プレスリリース

ファイザー社の新型コロナワクチンで 2回目接種後に抗体が大幅上昇

—本学職員での実証研究で確認 女性の抗体量が男性より多いことも判明— 

本学大学院保健学研究科 藤垣英嗣講師、山本康子准教授、齋藤邦明教授らの研究グループは、国立感染症研究所、富士フイルム和光純薬株式会社、富士フイルム株式会社との共同研究により、新型コロナウイルスワクチン(ファイザー社)を接種した本学教職員219名全員の血液中の抗体がワクチン接種後に上昇したことを確認しました。詳しく分析した結果、1回目接種後よりも2回目接種後に抗体量が大幅に上昇することを明らかにしました。また、男性は女性よりも抗体の量が少なく、特に男性は年齢が高いほど抗体の量が少ないことがわかりました。さらに、血液中の抗体の量が多いほどウイルス中和活性※1が高くなることを明らかにしました。
これらの結果は、新型コロナウイルスワクチンの接種によりウイルス感染を抑制する抗体が産生されることを示しています。また、抗体ができる量には個人差があることがわかりました。抗体量を測定することで個人にあったワクチンの接種間隔や接種量、接種回数などを決めることができる可能性があり、今後も研究を続ける予定です。


研究成果のポイント

  • 調査した教職員全員の抗体量がワクチン接種後に上昇
  • 抗体量はワクチン1回接種でわずかに上昇し、2回接種することで大幅に上昇
  • 男性は女性よりも抗体の量が少なく、男性は年齢が高いほど抗体の量が少ない
  • 抗体の量が多いほどウイルス中和活性が高い
  • 自動化学発光酵素免疫分析装置で迅速に抗体測定が可能な試薬を開発


背景

現在、わが国では新型コロナウイルスワクチンの接種が進んでいます。ワクチンの接種には感染防御の効果があることは証明されていますが、日本人の接種後の抗体量の上昇の仕方や個人差などについてはまだそれほど多くの調査はされていませんでした。
また、測定する抗体にはIgG、IgM、IgAなどの種類があり、どの抗体を測定するのが最も適した方法なのかはよく分かっていません。我々は新型コロナウイルス感染症患者の血液を用いたこれまでの研究により、ウイルスの受容体結合ドメイン(Receptor Binding Domain: RBD)※2に対するIgG抗体を測定することがウイルス中和活性を最もよく表すことを明らかにしています(米国免疫学会雑誌「The Journal of Immunology」(5月15日号)にて発表)。
そこで、本学教職員を対象に、ワクチン接種前後の血液中のRBDに結合するIgG抗体の測定を行い、個人による抗体の上昇の仕方の違いやワクチン接種により中和抗体ができるかどうかを調査しました。



研究手法・研究成果

本学教職員の中で研究参加に同意を頂いた方219名(男性69名、女性150名)を対象に、ワクチン接種前、1回目接種後約14日目、2回目接種後約14日目に採血を行いました。血液中のRBDに結合するIgG、IgM、IgA抗体をそれぞれ測定したところ、すべての抗体は接種後に上昇しましたが、特にIgG抗体は2回目の接種後に大幅に上昇することが明らかになりました。

次に、性別と年齢により2回目接種後のIgG抗体量に違いがあるかを調べました。その結果、女性の抗体量の平均値は男性より高く、男性は年齢が高いほど抗体量が少ないことが分かりました。



さらに、ワクチンを接種した方の血液が中和活性を持つかを調べるために、2回目接種後の血液の中和活性を測定しました。その結果、RBDに結合するIgG抗体量が多いほど中和活性が高いことが明らかになりました。
これらの結果は、日本人においてもワクチン接種により抗体ができることを示しており、ワクチン接種により感染防御能を持つ中和抗体ができていることを示しています。ただし、そのでき方には個人差があることも示しています。
また、血液中の抗体の測定は、感染防御能を獲得したかどうかを表す指標となる可能性があることを示しています。


今後の展開

今回の研究により、ワクチン接種により中和活性を持つ抗体が産生され、そのでき方には個人差があることが分かりました。血液中の抗体量を継続的に測定することで、個人にあったワクチンの接種間隔や接種量、接種回数などを決めることができる可能性があり、今後も調査を続ける予定です。また、共同研究の成果をもとに、今回測定したRBDに結合するIgG抗体量を全自動で迅速に測定可能な自動化学発光酵素免疫分析装置『Accuraseed®(アキュラシード)』の専用試薬「アキュラシード COVID-19抗体」(富士フイルム和光純薬株式会社)を開発しました。今後は本分析装置を用いてより大規模な調査も行い、感染から防御するために必要な抗体量の指標なども調査する予定です。

用語解説

※1 ウイルス中和活性

ウイルスの感染や増殖を阻害する抗体を中和抗体といい、その作用を中和活性といいます。

※2 受容体結合ドメイン(Receptor Binding Domain: RBD)

新型コロナウイルスがヒトの細胞の中に侵入する際に必要な部分。ウイルスはRBDを介して細胞の表面にある受容体(ACE2)に結合する。

謝辞

本研究に参加していただいた教職員の皆様、ご支援頂いた治験・臨床研究支援センターおよび臨床検査部の皆様、研究室の皆様に感謝申し上げます。
本研究の一部は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)ウイルス等感染症対策技術開発事業(実証・改良研究支援)課題「大規模検査に対応可能な、簡便で正確なCOVID-19免疫獲得検査システムの開発」およびAMEDの課題番号JP19fk0108110の支援を受けました。

文献情報

本研究成果は、プレプリントサーバーのmedRxivに公開されています。査読前の論文であり、今後内容が修正される可能性があります。

論文タイトル

Antibody responses to BNT162b2 vaccination in Japan: Monitoring vaccine efficacy by measuring IgG antibodies against the receptor binding domain of SARS-CoV-2

著者

藤垣英嗣、山本康子、古関竹直、坂野寿弥、安藤達也、伊藤弘康、藤田孝、成瀬寛之、畑忠善、森山彩野、高橋宜聖、鈴木忠樹、村上貴洋、吉田幸弘、櫓曜、小山田孝嘉、竹村正男、近藤征史、岩田充永、齋藤邦明

DOI

10.1101/2021.07.19.21260728