プレスリリース

化石メラノソームの元素組成から絶滅した脊椎動物の内部構造を解明

藤田医科大学 伊藤祥輔名誉教授と若松一雅名誉教授のグループは、アイルランド国のコーク大学マリア•マクナマラ博士らとの国際共同研究を行い、化石メラノソームの元素組成から脊椎動物の内部構造を解明する方法を発表しました。
この研究成果は、国際的な総合科学ジャーナル『米国科学アカデミー紀要』(米国東部時間2019年8月19日)に掲載されました。

研究成果のポイント

・メラニンは現生の両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類およびその化石の内臓に豊富に存在することを明らかにした。
・シンクロトロン蛍光X線分析法を用いて、メラノソームの元素組成が臓器ごとに異なること明らかにした。これにもとづき、古生物の内部構造を再構築することができた。

本研究成果の内容

コーク大学の古生物学者らは、化石化された内臓メラノソームの化学組成を分析することにより、絶滅した脊椎動物の全身像を再構築する新規な方法を見出しました。従来の化石メラニンの研究は、皮膚や羽毛の見た目の色に限定されていました。予期しないことに、今回の研究は、メラニンは現生の両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類およびその化石の内臓に豊富に存在することを明らかにしました。
コーク大学のヴァレンチナ•ロッシおよびマリマ•マクナマラ博士は、米国科学アカデミー紀要に令和元年 8月 19日(米国東部時間)付けで発表された論文において、米国および日本の化学者と共同研究を行いました。研究チームは化石および現生メラノソームの化学組成をシンクロトロンによる最新法で分析しました。
研究チームは昨年、カエルの化石について内臓にメラノソームを発見しており、メラノソームが脊椎動物の内臓に広範に分布していることを予想していましたが、化学組成が臓器ごとに異なることは予期しない発見となりました。
この発見は、古生物の構造を再構築するための新たな道を開くという点で画期的です。化石の標本で、皮膚、肺、肝臓、消化器、心臓、さらには結合組織までも同定することができます。さらに、メラニンは1000万年さらには1億年の過去にさかのぼって金属イオンの調節に関わっていたことが示唆されます。
この研究は、15年前には不可能でした。可能になった要因として、シンクロトロン蛍光X線分析法の出現によりメラノソーム中の微量金属を検出できようになったこと、メラニンは化石においてもよく保存されており、化学的に検出できることが挙げられます。

図1. リブロス(スペイン)で発見された1000万年前のカエルの化石。X線蛍光図(右)は内臓に銅と亜鉛が多いことを示す。藤田医大提供

図2. リブロス(スペイン)で発見された1000万年前のオタマジャクシの化石。X線蛍光図(下)は皮膚、眼、特に肝臓にチタンが多いことを示す。藤田医大提供

発表論文

Valentina Rossi, Maria E. McNamara, Sam M. Webb, Shosuke Ito, and Kazumasa Wakamatsu. Tissue-specific geometry and chemistry of modern and fossilized melanosomes reveal internal anatomy of extinct vertebrates. www.pnas.org/cgi/doi/10.1073/pnas.1820285116

用語解説

メラニン:皮膚や眼に存在し、組織を紫外線などの光線から保護する黒褐色の色素であり、アミノ酸チロシンから酵素チロシナーゼの作用により生じる。最近、心臓などの臓器にも広範囲に存在することが分かってきたが、その機能は明らかではない。
メラノソーム:メラニン産生細胞であるメラノサイト内に存在する、メラニン産生顆粒。

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