OGOB INTERVIEW

藤田医科大学 卒業生インタビュー仕事で大切にしていること、
なんですか?

看護師

INTERVIEWvol.006

辞めたらそれでおしまい。 だけど、続けていくことでしか見えない景色がある。

鈴木朝子Asako Suzuki

藤田医科大学病院 総合救命救急センター

看護学科 / 1998年卒業

取材日

DESCRIPTION

鈴木さんは、救命救急センターの統括看護長であり、副センター長でもある。厳しそうな方をイメージしてしまいそうな肩書きだが、お会いするととても朗らかで優しそうな方だった。 一般的には医師が担うことが多いこの「副センター長」という役職。「おそらく日本で初めて、看護師としてこの役職に就いた人間だと思います」と鈴木さんは笑う。「それだけ看護師のことを信頼して、認めてくれている病院なんですよ」と言うけれど、彼女の笑顔を見ているとそれだけではないような気がした。 つい先日、鈴木さんは救護のボランティアとして富士山の救護所に行っていたらしい。「休みの日にもボランティアによく行くんですよ」。彼女の笑顔とよく日に焼けた腕を見ながら、現場で培ってきた優しさと強さを感じた。

なりたいものがなかった高校時代、昔の夢をふと思い出した

ーまずは、鈴木さんのお仕事について教えてください。

救命救急センターの統括看護長と副センター長を兼任しています。
看護師を統括する立場としては、現場の看護師を指揮したり、現場の意見を上へ吸い上げて体制を整えていくのに加え、スタッフの勤務調整から患者様のご家族への対応確認など多岐に渡る業務を行っています。また副センター長としては、医師、看護師、臨床検査技師などいろいろな職種のつながりを生かしながら、救急救命センター全体の運営を行い、問題があれば改善していきます。大まかに言えば、それが私の仕事です。

ー管理職のお仕事なんですね。今も現場に立つことはありますか?

それは最近あまりしなくなりましたね。現場はみんなに任せています。本当は現場にいたいタイプなんですけどね(笑)。
あとは、若手の教育も行っています。私はもともと救命救急センターで働いていたんですが、その後一般病棟に移動してからも、ずっと救急の勉強を続けていたんです。現場を離れたらいざというとき動けなくなってしまうかなと思って、研修を受けたり、インストラクターをやっていたりしたんですが、その時の経験を生かして、今もスタッフを巻き込んで研修を行っています。

ー鈴木さんは、昔から看護師になりたいという夢があったんですか?

一番最初は幼稚園の頃かな。お誕生日会で、みんなの前で「看護師になりたい」って言ったのを覚えています。何でそう言ったのかはわからないけれど、なんとなく憧れていたんでしょうね。
それから中学生の時に、祖母が入院したんです。病室にお見舞いに行って、ふたりきりになったことがあったのですが、その時祖母の痰が絡んですごく苦しそうにしていたんですよ。でもどうしたらいいのかわからなくて、怖くなって「お母さん!」って逃げ出しちゃって。とてもお世話になっていたのに、いざとなったら何もできないんだなって、その時はすごく思いましたね。
それがあったからかどうかはわからないけれど、高校で進路を考えた時にふと、「そういえば看護師になりたかったな」って思い出したんです。なりたいものがなくて、進路を決めるのはかなり遅かったんですけど。

ーだからこそ、幼い頃の夢を思い出したんですね。

はい。それから藤田を目指しました。
私が学生のときには、看護師って短大や専門学校がほとんどだったんですよ。だけど私は、4年制大学がいいなと思っていたんです。看護師だけではなくて保健師の資格がとれたり、他の職種を目指す学生とも交流できるので、自分の選択肢が広がりそうだなと思って。それで藤田に入学しました。

看護師の目線を持ってやれば、何でも「看護の仕事」になる

ー入学してから、夢を叶えるために特に頑張っていたことは何ですか?

私、小さい時から体を動かすのが大好きで。大学では軟式テニス部に入って、部活に明け暮れていましたね(笑)。
そのテニス部の先輩の紹介で、アルバイトとして併設している大学病院で働いていました。その時は、病棟の清掃をしたり、車椅子をぴかぴかに磨いたり、CTやリハビリの患者さんを搬送したりとかしていましたね。その経験は大きいと思います。

ー大学の授業で学んだことで、今の仕事に生きていることってありますか?

血液内科で実習をしていた時に、大先輩である看護長に言われたことが、今でもずっと残っているんです。その病棟にいらっしゃるのは、血液の病気で感染や出血を起こしやすい患者さんだったんですが、みなさん見た目には動くことのできる方が多かったんですよ。つまり、介助があまり必要なかったんです。私はずっと「何かしてあげなきゃ!」って思っていたので、そこで自分が何をしたらいいのかわからなくって悩んでいたんですね。
ある日食後に患者さんのスプーンを洗っていたら、看護長さんに「それを普通に洗うだけだったら誰にでもできるよね?」と言われたんです。

「ひとつひとつの仕事に、看護師の視点を入れなさい。なぜ自分がその患者さんのスプーンを洗ってあげるのかをちゃんと考えれば、その仕事の意味がわかってくる。看護師の目線を持ってやれば、何でも『看護の仕事』になるんだよ」と。それを聞いた時にはハッとしましたね。

今、災害看護で被災地に行くこともあるんですよ。そういう時にも、「支援をしなくちゃ!」って思ってしまいがちなんですけど、こっちがやりすぎてしまうと逆に迷惑になることがあるんです。支援に行った私たちが立ち去った後に、いかに現場がきちんと回るようにするか。それも含めて、看護師の仕事なんです。
その看護長さんにはこんなことも言われましたね。
「大学にまで行って勉強しているのだがら、自分の仕事のことをきちんと考えて、誇りを持ってやりなさいよ」と。

ーああ、それは本当に大事なお話です。今もその言葉がずっと残っているんですね。

辛くなったら、一度原点に戻ってみること

ー鈴木さんが仕事で大事にしていることって何ですか?

救命でいちばん大事なのは、チームワークだと思っています。ひとりの患者さんを助けるのために絶対欠かせないものです。だけど、緊急事態になると人ってどうしてもいっぱいいっぱいになってしまうんですよね。そうすると普段から関わっている仲間でもコミュニケーションエラーが起きやすくなる。だからこそ私は、常日頃から声をかけ合うことを欠かさないようにしています。
たとえば、夜勤の看護部長の代行をする場合には、仕事場に入る時にいろんな方に挨拶をしてまわります。院長代行の先生、事務の当直の人、守衛さんなどに「今日は私が夜勤ですのでよろしくお願いします」と言うんです。そうするだけで、何かあった時にスムーズに伝わりやすくなる。やはり緊急の何かが起きると焦ってしまいがちなので、普段から関係づくりをしておくようにしています。

ー常に緊急の時に備えているんですね。それほどプレッシャーの多い大変な仕事だと思うのですが。

それでもやっぱり、現場で働くことは楽しいですよ。今は管理職になり現場に入ることも少なくなったのですが、やはり現場の動き方をちゃんと覚えておきたくて、休日にはボランティアにもよく行っています。この間はお祭りの救護所、富士山の救護所にも行きました。
それから、災害派遣医療チーム(DMAT)にも所属していて、何かあったときにはいつでも被災地へ応援へ駆けつけられるようにしています。車の中には、ヘルメットとかリュックとか、被災地に行くための荷物を置いてあって、すぐに行けるようにしているんですよ。
患者さんのためになることはもちろん、病院以外でもいろんな医師、救急隊、消防隊の人と一緒に働くことで輪が広がる。そういうのが好きなんですよね。

ー休みの日にも看護師として働いているとは、本当にライフワークなのだろうな、と聞いていて思ったのですが、辞めたいと思ったことはないですか?

それは何回もありますよ(笑)。だけど私は「途中で辞めない」って自分で決めているんです。辞めちゃうのって、簡単じゃないですか。辞めたらそれでおしまい。だけど、大変ながらも続けることでしか見えない景色ってあるんですよね。
私は中学の時に途中で部活を辞めたことがあって、それを本当に後悔しているんです。あの時は突発的に「辞めちゃえ」ってなってしまったけれど、続けていたらいろんな経験ができただろうなって。それはもう繰り返したくないんですよね。

ーそうなんですか。そのお答えは意外でしたが、何だかこちらまで励まされてしまいました。それでは、最後に受験生にアドバイスをお願いします。

今話したこととつながりますが、今後勉強や仕事を辞めたくなったときには、「どうしてこの仕事をやりたいと思ったんだっけ?」ということを思い出してみるといいかもしれません。
その時の大変さだけにフォーカスを当てるんじゃなくて、一度立ち止まって「原点に戻る」って言うんでしょうか。初心を思い出して歩き続けていけば、必ず見えてくるものがある。私はそう信じています。

私の相棒

チェリーちゃん(飼い犬)

チェリーちゃんは、家で飼っているミニチュアダックスフンドです。今4歳の女の子なんですが、もう本当に可愛くて溺愛しています。私が仕事から帰ってくると、しっぽをちぎれんばかりに振って、大喜びで迎えてくれるんですよ。それにこの肉球もすごく可愛くて……(笑)。
スマートフォンで、自宅にいるチェリーちゃんの様子を見ることができるのですが、休憩時間には「今何してるかな」と覗いてみたりしています。日々の疲れが溜まった時なんかは、チェリーちゃんに癒されながら充電していますね。それで元気になって、また明日から頑張れる。私の大事な相棒です。

看護師という仕事は、精神的にも体力的にも強さを必要とされる仕事だ。そのタフさはどこから来るのだろうと、ずっと気になっていた。
鈴木さんの話を聞いて、中学時代の「逃げ出してしまった」経験が、今の鈴木さんを支えているように思った。部活を途中で辞めてしまったこと、祖母の病室から飛び出してしまったこと……。そのときの後悔した気持ち、落ち込んだ気持ちを、鈴木さんは看護師になった今もしっかりと覚えている。
「強い」ということは、自分の中の弱さを認めていることなのかもしれない。「弱い」とわかっているからこそ学べるし、成長できるし、優しくなれる。鈴木さんはきっと、自分の中に「逃げ出してしまった自分」を、ずっと持ち続けているのだろう。
チェリーちゃんの写真に微笑む鈴木さんの表情に、ふと中学時代の彼女が顔をのぞかせたような気がした。そしてまた、救命救急センターの統括看護長であり、副センター長として歩き出す。その先には、まだまだ見えない景色が待っているはずだ。