プレスリリース

「三葉虫の複眼の謎を解明」の研究成果が総合科学ジャーナル『Nature』オンライン版に掲載されました

藤田医科大学 伊藤祥輔名誉教授と若松一雅名誉教授のグループは、スウェーデン国のルンド大学ヨハン•リンドグレン博士らとの国際共同研究を行い、昆虫の化石の眼の研究から、カンブリア紀に繁栄した三葉虫などの節足動物の複眼の構造と化学的組成について新規の知見を発表しました。
この研究成果は、国際的な総合科学ジャーナル『Nature』オンライン版(ロンドン時間2019年8月14日)に掲載されました。

研究成果のポイント

・昆虫の複眼を用いて、個眼の隔壁はユーメラニンからなることを世界で初めて報告。
・化石化の過程で、個眼のレンズが石灰化されたことを証明。カンブリア紀に繁栄した三葉虫の個眼レンズは化石化の過程で石灰化された可能性を示唆。

本研究成果の内容

5400万年前の昆虫ガガンボの化石の眼を研究することにより、節足動物で光を遮蔽する色素がメラニンであることが初めて証明されました。さまざまな手法により、ガガンボの眼の構造が化石化の過程でどのように変化するかが解明されました。この研究は、三葉虫などの化石化された節足動物の眼の構造について、これまでの解釈が再検討を要することを示唆しています。
昆虫や甲殻類のような節足動物の複眼は、動物における最も一般的な視覚器官です。複眼は遅くとも5億2千年前には出現しました。化石の複眼の研究は、節足動物における視覚の解明をもたらします。
ヨハン•リンドグレン博士(ルンド大学、スウェーデン)と共同研究者らは、デンマークで発掘された5400万年前の昆虫ガガンボの化石の眼の化学組成と微細構造を調べ、それを現生のガガンボの眼と比較することにより、化石化の過程が複眼の構造に及ぼす影響を調べました。その結果、ユーメラニンの存在を証明しました。ユーメラニンは、化石のみならず現生の動物においても光受容体を光から保護する遮蔽色素として働いています。
化石の複眼のレンズ構造は石灰化されていますが、眼を保護し、視覚に関わるキチンという物質がカルシウムに置き換ったことによると、著者らは示唆しています。従来の研究では、絶滅した節足動物において石灰化は生存中に起こったものと解釈されていましたが、著者らはこのような無機化は視覚を損ねてしまうので、カルシウムの沈着は化石化の過程で二次的に生じたものと提案しています。この発見は、最古の節足動物である三葉虫の眼の石灰化についての長年にわたる仮説は再検討を要することを示しています。

デンマークで発掘された5400万年前のガガンボ化石。全長約50 mm。複眼が暗色になっていることに留意。

5400万年前のガガンボ化石の頭部。複眼中の規則的に配列した六角形の個眼を示す。複眼の最大直径はおよそ1.25 mm。藤田医大提供。

発表論文

Johan Lindgren, Dan-Eric Nilsson, Peter Sjövall, Martin Jarenmark, Shosuke Ito, Kazumasa Wakamatsu, Benjamin P. Kear, Bo Pagh Schultz, René Lyng Sylvestersen, Henrik Madsen, James R. LaFountain Jr, Carl Alwmark, Mats E. Eriksson, Stephen A. Hall, Paula Lindgren, Irene Rodríguez-Meizoso & Per Ahlberg. Fossil insect eyes shed light on the arthropod pigment screen and trilobite optics. Natute, 2019. https://doi.org/10.1038/s41586-019-1473-z

用語解説

複眼:数百から二万個の個眼が蜂の巣状に連なってできており、節足動物の視覚をつかさどる。個眼は角膜、レンズ、視細胞などからなり、側壁により隔てられている。
ユーメラニン:皮膚や眼に存在し、組織を紫外線などの光線から保護する黒褐色の色素であり、アミノ酸チロシンから酵素チロシナーゼの作用により生じる。
三葉虫:カンブリア紀に繁栄し、その後に絶滅した節足動物で、標準化石として重要である。
キチン:N-アセチルグルコサミンからなる複合多糖の一種で、節足動物の外皮の主成分である。

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