色素を調節する遺伝子MC1R の変異が パーキンソン病の進行の速さに関連
ーパーキンソン病の進行予測に新たな遺伝的手がかりー
藤田医科大学(愛知県豊明市 学長:岩田仲生)医学部脳神経内科学は、ハーバード大学(マサチューセッツ総合病院)のXiqun Chen博士が主導した共同研究を通じて、色素遺伝子MC1R※1の機能低下型変異※2を持つパーキンソン病患者では運動症状の悪化が速いことを明らかにしました。MC1Rは皮膚のメラニン形成を調節する遺伝子です。パーキンソン病で障害される黒質のドパミン神経細胞にも発現しています。黒質にはメラニンの一種であるニューロメラニン※3が存在します。マウスを用いた動物実験では、MC1Rの機能が低下すると黒質のドパミン神経細胞※4が障害されやすくなることが注目されています。本研究では、MC1Rの機能低下型変異を持つ患者では運動症状の悪化が約30%速く、この結果を別の集団でも確認しました。発症前段階※5からパーキンソン病への移行との関連も示されました。MC1Rが病気の進行を予測する手がかりとなる可能性があります。
本研究結果は2026年9月8日付けで国際ジャーナル「JAMA Neurology誌」にオンライン掲載されました。
研究成果のポイント
- MC1Rの機能低下型変異を持つパーキンソン病患者では、運動症状の悪化が変異を持たない患者より約30%速く、別の臨床試験の患者集団(587名)でも同様の結果が得られました。
- 変異を2つ持つ患者では約63%速く、変異の数が多いほど進行が速いという量的な関係がみられました。
- 発症前段階の人では、変異を持つ人のパーキンソン病への移行リスクが約4.8倍高いという結果が得られました。
背景
パーキンソン病は進行の速さに大きな個人差があります。LRRK2※6やGBA※6など、既知の原因遺伝子で説明できるのは、その一部にとどまります。MC1Rは皮膚や毛髪の色素を決める遺伝子で、酸化ストレスや炎症の制御にも関わります。欧州系の人では60〜70%がMC1Rの機能低下型変異を少なくとも1つ持っています。しかし、この変異が発症後の病気の進行に影響するかどうかは分かっていませんでした。研究成果
本研究では、世界的なパーキンソン病のレジストリシステムであるパーキンソン病進行マーカー・イニシアチブ(PPMI)※7に参加し、既知の原因遺伝子変異を持たない患者383名を最大12年間追跡したデータを解析しました。運動症状スコア(MDS-UPDRS Part III※8)の悪化は、MC1R変異保有者で年2.51点、非保有者で年1.94点でした。これは約30%速い悪化にあたります。悪化は主に運動緩慢※9にみられました。この関連は、別の集団でも確認されました。そこでは変異保有者の悪化が約50%速い結果でした。さらに、発症前段階の53名を解析したところ、MC1R変異保有者ではパーキンソン病への移行リスクが高いことが示されました。一方、認知機能、非運動症状、ドパミントランスポーター画像の変化には、明らかな差は認められませんでした。
今後の展開
MC1Rの変異は、進行予測や患者さんへの説明、臨床試験の対象者の選定に役立つ可能性があります。また、皮膚の希少疾患ですでに使われているMC1R作動薬は、パーキンソン病の動物モデルで神経保護効果を示しています。本成果は、進行を抑える治療薬としての検討の基盤となります。ただし、今回の対象は主に欧州系の患者であり、日本人を含む他の集団での検証が今後の課題です。用語解説
※1 MC1R(メラノコルチン1受容体)
皮膚や毛髪のメラニン色素の種類と量を調節するたんぱく質で、その設計図となる遺伝子の名前でもあります。赤毛や色白の肌、紫外線への弱さに関わります。酸化ストレスや炎症を抑える働きもあります。※2 機能低下型変異
遺伝子の配列の違いのうち、それによって作られるたんぱく質の働きが弱まることが実験で確かめられているものです。MC1Rでは、働きを大きく下げる変異と、比較的軽度に下げる変異があります。※3 ニューロメラニン
黒質のドパミン神経細胞に蓄積する黒色の色素です。皮膚のメラニンと同じ仲間の物質で、黒質が黒く見えるのはこの色素によるものです。パーキンソン病の発症や進行にかかわっていると考えられています。※4 黒質のドパミン神経細胞
黒質は脳の奥にある部位です。ここにある神経細胞は、体の動きを円滑にするドパミンという物質を作っています。パーキンソン病では、この神経細胞が徐々に失われることで運動症状が現れます。※5 発症前段階(前駆期)
パーキンソン病と診断される前に、においの低下や、夢に合わせて体が動くレム睡眠行動異常症などの症状がみられる時期です。※6 LRRK2・GBA
パーキンソン病の発症や進行に関わることが知られている代表的な遺伝子です。本研究では、これらの変異を持たない患者を主な解析対象としました。※7 PPMI(パーキンソン病進行マーカー・イニシアチブ)
マイケル・J・フォックス財団が主導する国際的な大規模研究です。パーキンソン病の患者さんや発症リスクのある人を長期間追跡し、臨床情報、画像、遺伝子、髄液などのデータを集めています。※8 MDS-UPDRS Part III
国際パーキンソン病・運動障害学会が作成した評価尺度のうち、医師が診察して運動症状を点数化する部分です。0〜132点で、点数が高いほど症状が重いことを示します。※9 運動緩慢
動きが遅くなり、動作が小さくなる症状です。パーキンソン病の中心的な運動症状で、ドパミン神経細胞の減少と最も密接に関係するとされます。文献情報
論文タイトル
Common MC1R Variants and Parkinson Disease Progression著者
Schumacher JG1,2, Zhang X, Wang J3, Dijkstra JM5, 渡辺宏久5, Gao X6,7, Cortese M8, Macklin EA, Schwarzschild MA1,2, Chen X1,2.所属
1.ハーバード大学医学部 マサチューセッツ総合病院 脳神経内科2.パーキンソン病研究連携イニシアチブ(Aligning Science Across Parkinson's:ASAP)共同研究ネットワーク
3.ハーバード大学医学部 ブリガム・アンド・ウィメンズ病院 チャニング・ネットワーク医学部門
4.テキサス大学MDアンダーソンがんセンター 生物統計学部門
5.藤田医科大学医学部 脳神経内科学
6.ペンシルベニア州立大学 栄養科学部門
7.復旦大学 公衆衛生学院 栄養・食品衛生学系/栄養研究所
8.ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院 疫学部門・栄養学部門


