プレスリリース

長期間安定的に培養可能な皮膚幹細胞モデルを樹立

 ~皮膚科学分野や再生医療分野における幹細胞研究の応用に期待~

本学応用細胞再生医学講座 赤松 浩彦教授および皮膚科学講座 杉浦 一充教授は、日本メナード化粧品株式会社と共同で長期間安定した培養が可能な3種類の皮膚幹細胞モデルを樹立しました。

これまでも、皮膚科学研究、医薬品開発、化粧品開発などにおいて細胞培養の技術は活用されており、必要不可欠な技術となっています。しかし、身体から取り出された細胞は培養を繰り返すと機能が低下し、また細胞の提供者(ドナー)ごとに細胞の状態が異なるなど、その扱いや細胞の維持には高い技術が必要でした。特に、近年注目されている「幹細胞」は、身体にわずかしか存在しない貴重な細胞であり、その培養技術も特殊なものが多く安定的に培養することが困難でした。
今回、共同研究グループでは、これまでの皮膚における幹細胞の研究成果を応用し、皮膚科学分野や再生医療分野において安定的に長期培養が可能な不死化※1幹細胞モデル(表皮幹細胞モデル、真皮幹細胞モデル、脂肪幹細胞モデル)を樹立しました。
これらのモデルは今後、皮膚の再生メカニズムの解明や皮膚の再生を促す医薬品などの開発へ応用が期待されます。

なお本研究成果は、科学雑誌「Biological and Pharmaceutical Bulletin」(44巻10号)に掲載されました。

皮膚細胞の入手について

本学医学研究倫理審査委員会にて承認後、研究にご協力いただける方より同意を得て、手術時に余剰となった皮膚(表皮、真皮、皮下脂肪組織)から酵素処理によって表皮細胞、線維芽細胞、脂肪間質細胞を分離しました(図1)。

図1 1人のドナーの皮膚組織から3種類の皮膚細胞を分離


不死化幹細胞モデルの樹立

先に分離した皮膚細胞(表皮細胞、線維芽細胞、脂肪間質細胞)に、細胞を不死化するための遺伝子(TERT, CDK4R24C, CCND1)を導入しました。また、それぞれの細胞について、複数の単細胞クローン※2を樹立しました。さらに、その単細胞クローンの中から幹細胞マーカーの発現や幹細胞の特徴である分化能、増殖能を指標に幹細胞性が高いクローンを選別しました。その結果、長期間安定培養が可能な表皮幹細胞、真皮幹細胞、脂肪幹細胞の不死化モデルを樹立することができました(図2)。

図2 不死化幹細胞モデルの樹立


樹立した幹細胞モデルの能力

例えば、通常の表皮細胞は、培養を続けると5回程度の継代※3によって細胞老化を引き起こし、それ以上は増殖しなくなります。一方、今回樹立した表皮幹細胞モデルは、長期間培養し40回近く継代を繰り返しても、細胞老化を引き起こさず増殖を続け、さらに、表皮を構築する分化能も維持していました(図3)。
同様に、真皮幹細胞モデルや脂肪幹細胞モデルについても、長期間培養した後でも増殖能が低下せず、様々な細胞への分化能を保持していました(図4)。
以上より、今回樹立した3種類の不死化幹細胞モデルは、細胞老化を起こさずに幹細胞としての能力を保持したまま安定的に培養することが可能でした。今後、これらの細胞を用いることで、皮膚幹細胞の研究や幹細胞に有用な物質のスクリーニングなどが効率的に行えるようになると考えられ、皮膚科学分野及び再生医療分野への応用が期待されます。

図3 通常の表皮細胞と不死化幹細胞モデルの表皮構築能の比較


図4 樹立した幹細胞モデルの能力

用語解説

※1 不死化

目的の細胞に細胞増殖を促進する遺伝子や細胞老化を抑制する遺伝子を導入することで細胞老化を引き起こさずに長期間増殖可能な細胞を作製する技術

※2 単細胞クローン

1個の細胞から増殖した細胞集団

※3 継代

増えた細胞を植え継ぐこと



掲載雑誌・タイトル・著者について

雑誌名

Biological and Pharmaceutical Bulletin

論文タイトル

Establishment of three types of immortalized human skin stem cell lines derived from the single donor

著者

井上 悠3,4, 長谷川 靖司2-4, 長谷部 祐一3,4,堀田 美佳1,3,4, 奥野 凌輔3,4,山田貴亮1-3, 足立 浩章3, 宮地 克真3, 石井 佳江1, 3, 杉浦 一充2, 赤松 浩彦1

所属

1 藤田医科大学 医学部 応用細胞再生医学講座
2 藤田医科大学 医学部 皮膚科学講座
3 日本メナード化粧品株式会社 総合研究所
4 名古屋大学大学院 医学系研究科 名古屋大学 メナード協同研究講座

DOI