高脂肪食が肝臓の幹・前駆細胞に「老化の記憶」を残す
— 代謝ストレスによる持続的な老化様リプログラミングを発見 —
藤田医科大学(愛知県豊明市)医学部衛生学講座の山崎未来講師、山田宏哉准教授、大神信孝教授、麻布大学(神奈川県相模原市)獣医学部比較毒性学の宗綱栄二准教授らの研究グループは、高脂肪食による代謝ストレスが、肝臓の幹・前駆細胞※1など再生を担う細胞集団に、老化に似た性質を「記憶」のように持続的に残すことを明らかにしました。
特に重要なのは、老化様に変化した再生細胞集団から新たに作られる細胞にも、その性質が引き継がれるのかという点です。もしそうであれば、組織を修復する過程で新たな老化様細胞が生じ、機能障害が続く仕組みにつながる可能性があります。今後は、こうした細胞の変化が維持される分子機構や、新しく生まれる細胞への影響を調べるとともに、ヒトの肝臓で同様の現象が起こるか、機能障害を改善できるかを検証していきます。
※2 肝オルガノイド:肝臓の再生に関わる細胞を体外で立体的に培養して作る、小さな組織様構造。
※3 老化様:増殖能力の低下や老化関連分子の変化など、細胞老化と共通する特徴がみられる状態。
※ 4持続的リプログラミング/「老化の記憶」:過去の代謝ストレスによって変化した細胞集団の性質が、元の体内環境から離れても維持される現象。「記憶」はその持続性を表す比喩です。
※5 MitoQ:ミトコンドリアを標的とする抗酸化物質。
高脂肪食を与えたラットの肝臓から小さな立体組織「肝オルガノイド※2」を作製し、体外で繰り返し培養したところ、元の体内環境から切り離した後も、老化関連の変化とオルガノイド形成能力の低下が続きました。過去の代謝ストレスが、再生を担う細胞集団の性質を持続的に変える「老化様※3リプログラミング」を示す成果です。従来は、すでに肝臓を構成している成熟した細胞の老化が主に研究されてきました。今回の研究は、新しい細胞を生み出す「再生の源」そのものに老化様の変化が残ることを明らかにしたもので、組織の老化や再生能力の低下を理解するうえで、新たな視点を提示する発見といえます。
本研究成果は、国際学術誌「Aging Cell」2026年第25巻第10号で発表され、併せてオンライン版が2026年10月16日に公開されました。
研究成果のポイント
- 再生の源に「老化の記憶※4」
高脂肪食による代謝ストレスが、新しい細胞を生み出す幹・前駆細胞などの再生細胞集団そのものに、持続的な老化様変化を残すことを発見。
- 培養を繰り返しても消えない影響
元の体内環境から切り離した肝オルガノイドでも、老化関連指標の異常と形成・継代能力の低下が持続。過去の代謝ストレスによる持続的リプログラミング※4を示しました。
- 再生能力の回復につながる手掛かり
肝オルガノイドの培養中にMitoQ※5を加えることで、細胞のストレス反応が軽減し、低下したオルガノイド形成能力が部分的に改善。
背景
肝臓は、傷ついても組織を修復する高い再生能力を持つ臓器です。一方、高脂肪食や肥満に伴う脂肪肝では、脂肪の蓄積に加え、炎症や酸化ストレス、細胞老化に関連した変化が起こり、肝臓の再生反応も低下することが知られています。しかし、これまでの研究は主として成熟した肝細胞に注目されてきました。新しい細胞を供給する幹・前駆細胞などの再生細胞集団にも、過去の代謝ストレスが残るのでしょうか。研究グループは、肝臓から再生に関わる細胞集団を取り出し、元の体内環境とは異なる同一の培養条件で育てることで、この疑問を検証しました。研究手法・研究成果
① 肝臓の再生反応への影響を確認
ラットに通常食または高脂肪食を8週間与えました。高脂肪食群では肝臓の脂肪蓄積と老化関連指標が増加し、肝臓に損傷を与えた後の細胞増殖反応が低下しました。
② 再生細胞集団に「老化の記憶」が残ることを確認
両群の肝臓から肝オルガノイドを作製し、同じ培養条件で継代を重ねました。高脂肪食群由来のオルガノイドでは、老化関連指標p16の増加やLamin B1の減少などが継代3回目まで持続し、形成・継代能力も低下しました。さらに、脂肪酸を加えたときの脂肪蓄積や炎症反応も強く現れました。元の体内環境から離れても異常が続くことが、今回の研究の核心です。
③ ミトコンドリアへの介入で部分的に改善
高脂肪食群由来のオルガノイドでは、エネルギー産生を担うミトコンドリアの働きが低下していました。培養中にMitoQを加えると、酸化ストレスや炎症性物質の分泌が減少し、ミトコンドリア機能が改善しました。オルガノイド形成能力も有意に改善しましたが、回復は部分的でした。

ラットに通常食または高脂肪食を8週間与えました。高脂肪食群では肝臓の脂肪蓄積と老化関連指標が増加し、肝臓に損傷を与えた後の細胞増殖反応が低下しました。
② 再生細胞集団に「老化の記憶」が残ることを確認
両群の肝臓から肝オルガノイドを作製し、同じ培養条件で継代を重ねました。高脂肪食群由来のオルガノイドでは、老化関連指標p16の増加やLamin B1の減少などが継代3回目まで持続し、形成・継代能力も低下しました。さらに、脂肪酸を加えたときの脂肪蓄積や炎症反応も強く現れました。元の体内環境から離れても異常が続くことが、今回の研究の核心です。
③ ミトコンドリアへの介入で部分的に改善
高脂肪食群由来のオルガノイドでは、エネルギー産生を担うミトコンドリアの働きが低下していました。培養中にMitoQを加えると、酸化ストレスや炎症性物質の分泌が減少し、ミトコンドリア機能が改善しました。オルガノイド形成能力も有意に改善しましたが、回復は部分的でした。

図1 高脂肪食によって肝臓の再生細胞集団に残る「老化の記憶」
(A)肝オルガノイドの老化関連指標の染色像。高脂肪食群では、継代後も老化様の変化が認められました。(B)培養を繰り返すと、高脂肪食群由来オルガノイドの形成能力が低下しました。
今後の展開
本研究は、「すでに存在する細胞が老化する」だけでなく、「新しい細胞を生み出す側に老化様の変化が残る」という新たな組織老化の捉え方を提示しました。こうした「老化の記憶」が、脂肪肝に伴う機能障害の持続に関係している可能性があります。特に重要なのは、老化様に変化した再生細胞集団から新たに作られる細胞にも、その性質が引き継がれるのかという点です。もしそうであれば、組織を修復する過程で新たな老化様細胞が生じ、機能障害が続く仕組みにつながる可能性があります。今後は、こうした細胞の変化が維持される分子機構や、新しく生まれる細胞への影響を調べるとともに、ヒトの肝臓で同様の現象が起こるか、機能障害を改善できるかを検証していきます。
用語解説
※1 幹・前駆細胞:組織の修復や再生の際、新しい細胞の供給に関わる細胞。※2 肝オルガノイド:肝臓の再生に関わる細胞を体外で立体的に培養して作る、小さな組織様構造。
※3 老化様:増殖能力の低下や老化関連分子の変化など、細胞老化と共通する特徴がみられる状態。
※ 4持続的リプログラミング/「老化の記憶」:過去の代謝ストレスによって変化した細胞集団の性質が、元の体内環境から離れても維持される現象。「記憶」はその持続性を表す比喩です。
※5 MitoQ:ミトコンドリアを標的とする抗酸化物質。
文献情報
論文タイトル
High-Fat Diet–Induced Metabolic Stress Durably Reprograms the Liver Regenerative Compartment Toward a Senescence-Like State
著者
山崎未来(筆頭著者)、 山田宏哉(責任著者)、 宗綱栄二、大神信孝、 他


