OGOB INTERVIEW

藤田医科大学 卒業生インタビュー仕事で大切にしていること、
なんですか?

作業療法士

INTERVIEWvol.002

常に患者さん優先。そして「もっと良くなる」と信じること。

長坂 香澄Kasumi Nagasaka

藤田医科大学病院 リハビリテーション部勤務

リハビリテーション学科 作業療法専攻 / 2009年卒業

取材日

DESCRIPTION

リハビリが休みとなるお昼の時間。日当たりの良いリハビリルームには、様々なロボットや機器が置かれている。作業療法士の長坂さんは、いつもここで仕事をしている。 「いろんな道具があるんですね」と言うと、「患者さんに応じて使い分けるんですよ」とのこと。年間何百人もの患者さんと接する長坂さんだが、今ではメモを見なくても誰がどれを使うのか覚えているそうだ。中には自主トレのできる機器もあり、「リハビリはとにかく頻度と量なんです。やればやるほどよくなりますから」と長坂さんはにこやかに言った。 取材中終始こちらを気遣ってくれ、ひとつの質問にじっくりと自分の言葉で答えてくれた長坂さん。「患者さんといつもマンツーマンで接している」と言う長坂さんは、常にこのような誠実な姿勢で患者さんとも接しているのだろう。

もう一度その人らしい生活を取り戻すサポートを

ーまずは、作業療法士の仕事について教えてください。

病気やけがをしてこれまでと違う身体機能になってしまった方々が、もう一度その人らしい生活に戻っていけるように、機能改善・精神的サポートをする仕事です。
日常生活での動作……たとえば、食事をしたりお風呂に入ったり着替えをしたり、そういった能力を再獲得して、また家庭、学校、職場に戻れるように、マンツーマンでリハビリのお手伝いをしています。

ーそれに加え、精神的サポートも行っているんですか。

はい。リハビリは患者さんにとって辛く感じることもあるので、精神的に不安定なときには、負荷を軽減した訓練に切り替えることもあります。いかに良くなった自分をイメージして、「もっと良くなろう!」と思えるかどうかが大事なので、なぜ今これをやるのかということはしっかり伝えるようにしていますね。患者さんが現状に悲観的にならず、前向きな気持ちになれるように、ひとりひとりに合わせた動き方を意識しています。

ーコミュニケーションがとても重要なんですね。

そうですね。そして、患者さん以外の方とのコミュニケーションも大事なんです。退院後、いかにその患者さんらしいやりがい・趣味・役割などを残せるか。それは、患者さん本人だけでなく、周りの人にもかかっています。ですので、患者さんの勤め先の方に復職の際のアシストをお願いしたり、お家の改修案を考えてリフォーム業者さんと話をしたり、ケアマネージャーさんと連携したりというのも、私たちの仕事なんですよ。

「熱心にやってくれている」という信頼が基盤

ー長坂さんがこの仕事を目指したきっかけは何ですか?

幼い頃、祖父がリハビリを受けていたのを近くで見ていたので、医療関係に興味を持つようになったんです。患者さんの生活に即しながら、もっと良くなるために力になれるなんて、素敵な仕事だなと。それで作業療法士という仕事に惹かれました。

ー藤田を選んだ理由は何だったのでしょうか。

病院がすぐ近くにあって、臨床実習の時間が長いということですね。座学だけではなく、学生のうちから臨床での経験・知識も積めることが魅力でした。

ーでは、学生時代も実習にとくに力を入れていた?

そうですね。実際に患者さんと接して、リハビリに携わることができた時間は、とても貴重でした。毎日やることが多くて大変でしたけど、「少しでも患者さんのやる気に繋がることがしたい!」という一心でしたね。患者さんのためになることはその日のうちに調べて、翌日には効果的な自主トレの方法を考えて伝えたり。そうしているうちに、「ありがとう」と感謝されることや、「今日はあの子いないの?」と名前を覚えてもらえることが増えて、そのたびに本当に嬉しかったんです。そして何より、患者さんが良くなっていく姿を目の当たりにすることで、なんてやりがいのある仕事なんだろうと実感するようになりました。

ー患者さんにも、熱意が伝わったんですね。ではそこで学んだことで、いちばん今の仕事に生きていることは何でしょう?

うーん、本当にたくさんあるんですけど、一番はラポール形成……つまり、信頼関係を築くことでしょうか。やはり「この人は熱心にやってくれているんだな」って思ってもらえるかどうかって、とても大事ですよね。
そのためにはコミュニケーション能力が欠かせないんですけど、大学ではそこをかなり教育されました。藤田では上下関係がしっかりしていて、挨拶とかマナーとか、礼儀教育が入学時からきちんとされているんです。そこで鍛えられたおかげで、年の離れた方や、他職種の方とも、密にコミュニケーションをとることができるようになりました。それはチーム医療には欠かせないことだと思います。
また、患者さんやご家族の方に対しても同じで、どんな時も相手を尊重しながらきちんと自分の意見を言うことが大切です。
その積み重ねが、信頼関係に繋がっているのではないかなと思いますね。

患者さんの「できた!」がいちばん嬉しい

ー仕事をする上で、常に意識していることはありますか?

いつも気をつけているのは、「常に患者さん優先である」ということですね。「今時間がないから」とか「余裕がないから」とか、自分の都合を押し付けてしまうことは、患者さんにとってストレスになることなので、なるべくその場で解決するようにしています。

ー常に患者さんのために動けるようにしているのですね。

はい。そしてそれと同じくらい、「自分の思い込みで患者さんの限界を決めてはいけない」ということにも気をつけていますね。
私が「ここが限界かな」と思い込んでしまったら、患者さんはそれ以上良くなることができないんです。そうならないように、同じ症例の文献を読み込んだり、先輩に相談したり、これまでの経験を生かしながら、常に自分を疑いつつ、先を見通す力を身につけるよう努力しています。
その訓練の結果、患者さんが「できた!」っていう表情を見せてくれるときは本当に嬉しいですね。退院して「今こんな生活をしているよ」っていう報告をしに来てくれた時には、この仕事をやっていてよかったなと心から思います。

ーでは最後に、この業界を目指している受験生へのメッセージをお願いします。

作業療法士というのは、学んだことがすべて現場で生かせて、やりがいを感じられる仕事です。だからこそ、時には自分の未熟さに直面することもあるんですよね。だけど、ひとりで頑張らなくたっていいんです。誰かに助けを求めて、手伝ってもらえばいい。そうしていくうちに、自然と成長していくものだと思います。だから、何でも自分ひとりで何とかしようとするのではなく、アドバイスをもらったり協力してもらったりしながら、夢に向かってくださいね。

私の相棒

自助具

「自助具」って、ご存知ですか? たとえば食事や入浴など、ひとりでは難しくなってしまった動作でも、他の人の介助なしで行えるようにサポートする道具です。
これらは市販のものももちろんあるんですけど、私たち作業療法士が、患者さんひとりひとりに応じてオーダーメイドで作ることもあるんですよ。スプーンが持ちにくければ手に巻きつけられるようにしたり、箸を連結させて挟みやすくしたり、体を洗いやすいように柄のついたブラシを作ったり……。
これは仕事をしている私にとっても相棒だし、退院してからは患者さんにとっての相棒でもあるんです。その方が自分らしい生活を送れるように支えてくれる、立派な相棒なんですよね。

取材が終わるとリハビリルームは再開されていて、患者さんが数名訓練を始めていた。「取材? ちゃんと答えられた?」と問いかけてくる患者さんに、長坂さんは笑顔でうなずく。
実は「相棒は何ですか?」という質問には、彼女はもうひとつ答えを用意してくれていたのだ。それは「白衣とヘアゴム」だった。
「白衣を着てヘアゴムで髪の毛を結ぶ瞬間に、自分が切り替わるのがわかるんです」
その瞬間にきっと長坂さんは、プライベートの顔から「患者さん優先」のプロの顔になるのだろう。常に患者さんの可能性を信じ、自分を疑う作業療法士の顔に。
取材が終わると、長坂さんはにこやかに、そして颯爽と自分の仕事場に戻っていった。長坂さんの目は、常に未来を向いている。