プレスリリース

シミ部位で皮膚の真皮にメラニンが蓄積する メカニズムを解明!

本学応用細胞再生医学講座(教授:赤松 浩彦)及び皮膚科学講座(教授:杉浦 一充)は、日本メナード化粧品株式会社(愛知県名古屋市中区丸の内3-18-15、代表取締役社長:野々川 純一)と共同で、シミ部位の皮膚の真皮にメラニンが蓄積する現象について、メカニズム解明に向けた研究を進めました。その結果、メラニンが真皮にまで移行しているシミ部位では、表皮の基底膜が脆弱になっていることが分かりました。また、この基底膜の脆弱化に、真皮幹細胞が分泌するエクソソーム※1が関与していることを発見しました。
この研究成果は、第40回日本美容皮膚科学会総会・学術大会にて優秀演題賞を受賞しました。また、本研究成果の一部は、Experimental Dermatology(オンライン版)に掲載されました。
 

皮膚のシミ(老人性色素斑)は、紫外線に曝されることにより、メラニンが過剰に合成され表皮へ蓄積することで生じますが、最近の研究では真皮にもメラニンが蓄積することが分かってきました。真皮へのメラニンの蓄積は、表皮と真皮を隔てる「基底膜」が紫外線により脆弱になることが原因と考えられます。本研究では、この基底膜に注目し、真皮にメラニンが蓄積するメカニズムについて解析した結果、基底膜の維持・修復に真皮幹細胞が大きく関わっていることを見出しました。
まず、真皮幹細胞から分泌される「エクソソーム」と呼ばれる物質が、表皮細胞に働きかけて基底膜の修復を促していることを発見しました。一方、シミ部位では、紫外線によって基底膜が脆弱になった際にメラニンが真皮へ移行し、そのメラニンを真皮幹細胞が取り込んでしまうと、分泌されるエクソソームに変化が起こり、基底膜の修復を促す働きが失われてしまうことが分かりました。つまり、真皮幹細胞が一旦メラニンを取り込んでしまうと、基底膜を修復できなくなるためメラニンが真皮に移行しやすくなり、その結果、メラニンが真皮に蓄積することが明らかになりました。
今後、真皮へのメラニンの蓄積を防ぐため、真皮幹細胞が分泌するエクソソームの機能を回復させる手法を開発し、シミに対する新たなアプローチとして創生してまいります。

※1 エクソソーム:
内部にタンパク質などを含む50~150 nmほどの小さなカプセル状の物質。細胞から細胞への情報伝達を担う手段として、近年注目を集めている。


参考資料

1.シミ部位では基底膜が脆弱化し、真皮にもメラニンが蓄積している
皮膚の表皮と真皮の境に存在するシート状の基底膜は、表皮組織を支え、表皮と真皮の間の物質交換の制御などを担っています。シミ部位の皮膚切片を観察し、シミ部位では基底膜が脆弱になっていることを確認しました。また、メラニンは表皮に存在するメラノサイトと呼ばれる細胞が産生しますが、基底膜が正常に維持されていれば真皮にメラニンが移行することはほとんどありません。しかし、シミ部位では表皮だけでなく真皮にもメラニンが蓄積している様子が観察されました(図1)。

図1 シミ部位における基底膜の状態とメラニンの分布


2.真皮幹細胞はエクソソームを分泌して基底膜の維持・修復を促している
三次元培養皮膚モデルを用いた実験により、基底膜の形成メカニズムを調べました。その結果、真皮幹細胞が分泌するエクソソームが表皮細胞に作用すると、基底膜の主要成分であるⅣ型コラーゲンの遺伝子発現が増加し、基底膜の維持・修復が促進されることが分かりました。さらに、エクソソーム中に存在するGolgi Phosphoprotein 3(GOLPH3)※2というタンパク質が、基底膜の維持・修復に重要な役割を果たしており、このタンパク質の発現が低下すると基底膜の形成が促進されないことが分かりました(図2、図3)。つまり、真皮幹細胞が分泌するエクソソーム中に含まれるGOLPH3タンパク質が、表皮細胞に対して基底膜の維持・修復を促すシグナルになっていることが明らかになりました。
※2 Golgi Phosphoprotein 3(GOLPH3):
細胞内でタンパク質の輸送を行うゴルジ体の機能を制御するタンパク質。コラーゲン合成シグナルを制御する因子に関連することが報告されている。これまでの研究から、真皮幹細胞が分泌するエクソソーム中には74種類のタンパク質が特異的に含まれていることが分かっており、GOLPH3はその一つである。



図2 真皮幹細胞由来のエクソソームの基底膜形成促進作用


図3 真皮幹細胞由来のエクソソームにより基底膜の形成が促進されるメカニズム

3.シミ部位では真皮幹細胞がメラニンを取り込むことでエクソソームの基底膜修復作用が低下し、真皮にメラニンが蓄積する負のスパイラルが起こっている
シミ部位の真皮幹細胞について詳細に解析した結果、GOLPH3の発現が低下していることが分かりました(図4)。さらに、GOLPH3の発現が低下している真皮幹細胞は、メラニンを取り込んでいることを発見しました(図5)。これまで真皮へ移行したメラニンは、マクロファージ※3に取り込まれて分解されると考えられてきましたが、真皮幹細胞もメラニンを取り込むことで性質が変化したと考えられました。
また、真皮幹細胞にメラニンを取り込ませて培養し、分泌されたエクソソームを解析したところ、メラニンを取り込んだ真皮幹細胞から分泌されたエクソソームにはGOLPH3がほとんど含まれておらず、表皮細胞に添加してもⅣ型コラーゲンの遺伝子発現を増加させませんでした(図6)。
※3 マクロファージ:免疫細胞の一種。体内の不要なもの(体内に侵入した異物、死んだ細胞、変性したタンパク質など)を分解して排除する。

図4 非シミ部位とシミ部位の皮膚切片の真皮幹細胞におけるGOLPH3の発現

図5 シミ部位の皮膚切片における真皮幹細胞とマクロファージによるメラニンの取り込み


図6 メラニンの取り込みによる真皮幹細胞由来のエクソソームの機能低下

以上のことから、シミ部位においては、①基底膜が紫外線により脆弱になる、②メラニンが表皮から真皮に移行する、③真皮幹細胞が真皮のメラニンを取り込む、④真皮幹細胞のGOLPH3の発現が低下し、エクソソームによる基底膜修復の促進が起こらない、⑤基底膜が修復されないため、メラニンがさらに真皮に移行する、という負のスパイラルが起こっていると推察されました(図7)。この負のスパイラルを改善するためには、真皮幹細胞が取り込んだメラニンの分解を促進し、真皮幹細胞が分泌するエクソソームの機能を回復させることが必要だと考えられました。

図7 シミ部位の真皮にメラニンが蓄積する負のスパイラル

文献情報

雑誌名

Experimental Dermatology

論文タイトル

Melanin accumulation in dermal stem cells deteriorate their exosome-mediated skin basement membrane construction in solar lentigo

著者

宮地克真3、山田貴亮1-3、眞田歩美3、井上悠3,4、長谷部祐一3,4、有馬豪2、岩田洋平2、長谷川靖司2-4、杉浦一充2、赤松浩彦1

所属

1 藤田医科大学 医学部 応用細胞再生医学講座
2 藤田医科大学 医学部 皮膚科学講座
3 日本メナード化粧品株式会社 総合研究所
4 名古屋大学大学院 医学系研究科 名古屋大学メナード協同研究講座

DOI

10.1111/exd.14667