加熱殺菌したビフィズス菌が抗ストレス効果をもたらす—医薬品等の幅広い製品に応用可能か—
藤田医科大学 大学院保健学研究科レギュラトリーサイエンス分野 小菅愛加(大学院生)、國澤和生助教、毛利彰宏准教授らのグループは、同保健学研究科の齋藤邦明教授、鍋島俊隆客員教授らと共に、加熱殺菌したビフィズス菌※1が脳内の炎症を抑え、抗ストレス効果をもたらすことを発見しました。ヨーグルトなどの発酵食品に応用されている生きたビフィズス菌ではなく、加熱殺菌した状態で抗ストレス効果が認められたことから、医薬品や幅広い製品に応用出来る可能性があります。本研究成果は、欧州科学誌「Brain, Behavior, and Immunity」の掲載に先駆けオンライン版が5月29日に公開されました。
研究成果のポイント
- ビフィズス菌殺菌体が炎症性サイトカイン※2の一つであるインターロイキン1βを抑えることで抗ストレス効果をもたらすことを世界で初めて発見。
- 本研究結果は加熱殺菌したビフィズス菌により得られた効果であることから、医薬品や幅広い製品に応用可能。
背景
近年、腸内細菌が健康と密接に連関していることが明らかになっており、特に腸内細菌により制御される腸と脳が機能連関することを意味する“脳腸相関”が注目されています。ストレスを受けることで腸内細菌叢が変化し、脳内の免疫機能などに影響を与える、いわゆる“脳腸相関の乱れ”がうつ病などの精神疾患の発症要因となる可能性も報告されています。特に、代表的な善玉菌の一つであるビフィズス菌の減少がうつ病に関連することが知られており、これまでに生きたビフィズス菌が抗ストレス効果をもたらすことが報告されています。しかし、医薬品や幅広い製品に応用を検討する上で生きた菌だけでなく、殺菌されたビフィズス菌でも抗ストレス効果を有するのか検討することが非常に重要な課題でした。研究手法・研究成果
本研究では、加熱殺菌したビフィズス菌をあらかじめ付与したマウスに対しストレスを負荷することで、ビフィズス菌が抗ストレス効果を有するか検討しました。このマウスではストレス負荷により生じる抑うつに関連した行動異常が認められなくなったことから、加熱殺菌したビフィズス菌でも抗ストレス効果を有することが明らかとなりました。また、このマウス糞便中の腸内細菌叢を次世代シーケンサー※3により解析すると、ストレス負荷により生じた腸内細菌叢の乱れが大きく改善していることが分かりました(図1)。腸内細菌叢は免疫機能と密接な関係があるため、加熱殺菌したビフィズス菌が脳内の免疫機能に与える影響も検討した結果、ビフィズス菌付与により脳内において代表的な炎症性サイトカインであるインターロイキン1βが抑制されていることが明らかになりました。ストレスにより増加するインターロイキン1βは、うつ病のリスク因子としても知られているため、ビフィズス菌が脳内のインターロイキン1βを抑制することでうつ病の発症予防にも繋がる可能性が考えられます。