プレスリリース

髄液中α-シヌクレイン凝集体の存在は進行の予測にはつながらない可能性

─パーキンソン病バイオマーカー研究の新展開─ 

藤田医科大学医学部脳神経内科学は、ハーバード大学のXiqun Chen博士が主導した共同研究を通じて、脳脊髄液中のα-シヌクレイン凝集体がパーキンソン病の診断には有用である一方、その量や存在が病気の進行速度を予測する指標とはならないことを明らかにしました。大規模な縦断研究により、今後のバイオマーカー開発における新たな方向性が示されました。
本研究結果は2025年8月6日付けの国際ジャーナル 「eBioMedicine 誌」に掲載されました。

研究成果のポイント

  • 脳脊髄液中のα-シヌクレイン凝集体は、パーキンソン病の診断マーカーとしては高い感度を持つ一方で、進行速度(運動・認知機能の低下やドパミントランスポーターの減少)との有意な相関は認められなかった。
  • 本結果は、単一時点での測定に基づく進行予測の限界を示し、長期的かつ複合的なバイオマーカー戦略の必要性を浮き彫りにした。

背景

パーキンソン病は、進行性の神経変性疾患であり、診断および進行予測に有用なバイオマーカーの確立が急務とされています。特に、異常タンパク質α-シヌクレインの脳内での凝集が病態に深く関与すると考えられており、最近ではその“シーディング活性”を高感度に検出できるSAA(シード増幅アッセイ)が注目されています。

研究成果

本研究は、パーキンソン病進行マーカー・イニシアチブ(PPMI)に参加する564名の大規模コホートデータを対象に、最大7年間にわたる追跡調査と測定された脳脊髄液中のα-シヌクレイン凝集体の結果を解析したものです。その結果、多くの患者でα-シヌクレインのシーディング活性が検出され(特にLRRK2変異例を除く)、同凝集体の存在が診断指標として有用であることが確認されました。
しかしながら、測定時点でのα-シヌクレイン凝集体の有無や量は、運動機能や認知機能の低下速度、またドパミントランスポーターイメージングの進行指標とは有意な相関を示しませんでした。このことから、藤田医科大学脳神経内科学の渡辺宏久教授は「SAAは診断には非常に有効な手法だが、単回測定だけでは病気の将来の進行を予測するには不十分である可能性がある」と指摘し、「パーキンソン病の不均一性と複雑性を正しく捉えるためには、今後も国際的な連携と多面的研究の推進が不可欠である」と述べました。

今後の展開

今回の研究成果は、α-シヌクレインSAAの意義を否定するものではありません。むしろその限界を認識し、他のバイオマーカーとの多元的な統合や長期にわたる縦断的で包括的なモニタリングの必要性を示唆するものであり、さらなる研究が必要であると考えます。

文献情報

論文タイトル

Baseline α-synuclein seeding activity and disease progression in sporadic and genetic Parkinson's disease in the PPMI cohort

著者

Johannes M. Dijkstra1、渡辺宏久2、Xiqun Chenet al.

所 属

1 藤田医科大学 研究推進本部URA室
2 藤田医科大学 医学部脳神経内科学
3 ハーバード大学 医学部神経内科学

DOI

10.1016/j.ebiom.2025.105866


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