードチェーンなどを見つけることができます。
言語は台湾華語と台湾語の2種類があります。台湾華語は中国大陸で主に話される北京語(Mandarin)と似ていますが、一部異なる部分があります。現地の先生や学生の方は、英語を流暢に話される方が多く、基本的に英語で実習することができました。
また、台湾は国土がいくつかの県に分かれており、首都は台北にあります。私は台北と台中で実習をしたのですが、県によって気候や食べ物の味付け、街の雰囲気が違うところが興味深かったです。 現地の方々は親日の方が多く、優しく接してくださる方ばかりで、安心して実習することができました。

原田さん:
私が前半に実習を行ったUniversity of Nebraska Medical Center (UNMC) は、アメリカ中西部ネブラスカ州オマハにあります。オマハは州最大の都市で、医療や教育の拠点として知られ、シカゴから飛行機で約1時間の距離に位置しています。UNMCは州を代表する医療機関で、キャンパス内には医療系学部や附属病院、研究施設が集まり、地域医療から先端医療まで幅広い診療が行われています。オマハは移民が比較的少なく、実習中に接する患者さんはアメリカ国内出身の方が大半でした。キャンパスには多くの多国籍な留学生が在籍し、大学の国際交流センターが主催する文化イベントが頻繁に開催されるため、キャンパス全体が国際色豊かな雰囲気に包まれていました。
また、実習後半に渡航したシンガポール国立大学は、中華系、インド系、マレー系の移民が多く、英語、中国語、タミル語、マレー語の4つが公用語として使用されています。実習先のNational University Hospital は、National University of Singapore付属の大学病院であり、国が管理するNational University Health Systemに属する医療機関の一つです。World’s Best Hospital にも選ばれるなどアジアを代表する大学であり、世界的にも高く評価されています。院内のスタッフ同士の会話やカルテ記載には英語が用いられますが、患者さんの中には中国語を母語とする方も多く、場面に応じて言語を使い分ける様子が印象的でした。

2.研修に参加した理由

小西さん:
将来、海外で英語を使って働いてみたいという漠然とした思いがありましたが、今回の研修に参加して、その気持ちを確かめたい!という思いで研修に参加しました。また、本学の大学病院で実習中、外国人留学生と交流する機会が多く、異文化に触れることの面白さを知ったことも、今回の研修に参加した理由の一つです。多様な文化に触れ、自国との違いを認識することはもちろん、日本の医療の特徴や文化について客観的に捉えられるようになりたいと思っていました。

原田さん:
私には、国や地域を問わず、医療を必要とする人々のために、その場に合った医療を提供できる医師になるという目標があります。その実現のためには、文化、習慣、価値観、そして法律や医療システムなどが大きく異なる異国での経験を通して、日本との違いを学び、自らの視野を広げることが不可欠だと考えています。今回の研修に参加したのは、異なる環境下での医療を実際に見て感じることによって、自身の具体的な将来像を描くための貴重な一歩を踏み出したいという強い思いがあったからです。

台北の風景(小西さん)

国立台湾大学でお世話になった先生方との写真(小西さん)

3.渡航前の英語学習について

小西さん:
留学の参加条件にもあるTOEFL iBTの対策をする中で、特にReading・Listening・Speakingの力を伸ばすことができました。また、日常的に英語でニュースを聞いたり、Chat GPTと英語で会話練習をすることで、英語でのコミュニケーションに慣れていきました。
また、渡航前に大学のLearning Medical in English(LME)という医学英語に関する授業を受講しました。月に1回、問診・病歴聴取・身体診察といった基本的な診察を英語で行う方法や、鑑別診断の絞り方やカルテの書き方、外国人留学生とのロールプレイといった様々な技能を英語で学び、現地での実習に備えることができました。

原田さん:
今回の留学に向けて、低学年の時に学んだ医療英単語を改めて見直しました。また、大学が提供する「Learning Medical English」というプログラムでは、模擬患者さんを相手に、英語での問診や身体診察の練習を徹底的に行いました。

4.留学目標と実行内容

小西さん:
目標①:英語で問診や身体診察ができるようになること
現地では英語を話せない患者さんが大半でしたが、学生や先生方は英語に堪能な方が多く、彼らの協力を得て診療に参加することができました。日本と比較して、より丁寧な問診と身体診察を行う傾向があったため、英語力を大きく伸ばすことができました。また、英語で記載されたカルテの読解や先生方とのディスカッションを通じて、英語での情報収集と発信を繰り返すうちに、英語で意見を述べることへの抵抗感がなくなりました。

目標②:台湾と日本の医療制度の違いについて理解すること
台湾は日本と同様の保険制度を採用しており、双方ともに医療費増大という深刻な課題を抱えています。情報交換を通じて、両国の医療制度が抱える問題意識を共有し、理解を深めることができました。

目標③:台湾の文化を知り、現地の人とたくさん交流すること
台湾は外食文化が非常に盛んであり、手頃な価格で美味しい料理を楽しめる飲食店が数多く存在します。実習後には、現地の学生や若い先生方と食事を共にする機会に恵まれ、台湾の食文化に触れながら、多くの方々と交流することができ、非常に有意義な時間を過ごすことができました。

目標④:自分が将来進みたい進路について、実習を通して考えること
国立台湾大学では内科と小児科、中国医薬大学では救急科と麻酔科で実習させていただきました。事前に自身の興味のある診療科を申告し、希望する診療科で実習を行うことができました。実習中は、積極的に質問するなど自ら学ぶ機会を設け、日本では経験できないような貴重な経験を数多く得ることができました。また、現地の先生方には将来の進路についてもご相談に乗っていただき、自身の将来を見つめ直す良い機会となりました。

原田さん:
今回の海外研修における目標は大きく分けて2つありました。
1つ目は、医療現場における日米間の違いを理解し比較するとともに、実際に現地の医療を経験することでした。最初に訪れたアメリカでは、診療スタイルや医療保険制度のみならず、医師の働き方にも大きな違いがあり、戸惑う場面も少なくありませんでした。しかし、毎朝の回診への積極的な参加、手術の見学、さらには現地の医学生が外来で医療面接を行う場面への同席を通して、患者さんとのコミュニケーションにも挑戦しました。不明な点があれば、積極的に現場に飛び込み、必死に食らいつくことで、これらのギャップを克服しました。
シンガポールでは、海外実習2ヶ月目ということもあり、現地の医療現場における作法にも慣れ、先生方へ積極的に質問を投げかけることができました。その熱意が評価され、指導医の先生方から縫合の機会を数多くいただき、実習後半には細い糸を用いた縫合を非常に綺麗に仕上げることができるようになったと評価していただきました。後日、その患者さんの創部が良好に治癒している旨を指導医の先生からご連絡いただいただき、とても嬉しかったです。

2つ目は、現地の先生方や学生たちと積極的に交流し、医療のみならず生活の中に根付く文化的背景にも触れながら、現地での生活を最大限に充実させることでした。アメリカでは、大学側が主催するイベントに積極的に参加し、そこで出会った友人や、外科研修を共にした医学生たちと動物園や博物館などを訪れました。積極的に交流を深めたことで、多くの思い出を作ることができたと感じています。
シンガポールにおいても、先生方が温かく迎え入れてくださり、日本の医療について熱心に質問してくださったり、実習期間を通して食事会を催してくださったりと、大変楽しい時間を過ごすことができました。また、イギリスから同様に実習に来ていた医学生とも仲良くなり、共に観光したり、それぞれの国の医療制度や研修制度について語り合うことで、自身の視野を広げる貴重な機会を得ることができました。

中国医薬大学でお世話になった先生方との写真(小西さん)

国立台湾大学病院の前での一枚(小西さん)

5.留学中、大変だったこと

小西さん:
トイレや飲食店では、日本の清潔さと比較すると、衛生面で気になる点もありましたが、徐々に現地の環境に慣れ、快適に過ごせるようになりました。
実習は、特に救急科と麻酔科では非常に内容が濃く、毎日が勉強の連続でした。一つでも多くを学びたいという気持ちが強かったものの、慣れない環境での緊張からか、体調を崩してしまうこともありました。しかし、海外旅行保険に加入していたおかげで、安心して現地の病院を受診でき、『休むことも実習の一環』と捉え、無理せずメリハリをつけて取り組むようにしました。

原田さん:
留学中に大変だったこととして、時差と生活リズムの調整が挙げられます。UNMCのあるアメリカ・オマハは日本との時差が−14時間と大きく、昼夜が完全に逆転するほどでした。さらに、20時ごろまで明るい日が続くため、渡航後の1 週間は体内時計の調整に苦戦しました。毎日実習が終わった後、夕方に1 ~2時間仮眠を取ってから夕食を摂るという生活を続けることで、徐々に体を慣らしていきました。
続いて渡航したシンガポールでは、再び日本との時差に体を戻す必要があり、こちらも調整に3日ほどかかりました。
また、オマハではセーターにダウンを羽織っても寒さを感じる日があった一方で、シンガポールは一年中蒸し暑い常夏の気候であり、短期間で極端な寒暖差を経験することとなりました。体調を崩すのではないかと心配していましたが、幸い2ヶ月間を通して健康に過ごすことができました。

6.留学中、印象に残ったこと

小西さん:
中国医薬大学の救急科の実習では、夜勤シフトも経験させていただきました。台湾はバイクに乗る人がとても多いため、交通外傷の患者さんが日本では考えられないほど多いです。実際に私も何人もの外傷患者さんの対応に同行させていただいたのですが、ある夜、1人の心肺停止の患者さんの蘇生に立ち会っていると、さらに2人の意識が低下した患者さんが運ばれてきました。ドタバタと駆け回るスタッフの方をただ眺めているわけにもいかず、指示を受けて尿道カテーテルを患者さんに挿入していると、患者さんの心拍が停止していまい、そのまますぐに心臓マッサージに移行しました。その方はご家族の希望で、最後まで心臓マッサージを行いました。バキバキに折れてしまった肋骨と、やや冷たくなっている皮膚の感触が忘れられません。初めて目の前で患者さんが亡くなるシーンに立ち会い、自分は何もできなかったという無力感を感じたと同時に、重篤な場面でも適切に判断できる医師になりたいという気持ちでいっぱいになりました。

原田さん:
留学中、特に印象的だったのは、米国とシンガポール両国において、患者さんが医学生の教育に対して非常に協力的であったことです。外来や病棟で患者さんと接する際、医学生である私に対しても、主治医と同様に心を開いて接してくださり、質問に丁寧に答えてくださったり、気さくに話しかけてくださる方が多くいらっしゃいました。教育に対する深い理解と協力の精神が、医療現場全体に根付いていることを強く実感いたしました。
また、指導医の先生方や現地の学生、そして患者さんの中にも親日的な方が多く、日本からの留学生であると伝えると、「ようこそ、たくさん学んでいってね」と、言葉や態度で温かく迎えてくださいました。文化や国境を越えて、人々の温かさに触れることができた経験は、私にとって大きな励みとなり、より一層学びに対する意欲を高めるきっかけとなりました。

シンガポール大学の形成外科の先生方との昼食(原田さん)

シンガポール大学で出会ったイギリスの医学生との写真
(原田さん)

7.今回の留学を今後どのように活かしていきたいか

小西さん:
今回の留学では、現地の文化に触れること、そして英語でのコミュニケーションの楽しさを改めて実感することができました。台湾では医療費の増大が深刻な問題となっており、実習を通して医療保険制度について深く考える機会を得たことから、医療政策に関心を抱くようになりました。
また、留学中に台湾の先生方から温かい励ましの言葉をいただき、将来は必ず海外で学びたいという思いを強くしました。特に、医療政策に関心を持つようになったことから、海外の公衆衛生大学院への留学を視野に入れ、今後も英語学習を継続していくつもりです。

原田さん:
今回の留学経験を通して、私が異文化の中で独り過ごす中で感じた「言葉や文化の違いによる不安」は、今後日本で診療に携わる際にも常に意識し続けたいと考えています。外国人患者さんは、健康状態への不安に加え、言葉や文化の壁に対する不安も抱えていらっしゃる可能性があります。私は、その気持ちに寄り添い、安心して医療を受けていただけるようなコミュニケーションを心がけることが、医師として重要であると再認識しました。
また、世界のどの地域においても、文化をはじめとする様々な要素が人々の生活習慣を形成し、それが疾病の予防や発症に影響を与えることを学びました。今後、どの国や地域で働くことになったとしても、その土地ならではの背景を理解し、柔軟に対応できる姿勢を持ち続けたいと思います。そして、物事を一方向からだけでなく多角的に捉え、多様な価値観に配慮しながら日々の診療に臨むことを心掛けたいと思います。

8.留学を考えている人へのメッセージ

小西さん:
海外に興味を持っている人は、どの国でもいいのでぜひチャレンジしてみてほしいです!今はインターネットを通して簡単に情報収集ができる上に、英語が話せなくてもアプリが翻訳してくれるようになりましたが、時間と労力をかけて海外に行く意味は大いにあると思います。現地でしか味わえない雰囲気やにおい、人々の考え方、食べ物の味など多様な刺激に触れる中で、将来どのように生活し、どのように働きたいか、日本での日常から一度離れて、じっくりと考えることができました。そして日本にいたら絶対に出会えない多様な価値観に触れて、人間として成長できた気がします。少しでも迷っている人は、是非挑戦してみてください!

原田さん:
とにかく、チャンスに飛び込むことです。人生のうち、チャンスは何度巡ってくるか分かりませんし、目の前にあるチャンスが次も必ず掴めるとは限りません。迷う気持ちがあっても、思い切って挑戦してみれば、きっとその経験の中で大きな学びと、自分自身の成長を実感できるはずです。新しい環境に身を置くことでしか得られないものが、必ずあります。ぜひ頑張ってください。

シンガポール国立大学 消化器外科の先生方との写真
(原田さん)

ネブラスカ大学で出会った友人との写真(原田さん)