大学院医療科学研究科 第4回医療科学セミナーのお知らせ
藤田医科大学大学院 医療科学研究科 医療科学専攻(修士課程)では、本研究科に所属する大学院生が集い、それぞれが所属する領域の最新トピックスを共に学び、視野を広げることを目的に、各分野の第一線で活躍されている学内外の著名な研究者を講師に招聘し、「医療科学セミナー」を以下のとおり、開催いたします。
| 演題 | 「世界初の加速器BNCTシステムの実現と今後の展望」 |
| 演者 |
田中 浩基 先生
京都大学 複合原子力科学研究所 教授
|
| 日時 | 2025年12月12日(金)18:00~19:30 |
| 場所 | 大学3号館1階101講義室 |
ご講演要旨
京都大学複合原子力科学研究所では、研究用原子炉を用いて幅広い部位にBNCTを適応してきた。しかし原子炉は規制対応や定期点検、老朽化対策が不可欠であり、病院に併設して医療機器として導入することは現実的ではなかった。1970年代から原子炉の代替中性子源として加速器BNCTシステムの研究開発が世界各国で進められてきたが、大電流を供給できる加速器や、安定的に中性子を発生させる技術が存在せず、長らく実用化には至らなかった。そこで、2006年に30MeV陽子サイクロトロンとベリリウムターゲットを組み合わせたシステムの開発を住友重機械工業株式会社と開始した。高エネルギー陽子の利用により大量の中性子生成を可能とし、ビーム整形装置を整備することで臨床利用可能な治療中性子ビームを実現した。2008年にシステムを設置し、非臨床試験や臨床プロトコールの構築を経て、2012年に世界初の加速器BNCTシステムによる臨床試験を再発悪性神経膠腫に対して実施、2014年には頭頸部癌への臨床試験を開始した。
その後、南東北BNCT研究センターに同システムが導入され、臨床試験の実施を経て2019年に承認申請、2020年には医療機器としての製造販売承認と保険適用を達成した。大阪医科薬科大学関西BNCT共同医療センターにも同システムが設置され、現在2つの医療機関で切除不能な局所進行又は局所再発の頭頸部癌に対してBNCTの保険診療が行われている。 2025年にはこの加速器BNCTシステムによる治療件数が500例を超え、原子炉を用いた長年の実績を凌駕する規模に達しており、病院併設型BNCTの臨床的インパクトは極めて大きいと言える。加速器BNCTの実現は、臨床展開に加えて、中性子制御・検出など周辺技術開発の必要性を明確にした。本講演では、加速器BNCTの開発経緯と将来展望を概説し、今後の研究参画や連携を促す一助となることを期待している。


