プレスリリース

藤田医科大学病院に入院していた重病の中国人女性が母国で治療を受けるられるよう日本と中国の「善意のリレー」が行われました

本大学病院に入院していた中国人女性が、中国 武漢の病院で心臓の移植手術を受けるため、2020年6月12日に無事帰国しました。
技能実習生として来日していた女性は2019年5月、急性腎不全で本大学病院へ入院。治療のめどがついてきた8月末に突然の胸痛を訴え、「巨細胞性心筋炎」という非常にまれな心臓病と診断されました。心臓の機能は悪化の一途をたどり、生命も危ぶまれる状態となったため、救命のために、心臓血管外科 髙味 良行教授・循環器内科 星野 直樹助教らのチームが、血液を体外で循環維持させるため、体外式両心室補助人工心臓を付ける手術を行いました。

体外式補助人工心臓装着中の患者さん

巨細胞性心筋炎は、極めて予後が不良で心機能の回復が見込めない病気です。本来であれば、心臓移植の申請を行い、植込み型補助人工心臓に付け替えて移植待機をするところでした。しかし、患者本人の日本語がカタコトで、複雑な管理を要する植込み型補助人工心臓の扱いが難しく、介護者となるべく両親も、ビザの関係で年間180日しか滞在できないなど、本邦で心臓移植を受けることは、現実的に困難な状況でした。
そのような状況にあっても、彼女の全身状態を良好に保つために、薬物治療・感染対策・栄養管理・リハビリテーションが、多診療科・多職種により熱心に行われ、彼女は自力で歩くことができるまでに回復しました。 


武漢の医師たちと帰国前Web会議 
 
心臓移植目的での患者受け入れを表明して下さった華中科技大学同済医学院附属協和医院 董念国(とう・ねんこく)教授のチームが精力的に動き、2020年1月末に武漢の病院で移植が実現する予定でしたが、中国におけるCOVID-19感染者急増を受け、搭乗を予定していた中部国際空港からの定期便が直前で運休となり、中国へ帰る道が閉ざされてしまいました。4月に入り武漢市の都市封鎖が解除されたため、中国南方航空にチャーター便の運航を働きかけるなど奔走し、厳しい出入国制限が続くなか帰国が実現しました。

 中国人女性と母親・本学医療チーム・武漢の医師らと飛行機内で
 
補助人工心臓治療は、左室補助装置のみで行われることが多いですが、この女性は右室機能も高度に障害されていましたので、2個のポンプを使用して、左右の心室を補助する必要がありました。体外式両心室補助人工心臓治療は、左右の補助バランスが難しい上、3カ月ごとにポンプの交換を必要とし、感染・血栓塞栓症・血栓防止のための薬剤投与による出血という、致命的となる3大リスクを常に伴います。そのような難度の高い治療を9カ月間もの長期にわたり行い、彼女の全身状態を良好に保ち、航空機による渡航搬送に耐えられたことは、当院の多職種による医療チームの集学的治療・管理の結実といえましょう。
 

中部国際空港にてお見送り

出国の日、治療の費用にと病院職員から集められた募金を湯澤 由紀夫病院長から手渡された母親は、「娘が重い病気になってしまったのは悲しいけれど、皆さんに助けていただいてとても幸せです。本当にありがとうございました」と感謝の気持ちを表しました。あいち小児保健医療総合センターから借用した高規格救急車に髙味教授・星野助授らが同乗し、人工心臓を付けたまま中部国際空港まで移動。日中両国の医療チームが、情報共有し、詳細に繰り返し準備してきた行程通りに、航空機内で武漢の医師に無事引き継ぎを終えました。
 
 
職員から集めた募金を母親に渡す湯澤病院長

 
 この一年余に及ぶ、国境を越えた命のリレーの中で、当院の医療チームは、プロの精神、専門の技術、温かい心で第一走者としての役目を無事果たすことができました。
なお、彼女は体外式両心室補助人工心臓に依存しているため緊急度が高いと判断され、6月25日に無事、武漢の協和病院で心臓移植手術を受け、現在、退院に向けて療養中です。

今回の出来事は、コロナ禍の中の希望あるニュースとしてNHK・フジテレビ・中日新聞・中国メディアで取り上げられました。中国大使館のサイトでも紹介され、本学の高い医療技術にも注目が集まりました。