プレスリリース

医科学研究センター 前田明教授らの研究成果が米国の生命科学誌「Cell Reports」に掲載されました

 タンパク質の設計図であるメッセンジャーRNAから
短い不必要配列を取り除く新しい複合体因子の発見
〜抗がん剤多剤耐性の新機構解明の鍵となるか?~

藤田医科大学・医科学研究センターの福村和宏講師と前田明教授らの研究グループは、タンパク質の設計図であるメッセンジャーRNA(mRNA※1)を分断しているイントロンと呼ばれる不必要配列が、切り継ぎされて取り除かれるスプライシング※2、の過程を研究しています。本研究は、これまでほとんど研究されてこなかった、ヒトの短いイントロンに注目し、そのスプライシングの分子機構を解析しました。その結果、今まで知られていなかった新しいタンパク質複合体因子RBM17 (SPF45)–SAP30BPが、そのスプライシングに関与していることを発見しました。一方、RBM17は、以前に抗がん剤多剤耐性に関わる因子であることが報告されていました。抗がん剤多剤耐性に関わる遺伝子に、RBM17–SAP30BP依存的な短いイントロンが含まれている可能性があり、今後、未知の抗がん剤多剤耐性のメカニズムの解明につながることが期待されます。
本研究成果は、米国の生命科学誌「Cell Reports」のオンライン版で2023年12月8日に公開されました。

研究成果のポイント

  • ヒトの短いイントロンでは、既知の因子U2AFに代わり、RBM17がスプライシングに必須であることを2年前に報告した [Nature Communications 12, 4910 (2021)]。
  • 今回、RBM17と結合する必須補因子SAP30BPを同定し、UHM–ULM結合を介してタンパク質間結合をしている事実がわかった。
  • U2 snRNPのタンパク質構成因子であるSF3B1にRBM17が結合する前に、弱い結合を介したRBM17–SAP30BP複合体を形成することを明らかにした。
  • この過渡的なRBM17–SAP30BP複合体は、RBM17がスプライシングの活性があるリン酸化SF3B1に取り込まれるために機能していると思われる。
  • 本研究によって、今まで一様と信じられていたヒト遺伝子のイントロン集合に、そのスプライシング必須因子、すなわちスプライシング機構が異なる短いイントロンの部分集合が存在することが判明した。


背景

真核生物の遺伝子を細かく分断しているイントロンは、面白いことに高等生物になるほど長くなり、とりわけヒトでは約30〜116万塩基という驚異的な分布を示します。このイントロンを取り除く過程はスプライシングと呼ばれていますが、教科書に書かれているのは、研究に好都合な長さのイントロンに対応するスプライシングの仕組みです。私たちは、15年前からヒトの短いイントロンに注目した研究を始め、2年前に既知のスプライシング因子U2AFに代わって、RBM17(SPF45)を必須因子とする新しいスプライシング機構を発見しました[Nature Communications 12, 4910 (2021)]。


研究成果

今回の研究で、さらに結合補因子SAP30BPを同定し、SAP30BPがRBM17に過渡的に結合することが、以降のスプライシング反応に必須であることを示しました。
さらに、大規模な遺伝子転写物の解析で、多くの短いイントロンにおいて、U2AFではなくRBM17–SAP30BP複合体に依存するスプライシングが起こっていることが明らかにしました。すなわち、ヒトのイントロンに、そのスプライシング必須因子が異なる短いイントロンの部分集合が存在することが明らかとなり、まさに教科書を書き換える、たいへん重要な研究成果となりました(下図参照)。
 

今後の展開

これは分子生物学領域での純粋な基礎研究ですが、将来的な医学への応用も見逃せません。以前から、RBM17を細胞で過剰に発現させると、その細胞は抗がん多剤耐性を獲得することが知られていました。もしかすると、抗がん剤多剤耐性に関与する遺伝子がRBM17依存的にスプライシングされるイントロンを持っているのかもしれません。もしそうなら、RBM17が過剰発現することにより、そのような抗がん多剤耐性関連遺伝子の発現が上がることが予想できます。この基礎研究成果が、将来的には未知の抗がん剤多剤耐性メカニズムの解明に貢献できると期待しています。

用語解説

※1 メッセンジャーRNA(m RNA)

伝令RNAの意味で、タンパク質合成の際の遺伝情報(アミノ酸配列)を伝える役割をする。ヒトなどの高等生物では、遺伝子から転写されるのは「mRNA前駆体」の状態であり、そのmRNA前駆体から不必要な領域である「イントロン」がスプライシング(以下参照)で取り除かれてmRNAとなり、タンパク質合成に利用される。

※2 スプライシング

イントロンが取り除かれる過程を「スプライシング」と呼ぶ。その過程は非常に複雑で、5種類の低分子RNA-タンパク質複合体、170種類以上のタンパク質因子が関わり、スプライソソームと呼ばれるタンパク質-RNA複合体が動的に変化しながらスプライシングが遂行される(以下の日本語総説参照)。


参考日本語総説: 福村 和宏, 前田 明 (2022). 「イントロンの長さ」の不可思議に端を発する新しいスプライシング機構の発見. 生化学 94, 806¬–813.

文献情報

論文タイトル

SAP30BP interacts with RBM17/SPF45 to promote splicing in a subset of human short introns

著者

福村 和宏、前田 明 他

所属

藤田医科大学 医科学研究センター 遺伝子発現機構学研究部門

DOI

10.1016/j.celrep.2023.113534