プレスリリース

慢性腎臓病患者のナトリウム・カリウム排泄量と腎機能予後 腎機能保護療法としての塩分摂取制限・カリウム摂取制限の観察評価

藤田医科大学(愛知県豊明市、学長:湯澤由紀夫)と国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の尾形宗士郎(藤田医科大学 医学部 腎臓内科学 客員講師、国循 予防医学・疫学情報部 上級研究員)、西村邦宏(藤田医科大学 医学部 腎臓内科学 客員教授、国循 予防医学・疫学情報部 部長)、前田憲志(大幸砂田橋クリニック 院長)、そして中井滋(藤田医科大学 医療科学部 臨床工学科 教授)らの研究のグループは、尿中ナトリウム・カリウム排泄量を、測定誤差を減らすために7回の24時間蓄尿によって評価し、慢性腎臓病(CKD)患者における尿中ナトリウム・カリウム排泄量と腎機能低下の関連を検討しました。その結果、尿中ナトリウムの高い排泄量(一般には塩分摂取量が多いことを反映)と、尿中カリウムの低い排泄量(一般にはカリウム摂取量が少ないことを反映)が、それぞれ腎機能低下と関連することを示しました。今回の研究結果により、塩分摂取量を制限するとともにカリウム摂取量を再考することにより、腎機能低下予防に更に効果的な食事療法が見つかることが期待されます。なお、本研究は観察研究であるため、慢性腎臓病患者のナトリウム・カリウム摂取量を変えることがその後の腎機能低下予防に実際につながるか否かを結論付けるには、更なる研究が必要です。
本研究成果は、腎臓学領域で世界的に権威のある米国の学術ジャーナル「Kidney International」にオンライン版が2021年11月11日(11時)より正式版に先駆けて公開されています。正式版は間もなく掲載される予定です。
論文URL : https://www.kidney-international.org/article/S0085-2538(21)01057-7/fulltext
DOI: 10.1016/j.kint.2021.10.030

研究成果のポイント

●尿中ナトリウム・カリウム排泄量を7回の24時間蓄尿により評価し、測定誤差を先行研究と比較して非常に小さくした上で、尿中ナトリウム・カリウム排泄量と腎機能予後との関連を検討した点。
●慢性腎臓病患者に対し、塩分摂取量を制限すると共にカリウム摂取量を再考することにより、腎機能低下予防に更に効果的な食事療法が見つかることが期待されます。
●慢性腎臓病患者におけるナトリウム・カリウム摂取量に関する介入研究の必要性を提示。

概要

背景

慢性腎臓病患者において透析や早期死亡を防ぐために、ナトリウム摂取制限は重要であると言われてきました。また、慢性腎臓病患者は腎機能低下によるカリウム排泄量の不足から血液内のカリウム濃度が高くなりすぎやすく、これは重篤な不整脈の原因となるため、カリウム摂取量を適切に制限することが重要とされています。しかし近年では、慢性腎臓病患者へのカリウム摂取量の強い制限は腎機能低下と関連しているとする報告があり、慢性腎臓病患者のカリウム摂取量について、世界的に議論されています。加えて、多くの先行研究の結果をまとめて再解析するメタアナリシス研究では、ナトリウム摂取量とカリウム摂取量と腎機能の関連性は研究毎に様々であり、強固なエビデンスは示されていません。
先行研究の結果が不一致である理由として、ナトリウム・カリウム摂取量の評価が、大きな測定誤差を含む方法に基づいているからではないかと、我々は考えました。すなわち多くの先行研究では、質問紙調査票による食事習慣の把握や、随時尿(1日のある1回の尿による評価)、あるいは1回の24時間蓄尿(1日の全部の尿による評価)の結果に基づく尿中ナトリウム・カリウム排泄量によって、ナトリウム・カリウムの摂取量を評価しています。しかし、ナトリウム・カリウム摂取量をその尿中排泄量から正確に評価するには、随時尿や24時間蓄尿の1回の測定結果からだけの評価では不十分であり、随時尿ではなく24時間蓄尿の結果を、更に複数回平均して評価することが重要であることが、最近報告された先行研究により示されました(摂取量と24時間蓄尿の1回での不一致割合はナトリウムで51%, カリウムで34%; 3回平均での不一致割合はナトリウムで25%、カリウムで19%; 7回平均での不一致割合はナトリウムで8%、カリウムで13%)。そこで、我々の研究では慢性腎臓病患者を対象に、過去7回の24時間蓄尿の診療データに着目し、7回の蓄尿測定値を平均して求めた尿中ナトリウム排泄量と7回の蓄尿測定値を平均して求めた尿中カリウム排泄量と、腎機能低下速度との関連を観察研究で検討しました。

方法

本研究は、愛知県名古屋市の大幸砂田橋クリニックに通院歴のある慢性腎臓病患者さんの匿名化された過去の診療データを用いた後ろ向き観察研究となっています。慢性腎臓病患者さんのうち2年以内で7回以上の24時間蓄尿のデータがあり、ベースラインの腎機能が推定糸球体濾過量(eGFR)が60 mL/min/1.73 m2 未満であった240名の慢性腎臓病患者さんが解析対象となりました。
本研究のアウトカムは、腎機能低下速度(1年間のeGFR %変化量)とし、腎機能低下速度を評価するためにベースラインの蓄尿実施日から4年の間に繰り返し測定されたデータを使用しています(中央値2.9年)。本研究のeGFRは、日本での慢性腎臓病の臨床及び研究で広く使用されている推算式によって、血清クレアチニンと年齢と性別から算出しました。また、リスク要因は、7回平均24時間蓄尿ナトリウム・カリウム排泄量としています。統計解析には線形混合効果モデルを使用しました。

結果

対象患者さんの年齢の中央値(IQR)は72.0 (63.0–79.0)歳でした。7回平均24時間蓄尿ナトリウム排泄量が1標準偏差上昇(44.4 mEq/d)ごとに、eGFRの年間%変化量(95%信頼区間)は-3.26 (-5.85 to -0.60) %/yearで、7回平均24時間蓄尿カリウム排泄量が1標準偏差上昇(13.2 mEq/d)ごとに、eGFRの年間%変化量(95%信頼区間)は5.20 (2.34 to 8.14) %/yearでした。7回平均24時間蓄尿のナトリウム/カリウム比が1標準偏差上昇(1.59)ごとに、eGFRの年間%変化量(95%信頼区間)は-5.20 (-7.64 to -2.69) %/yearでした。また、ナトリウム・カリウム排泄量を、3分位に基づき低(下側33パーセンタイル)・中(真ん中33パーセンタイル)・高(上側33パーセンタイル)群に分け、対象患者さんを下記4群に分けました。A: ナトリウム排泄量低群&カリウム排泄量中-高群(= Reference群)、B:ナトリウム排泄量低群&カリウム排泄量低群、C: ナトリウム排泄量中-高群&カリウム排泄量低群、D: ナトリウム排泄量中-高群&カリウム排泄量中-高群。Aのナトリウム排泄量低群&カリウム排泄量中-高群と比較して、Cのナトリウム排泄量中-高群&カリウム排泄量低群のeGFRの年間%変化量(95%信頼区間)は-16.27 (-23.57 to -8.27)%/yearと、より腎機能の低下が著しい結果となりました。

考察・結論・今後の展開

本研究は、先行研究で示されたナトリウムの尿中高排泄量とカリウムの尿中低排泄量が腎機能低下と関連していることを、補強する結果となりました。特に、ナトリウム・カリウム排泄量の評価を、7回の24時間蓄尿のナトリウム・カリウム排泄量の平均値により正確に測定した(測定誤差を小さくした)という点から、先行研究と比べてより確からしい結果となったと考えられます。
ただし、実際にナトリウム・カリウムの摂取量を変えることがその後の腎機能低下速度を遅くするかどうかを結論付けるには、更なる研究が必要です。特に、カリウム摂取量については慎重に検討する必要があります。確かに、先行研究でも本研究でも、低すぎるカリウム摂取量と腎機能低下は関連していました。しかし、慢性腎臓病患者さんにおいて、カリウム摂取量を多くすることは高カリウム血症を生じる可能性があり、これは重篤な不整脈につながる可能性があるからです。さらに、本研究のカリウム排泄量の中群(真ん中33パーセンタイル)と高群(上側33パーセンタイル)は、先行研究(慢性腎臓病患者対象の研究と、非慢性腎臓病患者対象の研究)におけるカリウム排泄量が高い群と比較して、カリウム排泄量が少ない値であり(すなわち本研究では、カリウム摂取量の高群でも一定のカリウム摂取制限下にあると考えられる)、結果の解釈に注意が必要です。
本研究の成果からは、慢性腎臓病患者において塩分摂取量を制限するとともにカリウム摂取量を再考することにより、更に効果的な腎機能低下予防につながる可能性が期待されます。ただし、本研究は観察研究のため、ナトリウム・カリウム摂取量を変えることがその後の腎機能低下を予防するか否かを決定づけるには更なる研究が必要となり、様々な先行研究結果を慎重に考えたうえで日常診療に応用していく必要があります。

発表論文情報

著者:Soshiro Ogata, Yuumi Akashi, Takaya Sakusabe, Shigehito Yoshizaki, Yuko Maeda, Kunihiro Nishimura, Kenji Maeda, Shigeru Nakai.
題名:A multiple 24-hour urine collection study indicates that kidney function decline is related to urinary sodium and potassium excretion in patients with chronic kidney disease.
掲載誌:Kidney International
DOI: 10.1016/j.kint.2021.10.030

謝辞

本研究はH.U. グループホールディングスとの共同研究費に一部支援されています。なお、本研究において、H.U. グループホールディングスは研究デザイン考案、データ収集、データ解析、解析結果の解釈、論文原稿の作成のいずれにおいても役割を担当していません。