プレスリリース

統合失調症に対する新規治療方法 「クルクミンおよびスルフォラファン」の有用性を検証

~症状の改善や治療継続率に良い影響を与えることが明らかに~

藤田医科大学(愛知県豊明市)医学部精神神経科学講座のStudent Assistant※1である岡崎正和、城ひかる、永田唯、ならびに、岸太郎教授、佐久間健二講師、北島剛司教授、岩田仲生教授の研究グループは、統合失調症※2の症状に対するクルクミンおよびスルフォラファンの有用性を、系統的レビューとメタ解析※3を用いて検証しました。この研究によって、クルクミンは、陽性症状および陰性症状に対して有効である可能性を見出しました。さらに、スルフォラファンは、全ての理由による治療中断率が低く、治療継続率を高める効果が示唆されました。また、スルフォラファンは、総コレステロール、LDLコレステロール、および中性脂肪を減少させる可能性が示唆されました。このように、クルクミンおよびスルフォラファンは、抗精神病薬の補助療法として新たな選択肢となる可能性を秘めており、より確実な臨床応用に向けて、さらなる大規模で質の高い臨床試験による検証が期待されます。

本研究成果は、精神神経科学領域の国際ジャーナルである「European Archives of Psychiatry and Clinical Neuroscience」のオンライン版にて、2026年5月19日に公開されました。


研究成果のポイント

  • 統合失調症の症状に対するクルクミンおよびスルフォラファンの有用性を、系統的レビューとメタ解析を用いて検証した
  • クルクミンが統合失調症の陽性症状、陰性症状、および全般的な精神症状を改善させる可能性を見出した
  • スルフォラファンは、全ての理由による治療中断率が低く、治療継続率を高める効果が期待でき、さらに総コレステロール、LDLコレステロール、および中性脂肪を減少させる可能性が示唆された

背景および研究手法

既存の抗精神病薬は陽性症状に対して高い改善効果を示す一方で、陰性症状や認知症状に対する効果は十分とは言えず、これらの残遺症状に対する革新的な治療戦略の確立が、現代精神医学における最重要課題の一つとなっています。
これまで複数の研究で、統合失調症の症状に対する様々な物質の有用性が検討されてきましたが、最近、統合失調症の脳内で起こっている炎症やNrf2活性化剤であるクルクミンおよびスルフォラファンが注目されています。
統合失調症の病態には、神経炎症や神経新生の阻害、ドパミンやグルタミン酸といった神経伝達物質の調節不全、さらに脳由来神経栄養因子の不足などが複雑に関与しています。このような病態において、生体防御の鍵を握るのが「Nrf2」です。Nrf2は、酸化ストレスや炎症に反応して細胞保護や抗酸化・抗炎症に関わる遺伝子の発現を制御する「転写因子」であり、その機能不全が統合失調症の病因に深く関わっている可能性が示唆されています。
そこで私たちは、系統的レビューとメタ解析を用いて既報の研究データを統合して解析し、統合失調症の症状に対するクルクミンおよびスルフォラファンの有用性を検証しました。
 

 

研究成果

この研究によって、クルクミンは、陽性症状および陰性症状に対して有効である可能性を見出しました。また、スルフォラファンは、全ての理由による治療中断率が低く、治療継続率を高める効果が期待でき、さらに、総コレステロール、LDLコレステロール、および中性脂肪を減少させる可能性が示唆されました。


今後の展開

1.クルクミン:多角的なアプローチによる症状改善の可能性
本研究により、クルクミンが統合失調症の陽性症状、陰性症状、および全般的な精神症状を改善させる可能性が示されました。クルクミンは、抗炎症作用、脳由来神経栄養因子の増加、酸化ストレスの緩和という複数のメカニズムを通じて病態に作用すると考えられます。これらの病態メカニズムは他の精神疾患にも共通していることから、今後は統合失調症のみならず、より幅広い疾患への応用が期待されます。ただし、本研究では、研究間での結果のばらつき(異質性)も認められたため、結論を確かなものにするには、さらなる大規模かつ高品質な臨床試験が必要です。

2.スルフォラファン:治療継続性と副作用マネジメントへの貢献
スルフォラファンについては、プラセボと比較して治療の中断率が低いことが確認されました。この結果は、この患者群において、良好な忍容性と有効性を持つ可能性を示唆しています。さらに、総コレステロールやLDLコレステロール、中性脂肪を低下させる効果も期待できるかもしれません。オランザピンやクエチアピンなどの一部の第2世代抗精神病薬は脂質代謝異常を誘発するリスクがあり、それが心血管疾患の原因となることがあります。スルフォラファンは、こうした薬剤誘発性の脂質異常症に対する、新たな併用療法の選択肢となることが期待されます。
 
3.本研究の限界と今後の課題
本解析は、対象となった試験のサンプルサイズが比較的小さく、投与期間も短期的であったという限界があります。また、解析データの不足により、他のNrf2活性化剤であるアスコルビン酸やレスベラトロールの有効性を十分に検証できなかった点や、出版バイアスの可能性も完全には否定できません。今後は、非薬物療法との組み合わせや費用対効果といった、より実際の臨床現場に即した実用的な課題についても検証を進め、Nrf2活性化剤が統合失調症治療における標準的な補助療法となり得るかを明らかにしていく必要があります。


用語解説

※1 Student Assistant:本学では、文部科学省「高度医療人材養成拠点形成事業(タイプB)」の支援を受け、若手研究医を育成する「Student Researcher Program」を推進しています。本プログラムの一環として、医学部生をStudent Assistantに任命しています。Student Assistantは、教育・研究の補助業務に加え、研究計画の策定から論文執筆に至るまでの実務を経験することで、学生のうちから本格的な臨床研究のスキルを身につけることが期待されています。
※2 統合失調症:約100人に1人が罹患する精神疾患で、陽性症状(幻聴や妄想など)、陰性症状(意欲の低下やひきこもりなど)や認知症状(集中力・持続力の低下など)が主要な症状です。
※3 系統的レビューとメタ解析:複数の研究のデータを統合して解析する研究手法で、一般的に、系統的レビューとメタ解析から作り出された研究結果の質は高いと評価されています。

 

論文情報

論文名

Efficacy and Safety of Nrf2 Activators for Schizophrenia:A Systematic Review and Meta-analysis

著  者

岡崎 正和1, 佐久間 健二2, 城 ひかる1, 永田 唯1, 濱中 駿2, 西井 保文2, 北島 剛司2, 岩田 仲生2, 岸 太郎2

所  属

  1. 藤田医科大学 医学部
  2. 藤田医科大学 医学部 精神神経科学講座

DOI

FOLLOW US

公式SNSアカウント