藤田医科大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科

最先端の画像診断技術と耳科領域への応用
research

本学はCT機器の開発に関与していることから、世界最先端のCT機器が常に導入されています。また本学放射線科・放射線学科・病院放射線部にはこの分野におけるえり抜きの指導者がそろっています。このような環境の中、当科では最新のCTを用いた耳鼻咽喉科領域、特に耳科領域における新しい技術の研究・開発を行っています。
CTの特長は、解像度の高い、ゆがみのない立体的なデータを高速で得ることができる点です。これらの特長は機器の進歩とともに日進月歩に改善が繰り返されてきました。我々の教室では、新しい技術が登場するのにあわせ、耳鼻咽喉科領域での活用法の研究と開発を継続して行ってきました。
1998年~2002年ごろにはCTの高精細化と高速化が成し遂げられましたが、早速これを応用し、耳小骨、咽喉頭などの微細な解剖学的構造を描出し、手術所見や病理学的所見と対比して形態学的に検討を行う研究を行いました。当時の主な研究内容は「これまで描出できなかったものが撮影された」ことにとどまっていましたが、その後機器の高速化(ヘリカルCT、マルチスライスCT)により「撮影のさいに息を止める時間」が短縮したことを応用し、バルサルバ法(息こらえ)中に耳管と周囲の構造を明瞭に撮影することに成功し報告しました(①)。その後さらに、CTを耳科領域の形態学的研究に応用し、生体の耳管の立体計測を行い、日本人における標準的な耳管形態を明らかにしました(②)(*1)。従来は死体標本に頼っており位置的に検討が不可能であった、生きているヒトの顔の深部の計測にCTを活用できることを証明したのです。その後もこの研究を続け、小児にこれを応用し、
耳管のサイズや角度が年齢とともにどのように変化していくかを初めて明らかにしました(③)。この成果は小児科でも発表し(④)、耳科形態学の専門書にも収載されました。また、各中耳疾患での耳管の形態学的な差異の検討も行いました(⑤)。

CTは2007年ごろから、一回転あたりで撮影できる範囲が飛躍的に広く改良されました(高速多列面検出器CT)。これにより、撮影の低被曝化と、動的な撮影(4DCT)が実現しました。我々は放射線の照射量について標本を用いた基礎実験を行い、単純レントゲン写真と同じ程度の放射線量で撮影する超低被曝側頭骨CT検査法を開発しました(⑥)(*2)。また、動的なCT(4DCT)により、気管支に異物が入った患者の肺機能を精密に診断する方法を提案し(⑦)、これは日本気管食道科学会の気管支異物の診療マニュアルにも収載されました。飲み込み運動のさいの耳管の開閉運動、耳管開放症患者で鼻すすりによって耳管が閉鎖する現象についてもそれぞれ世界で初めて画像化に成功しました(⑧⑨)。また、リハビリテーション科とともに嚥下動作時の咽喉頭の動的評価の研究も続けています(⑩)。(*3)
2017年以降、CTは従来の機器の倍の超高画質のものが登場しました(超高精細CT)。我々もこの機器の開発・画質評価などに標本の撮影などを通してプロトタイプの開発段階から関与し、数々の世界初の画像とともに、耳科領域における新しい活用方法について考察し発表しております。(⑪)(*4)

機器の進歩は日進月歩ですが、あくまでも「新しいツールが開発されていく」ことにすぎません。新しい技術をどのように臨床現場に生かすのか、どのように研究に生かすのか、ひいては社会の福音になるのかどうかは、実臨床を担当する我々の研究にかかっています。当教室ではこれからも放射線の専門家と協働し、研究を進めていきたいと考えています。

  1. ① バルサルバ法を用いた高速1mm・8列マルチスライスCTによる耳管描出, Otol Jpn 13-2, 2003.
  2. ② マルチスライスCTによるヒト耳管の立体解剖的計測, Otol Jpn 17-2, 2007.
  3. ③ マルチスライスCTによるヒト耳管計測値の年齢変化について, 日耳鼻 111-7, 2008.
  4. ④ 耳管の形態と機能 : 成人とはどう違うのか?, 小児科診療 77-7, 2014.
  5. ⑤ マルチスライスCTによるヒト耳管の立体解剖学的研究, 藤田医誌学位論文集 25,2006.
  6. ⑥ 320列面検出器CTによる超低被曝側頭骨CT検査法の提案, Otol Jpn 22-5, 2012.
  7. ⑦ 320列高速多列面検出器CTによる小児気管支異物の診断, 日気食誌 61-5, 2010.
  8. ⑧ 耳管疾患の最前線—多列検出型CT機器による耳管形態と機能の解析, 日耳鼻 114-6, 2011.
  9. ⑨ Movement of the Eustachian tube during sniffing in patients with patolous Eustachian tube:
    evaluation using a 320-row area detector CT scanner. ,Otol Neurotol 34-5, 2013.
  10. ⑩ Evaluation of swallowing using 320-detector-row multislice CT. Part I:
    single- and multiphase volume scanning for three-dimensional morphological and kinematic analysis.,Dysphagia26-2,2011(共著)
  11. ⑪ 市販型超高精細CTの耳科領域における使用経験, Otol Jpn 28-2, 2018.

*1 第12回日本耳科学会奨励賞(2006年)
*2 第19回日本耳科学会奨励賞(2013年)
*3 第15回日本摂食嚥下リハビリテーション学会奨励賞
*4 第26回日本耳科学会ポスター賞

(1)320列CTによる4DCTの例

左気管支異物(上記⑦)。主気管支に異物が嵌頓しているため左肺が過膨張し、右肺でのみ換気が行われている様子が視覚的に把握できる
左気管支異物(上記⑦)。
主気管支に異物が嵌頓しているため左肺が過膨張し、右肺でのみ換気が行われている様子が視覚的に把握できる
上記⑧。嚥下の瞬間に、鼻咽頭腔と耳が一瞬交通する様子を世界で初めて画像化した
上記⑧。
嚥下の瞬間に、鼻咽頭腔と耳が一瞬交通する様子を世界で初めて画像化した

(2)超高精細CTの例

正常の軸位断を示す。従来のCTと比し解像度(空間分解能)は圧倒的である。
正常の軸位断を示す。
従来のCTと比し解像度(空間分解能)は圧倒的である。
耳かき外傷による、アブミ骨骨折と、前庭窓陥入の描出例。微細な病的変化を描出できることから、病態を画像的にも支持できるようになった
耳かき外傷によるアブミ骨骨折と、前庭窓陥入の描出例。微細な病的変化を描出できることから、病態を画像的にも支持できるようになった
嚥下時の耳管の開放状態の描出
耳小骨の超高精細3DCT例。従来のCTではアブミ骨構造を撮影できないことも多々あったが、確実に耳小骨形態を描出できる