プレスリリース

接触皮膚炎の免疫反応においてNETが重要な役割を果たすことを 世界で初めて発見

研究の概要

藤田医科大学皮膚科学の杉浦一充教授、岩田洋平准教授、長谷川由梨恵医師らの研究グループは、IL36RN遺伝子機能欠失変異に着目し、マウスの接触皮膚炎における好中球細胞外トラップ(NET)※1形成の解析を行いました。この結果、NET形成の阻害が接触皮膚炎反応を減少させるということを明らかにしました。それゆえNET形成の阻害は、接触性皮膚炎における新たな治療ターゲットとなり得ることが示唆されました。
 本研究成果は、Nature Research社の学術ジャーナル「Scientific Reports」(8月4日号)で発表され、併せてオンライン版が2022年8月4日に公開されました。
論文URL : https://doi.org/10.1038/s41598-022-16449-z

研究成果のポイント

●接触皮膚炎の免疫反応においてNETが重要な役割を果たすことを世界で初めて発見。
●Il36rn-/-マウスで、接触皮膚炎におけるNET形成の増加が劇的に上昇し、NET形成の阻害が接触皮膚炎の抑制につながることを証明。同様の結果が野生型マウスでも得られた。
●NET形成の阻害は、接触性皮膚炎における新たな治療戦略となる可能性を示唆。

背景

インターロイキン-36受容体アンタゴニスト(IL-36Ra)をコードするIL36RNの機能欠損ホモあるいは複合ヘテロ接合体変異は、皮膚疾患の病因に関与しているとされている。我々は以前に、Il36rn-/-マウスが好中球の動員増加を介して接触皮膚炎反応の亢進を示すことを報告した。さらに、Il36rn-/-マウスは、イミキモドによる乾癬性皮膚病変の重症化とNET形成の亢進を示した。今回我々は、NETが接触皮膚炎反応に重要な役割を担っているのではないかと仮定し検証した。

研究手法

1. Il36rn-/-マウス(KO)と野生型マウス(WT)の耳介に接触皮膚炎反応を作成した。同時に、PAD阻害剤(Cl-amidine)※2をそれぞれのマウスに投与し、耳介の厚さを測定することで接触皮膚炎反応に対するCl-amidineの影響を評価した。
2. 接触皮膚炎反応を作成したIl36rn-/-マウスと野生型マウスおけるCl-amidine投与群・ 未投与群の耳介組織に対して、HE染色、免疫組織化学染色を行い、組織に浸潤している好中球、マクロファージ、CD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞の数について評価し、さらに免疫蛍光染色を用いてNET形成を観察することで、接触皮膚炎におけるCl-amidineの影響を検証した。
3. 接触皮膚炎反応を作成したIl36rn-/-マウスと野生型マウスにおけるCl-amidine投与群・未投与群の耳介組織中のサイトカインをリアルタイムRT-PCRを用いて評価することで、接触皮膚炎におけるCl-amidineの影響を検証した。

研究成果

1. Cl-amidine投与により、接触皮膚炎反応は、Il36rn-/-マウスと野生型マウスにおいて、24時間および48時間の両時点において有意に減衰した(Il36rn-/-マウス;24時間 **p < 0.01, 48時間 **p < 0.01; 野生型マウス; 24時間 **p < 0.01, 48時間 **p < 0.01)。

免疫組織化学染色と免疫蛍光染色において、Cl-amidine処理により、MPO陽性好中球、F4/80陽性マクロファージ、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞の数は、Il36rn-/- マウス(**p < 0.01) と野生型マウス (**p < 0.01) の両方で有意に減少した。また、無治療のIl36rn-/-マウスの耳組織のNET面積は、無治療の野生型マウスと比較して有意に増加し(**p < 0.01)、Cl-amidine投与によりNET形成はIl36rn-/-マウス(**p < 0.01) と野生型マウス(**p < 0.01) においてそれぞれ有意に阻害された。

3. 組織中のサイトカインの評価では、Il36rn-/-マウスと野生型マウスの両方で、Cl-amidine投与により、それぞれIL-1β、IFN-γ、IL-4、IL-6、IL-10、IL-17A、TNF-α、CXCL1、CXCL2およびIL-36γのmRNA発現レベルが有意に減少した。

今後の展開

今回、接触皮膚炎の免疫反応の増悪にNET の関与がある可能性が示唆された。従って、NET形成の阻害は、接触性皮膚炎における新たな治療戦略となる可能性がある。

用語解説

※1. 好中球細胞外トラップ(Neutrophil extracellular traps, NET):
好中球が自らのDNAを細胞外に放出することでできる機構。本来は生体防御機構の一つであるが、時に炎症性疾患や血栓症、自己免疫性疾患の病態にも関与している。DNA、ヒストン、好中球エラスターゼなどの細胞内抗菌蛋白を含む網目構造となっている。
※2. PDA阻害剤(Cl-amidine):
NET形成に必要な酵素であるペプチジルアルギニンデイミナーゼ(PAD)4を抑制することによりNETの形成を抑制する、汎PAD阻害剤

文献情報

 論文タイトル:Neutrophil extracellular traps are involved in enhanced contact hypersensitivity response in IL-36 receptor antagonist-deficient mice
著者:長谷川 由梨恵1), 岩田 洋平1), 福島 英彦1), 田中 義人1), 渡邊 総一郎1),齋藤 健太1), 伊藤 裕幸1), 杉浦 美月1), 秋山 真志2), 杉浦 一充1)
所属1)藤田医科大学 医学部皮膚科学
        2)名古屋大学大学院医学系研究科 皮膚科学
DOI: 10.1038/s41598-022-16449-z