OGOB INTERVIEW

藤田医科大学 卒業生インタビュー仕事で大切にしていること、
なんですか?

臨床検査技師

INTERVIEWvol.008

今の努力がきっと未来の誰かを救うと信じて

神野理乃RINO JINNO

藤田医科大学病院 臨床検査部 微生物遺伝子検査室

臨床検査学科(現・医療検査学科)/2016年卒業

取材日

DESCRIPTION

2019年の冬、臨床検査技師になって4年目に新型コロナウイルスの感染拡大が始まった。「大変なことになるかもしれないという漠然とした不安はありました」と当時を振り返る。 この未曽有の事態によってPCR検査や抗原・抗体検査といった医療用語が広く一般に浸透し、臨床検査技師の仕事も一躍注目されることに。とくに藤田医科大学は、愛知県からの要請に応え、県民のPCR検査やワクチンの大規模接種、感染者の受け入れなどにも先陣を切って取り組んできた。それらを支えてきたのが臨床検査技師だ。急増する検査依頼に対応するのみならず、講習会に参加するなどしてワクチンの打ち手不足にも備えた。まさにフル稼働だった。 神野さんは言う。「大変でしたが、社会に貢献できていると思うとやりがいがありましたね。もっともっと臨床検査技師をめざす人が増えてくれるとうれしい」とその言葉は力強い。

不安の中で始まった新型コロナとの日々

─新型コロナで臨床検査技師がこれまで以上に注目されていますね。

そうですね。臨床検査技師の仕事って血液検査や微生物検査、病理学検査、心電図、脳波の検査などいろいろ種類があって幅広いんですよ。PCR検査や抗原検査もそうですし。新型コロナで今まで以上に必要とされる場面が増えましたね。

─感染拡大が始まった時はどう思いましたか?

大変になるのかなぁ、とは思いましたが、実感はなかったです。ただ徐々に検体が増えてきて…、めちゃくちゃ忙しくなりました。

─PCR検査に対する怖さはなかったですか?

ありました。最初の頃は、感染しないように検体の容器を必死に拭いたりして…。遺伝子検査の先生からは、「検体を試薬に混和する時は、顔にかからないようにスピッツ(容器)を奥に向けてやるんだよ」とか身を守るやり方を一から教えてもらったりもしましたね。今は、正しく扱えば大丈夫なことがだんだん分かってきたし、ほとんどの工程が機械で自動化されたので感染への恐怖心はだいぶ少なくなりましたけど…。PCR検査ってコンタミ(コンタミネーション:混入)が一番怖いんですよ。扱い方が悪いと検体が飛び散ってしまい、陰性なのに陽性という結果が出てしまうこともありますから。正しい手順で手際よくやることが大切なんですよね。

─なるほど、繊細な技術が必要なんですね。大変だったと思いますが、スキルアップにつながった面もあるんでしょうか?

そうですね…。PCR検査もそうですが、感染拡大がなければ鼻腔の検体採取やワクチン接種はやらなかったでしょうね。新型コロナで経験値は増えたかもしれないですね。

検体の向こうには患者さんがいることを忘れてはならない

─神野さんは微生物遺伝子室に所属されているということですが、どんな検査をする部署なんでしょうか?

感染症を起こしている患者さんの血液や便、尿などの検体を培養して、感染症の原因となる細菌を特定する専門の部署です。細菌を治療するためにどんな薬が合うのかを調べたり、院内で耐性菌が広がらないように監視培養などを行ったりもします。採血も臨床検査技師が持ち回りでやっているんですよ。唯一患者さんと触れ合える機会なので、それはそれで楽しいですね。

─微生物遺伝子検査室は希望して入ったんですか_?

いえ、そうではありません。どちらかというと苦手な分野だったので、大丈夫かなって。覚えることも多いですし…。

─それでも6年間やり続けてこられたのはすごい!

はじめはしんどかったんですけど、今は面白さも分かってきて、仕事が楽しくなってきました。菌も生きているので、一筋縄ではいかないというか、思った通りに同定(菌種の決定)できなかったりするんですけど、それだけに分かった時には「そっか!これだったんだ!」って達成感がありますね。微生物検査って機械化が進む一方で、検体をグラム染色という染色法で染色して顕微鏡で調べたり、培地を観察したり、自分の目で見て判断しなきゃいけないことが多いんです。だからこそ面白いのかもしれませんね。

─全く知らない菌とかもあるんですか?

ありますね。「なんだこの菌は!」って(笑)。日々、勉強です。私の感覚ではひと通り業務を覚えられるのが、就職して3年目ぐらいなんですよね。それまでは教えてもらったことを精一杯やるという感じでしたけど、3年経つといろんなものが見えてくるので、仕事に対する姿勢も変わってきますね。

─臨床検査技師として一番大切にしていることって何ですか?

正確な検査結果を迅速に導き出すことですね。結果によっては治療の方法も変わってきますし、患者さんの人生まで変えてしまうかもしれない。だから提出する前には何回も確認を重ねます。微生物検査をする上では、実際に患者さんと顔を合わせることはほとんどありませんが、その検体の向こうに患者さんがいることは絶対に忘れてはならないと思っています。

多彩な症例を経験できた大学病院での学び

─そもそも臨床検査技師になろうと思ったのはなぜですか_?

母が看護師で、話を聞いているうちに、おのずと医療系に進みたいなと思ってました。でも看護師は漠然と大変そうだなっていうのがあって…。物理学が得意じゃなかったので診療放射線技師は無理だし、それなら生物学が好きなので臨床検査技師かなって。

─それで藤田医科大学に?
最初はオープンキャンパスに参加しようと、名鉄前後駅からバスに乗って初めて藤田の敷地に入ったんです。その時に「すごい!大きい!」って圧倒されました。写真で見て知ってはいましたが、実物はもっとすごくて。

─オープンキャンパスでの印象が決め手になったんですね。
敷地内に大学病院があることが大きかったですね。現場が近いから生きた知識を得られるだろうし、最新の機器もたくさんあっていい経験が積めるだろうな、って思いました。

─実際に入学してどうでしたか?

良かったですね。一番の理由は、国家試験対策が手厚いこと。国試対策用の授業があってテストを繰り返し受けたり、過去問がまとまったような本もあって先生も一生懸命指導してくれますし。

─学校生活はどんな感じなんでしょうか?

藤田はチーム医療を掲げているので、大学でも個々ではなく、何でもみんなで一緒にがんばろうという雰囲気があります。そうやって励まし合ってやることが私には合っていましたね。先生方も話しやすくて、気さくな人が多かったかな。就職後、新人で思うようにできなかった時は、先生の部屋に行って「辛い~」って弱音を吐いたしたことも。先生方は現場を知っているので、共感してもらえるだけで気が楽になりました。

─印象に残っている授業ってありますか?

私は講義より実習の方が好きでした。学生同士で被検者になって自分のおなかのエコー撮ったりして、「へー、私の体の中はこんな風になってるんだ」って。遺伝子検査の実習では、細胞を採取してお酒に強いかどうかを調べたりもしました。そういうのが楽しかったですね。

─国家試験前には相当勉強されましたか?

朝起きてから夜まで、とりあえず机に向かうようにはしてました。集中できない時は休みの日でも大学に来て、みんなで一緒に勉強することも多かったですね。国家試験って大学入試とかと違って滑り止めってないですし、人生が決まっちゃうわけじゃないですか。落ちたらどうしよーって必死でした。ほんと、みんながいたから乗り越えられたと思います。

─卒業後は藤田医科大学病院へ就職されたわけですが、大学病院で働くメリットって何ですか?

患者さんの数が多いので、珍しい症例やいろいろな症例が経験できることですね。

─施設も大きいですしね。

検査室も新しくなってきれいですごく広いし、いろんな最新の機器が入っています。最近では働き方改革を進めていて、入職当初と比べて働きやすくなりました。

─今後の目標を教えてください。

他の検査を経験したいと思った時期もありましたが、最近はスペシャリストとしてひとつのことを極めるのもいいかなって。しばらくは微生物検査室でやっていきたいと思っています。そしてゆくゆくは認定微生物検査技師などの認定資格にも挑戦できればいいですね。

─この職業を選んで良かったと思いますか?

未来はわからないけど、一生やっていきたい仕事だと思っています。

─最後に受験生の方にアドバイスを。

私は「今の努力がきっと未来の誰かを救う」と信じています。受験もそうですが、臨床検査技師の仕事も勉強が欠かせません。その勉強は自分のためだけでなく、患者さんを救うためでもあるんですよね。受験勉強は大変ですが、そんな気持ちで机に向かうとつらさも少しは和らぐと思いますよ。

私の相棒

検査室の仲間

彼女たちは同じ微生物遺伝子検査室のかわいい後輩です。検査室のスタッフは彼女らを含めて十数人。みなさん私にとってかけがえのない存在です。ここには毎日大量の検体が届きますが、とくに新型コロナが流行してからはその検査も行っているので、1日中、目が回るような忙しさです。そんな中でも「あの検査が大変そうだから手伝おう」とか、話し合ったわけでもないのにあうんの呼吸で助け合いながら手際よく、効率よく動けるのは、やっぱり思いやりがあるからなんですよね。頼りになる先輩方や、支えてくれる同期、日々努力を惜しまない後輩たちの姿は私の原動力ですね。

インタビューの途中、同じ部署の先輩がドア越しに声を掛けてきた。「大丈夫? 一緒についていようか?」。ニコッと微笑みながら「ダイジョウブですよ~」と答える神野さん。先輩からするとまだまだかわいい後輩なんだろう。
今回のインタビューで神野さんは、患者さんへの思いや仲間への感謝を何度も口にした。「困った時はいつでも支えてくれる先輩、同期、後輩がいることが自慢です」。それはきっと神野さんの素直な人柄と仕事に対する真面目な姿勢が、周りの人たちをそうさせるんだろうと感じた。