藤田医科大学 整形外科

特集 指導者インタビュー

金治 有彦 教授(ばんたね病院)
人工関節センター長兼務
※人工関節センターについてはこちら

股関節外科、小児整形外科、スポーツ整形(股関節)、
人工股関節手術(関節包靭帯を温存した人工股関節置換術、
ナビゲーションシステムを使用した人工股関節置換術)、
股関節疾患に関わる低侵襲治療
(関節包靭帯を温存した股関節鏡視下手術、
再生療法(APS療法、PRP療法))

どのような気持ちで日々の診療を行っていますか?

2023年度、私は人工股関節全置換術163例(片側施行120例、両側同時施行43例)、人工股関節再置換術5例、股関節鏡視下手術5例などの手術を行ってまいりました。今後も小児から成人、高齢者までの幅広い層の患者が存在する股関節疾患に対して、現在の治療体系中で最高レベルの治療を提供するよう努力する所存です。患者の皆さんに股関節の痛み対する最高レベルの治療というのは、最新の高度医療技術を提供するということだけではありません。私はそれぞれの患者の皆様やご家族の希望や社会的背景を十分に考慮した患者本位の治療を提供したいと思っています。

整形外科医・股関節外科医としての目標は?先生の今後の夢は何ですか?

おとなの股関節についてはかなり悪化した股関節(進行期・末期変形性股関節症)に対して股関節周囲筋および関節包靭帯を切離せず完全温存して行う低侵襲人工股関節置換術を導入しており、疼痛も少なく入院期間短縮が達成できています。私はこの手術をさらに低侵襲で疼痛の少ない手術手技にすることで患者満足度を高めたいと考え、日々研鑽を積んでいます。また人工関節手術よりも低侵襲な股関節鏡視下手術を関節唇損傷や軽度の変形性股関節症に対して導入し、さらに股関節疾患に対する新しい再生療法の有効性についても研究しています。私は今後もさらなる治療の低侵襲化に関する研究を深め、質の高い治療を患者へ提供できるようにしたいと思っています。またその成果については股関節外科を志す若手の有望な医師に一人でも多く伝え、継承していきたいと思います。それが現時点での私の股関節外科医としての目標であり夢です。

股関節の痛みの原因や治療について簡単にご説明ください。

股関節の痛みの原因ですが、我が国では特に女性の股関節痛の患者様には発育性股関節形成不全の方が多いです。最近は寛骨臼大腿骨インピンジメント(FAI)にも注目が集まっています。治療については保存療法には運動療法・ストレッチ・関節内注射(再生療法を含む)・薬物療法などがありますが、疼痛が強く保存療法が効かない場合には手術を考慮します。詳しくは図1と関節治療オンライン「変形性股関節症の症状や原因、治療方法に関する解説」(掲載記事はこちらをご覧ください。)


図1

股関節鏡視下手術や人工股関節手術についてもう少し詳しく説明してください。

股関節の関節唇損傷(FAI)や前期・初期の変形性関節症、一部の小児股関節疾患(化膿性股関節炎など)に対して股関節鏡視下手術に取り組んでいます。当科では関節包靭帯については腸骨大腿靭帯垂直束、恥骨大腿靭帯、坐骨大腿靭帯を完全に温存して鏡視下手術を行っています。関節を切開する従来の手術に加えて術後早期の回復が期待できます。

当院で行っている股関節鏡視下手術(Mid anterior portalの作成)

当施設で行われている人工股関節全置換術
仰臥位前外側進入最小侵襲人工股関節全置換術(AL-Supine approach)+関節包靭帯温存手技+術中ナビゲーションもしくは手術支援ロボット使用)

幅広い年齢層の様々な股関節疾患に対して、ナビゲーションシステムや手術支援ロボットを使用した人工股関節全置換術(関節包靭帯温存したMIS人工股関節手術)を積極的に導入しています。

我々の施設は米国ジンマー・バイオメット社が開発した人工股関節置換手術支援ロボット「ROSA Hip システム」をアジア※で初めて導入しました(※オーストラリアを除く)。2022年10月22日に1例目の人工股関節置換術を実施し、その後も良好な成績を収めています。そのアジア1例目の手術動画を含むプレスリリース記事がございますのでこちらをクリックしてご覧ください。

我々の施設では仰臥位前外側進入による人工股関節全置換術の際に股関節鏡視下手術と同様に関節包靭帯(腸骨大腿靭帯垂直束、恥骨大腿靭帯、坐骨大腿靭帯の三靭帯)を完全に温存しています。関節包靭帯温存人工股関節手術は低侵襲で脱臼率が低く、早期回復が期待できるという利点があります。この手術については多くの学会で報告し、手術見学の希望者も最近多くなっています


他大学の股関節専門医からの手術見学の受け入れ(施設や大学を超えた卒後臨床教育を推進しています。)

手術を安全・安心に行うために取り組んでいることはありますか?

全例にコンピュータを使った三次元シミュレーションで正確な術前計画を行っています。手術に関しては、手術中に三次元画像を確認しながら正確な角度で骨を切ったり人工股関節を適切な位置に設置したりするためのナビゲーションシステムを導入しています。Computer-assisted surgery (CAS)に関する技術(ナビゲーション、ロボット、AI, VR)の導入は整形外科手術においても重要と考えておりますので今後積極的に取り組み、患者のみなさんに導入の利益を還元したいと思います。

現在当科で使用しているAR-ナビゲーションシステム(AR Hip)の写真と動画

股関節の痛みで苦しむ患者さんや整形外科医を志す若手医師に何かひとことありますか?

患者さんには変形性股関節症や股関節唇損傷の治療方法は最近著しく進歩していることと、それぞれの患者さんがご自身にとってベストな治療方法を選び取ることができれば、結果としてその後の人生が大きく変わる可能性が高いことをお伝えしたいです。私としては是非ともそのお手伝いさせていただきたいと思っています。
また整形外科医を志す若手の先生方には是非とも藤田医科大学整形外科で汗をかきながら切磋琢磨しつつ仲間として働いてほしいです。 幅広く研修医の先生を募集しておりますので、皆さんと一緒に最新の高度医療技術をそれぞれの患者の皆様やご家族の希望や社会的背景を十分に考慮しながら提供したいと思っています。

関節が痛い.com(外部サイト)インタビューはこちら 

人工関節ドットコム(外部サイト)金治先生インタビュー1はこちら 

人工関節ドットコム(外部サイト)金治先生インタビュー2はこちら 

医療新聞DIGITAL(外部サイト)記事1はこちら 

医療新聞DIGITAL(外部サイト)記事2はこちら