プレスリリース

インスリン依存性糖尿病に対する低侵襲治療 「膵島移植」の保険診療施設に認定されました

藤田医科大学病院(愛知県豊明市沓掛町田楽ヶ窪1番地98、病院長:白木良一)は、今年2月に厚生労働省より「インスリン依存性糖尿病に対する同種膵島移植」を実施できる第一種再生医療等の機関として認められ、中部地方では初の膵島移植保険診療施設となりました。膵島移植が行える施設は全国に12施設ありますが、保険診療が可能なのは本学および京都大学医学部附属病院、福岡大学病院の3施設のみとなっています。

体への負担が少ない膵島移植

膵島は、インスリンを分泌する「β細胞」をはじめとした直径約50~500μmの細胞の塊で、成人一人あたり約100万個存在するといわれています。塊になって点在する様子から「膵臓のなかの島」という意味でこの名前が付きました。
糖尿病の患者さんの中には、膵島が機能しなくなり、血糖値を下げるインスリンを注射で補っても血糖値が不安定で意識障害などの低血糖発作を起こす方がいます。膵島移植は、それらインスリン依存性糖尿病(1型糖尿病)の患者さんを対象とした画期的な治療で、2020年4月に保険収載されました。脳死もしくは心停止ドナーから提供していただいた膵臓から膵島組織を集め、それを分離して浮遊液にし、局所麻酔により肝臓の門脈という血管から点滴投与で移植します。これまで国内では、31名に対し54回実施されています。
膵島移植は膵臓移植と異なり、外科手術が不要で、所要時間も15~30分と短く、患者さんの体への負担が軽いことが特長です。1回の移植で生着しない場合は繰り返しの移植も可能です。さらにステロイド不使用のため、骨密度の低下といった副反応が少なく、インスリン療法からの離脱を図れる新しい治療法として注目されています。

国内3施設目の保険診療認定施設

全国の膵島分離・移植認定施設および保険診療施設 (日本膵・膵島移植学会「膵島移植班」 2022年2月現在)

膵島分離・移植施設は全国に12ありますが、保険診療で行うには、①過去3年間に膵移植、膵島移植を5例以上実施していること②5年以上の経験を有する糖尿病専門の常勤医を2名以上配置し、膵島移植の経験があること③日本組織移植学会のガイドラインを遵守する旨を届け出ていること④再生医療等の安全性の確保等に関する法律「再生医療等提供基準」を遵守していること──ほか厳格な施設要件が設けられています。当院はこれらをクリアし、日本で3施設目の保険診療施設に認定されました。

剣持敬教授主導のもと細胞分離から移植まで一貫して実施

当院での膵島移植は、日本臨床腎移植学会理事長、日本膵・膵島移植学会理事長を務める当院臓器移植科の剣持敬教授(写真右)の主導により、膵島移植チームを中心として関連学会および多科が連携して行います。剣持教授は、2003年に国立佐倉病院にて国内初の膵島分離を成功させ、2004年には国内2例目となる膵島移植を実施。我が国の膵臓・膵島移植をけん引する移植医療のスペシャリストとして知られます。
膵島移植には膵島分離が必要です。藤田医科大学は、国際規格の細胞培養加工施設「CPC(Cell Processing Center)」にて、膵島の純化から収集、培養、浮遊液作成、さらには大学病院での移植まで一貫して行うことが可能となっています。

当院の膵島移植実施の流れ(ドナー発生から移植まで)

膵島移植の背景

1型糖尿病は、生活習慣病に関連する2型と異なり、インスリンを分泌する膵島が何らかの原因で破壊されることで発症します。国内では11~14万人の患者がいるとされ、幼児から高齢者まで幅広いのが特徴です。高血糖状態が続くため、インスリン補充注射で血糖値を下げる治療を行いますが、血糖コントロールが極めて困難な場合は、低血糖により昏睡状態から死に至ることもある危険な疾患です。重度の患者さんには、膵臓移植や膵腎同時移植も検討されますが、日本ではドナー数が非常に少ないため、その道のりは簡単なものではありません。さらに膵腎同時移植の場合は膵臓の生着率が約8割と良好ですが、膵臓単独の移植の場合は約3割と他の臓器移植と比べて低いことも課題でした。それらに対して膵島移植における近年行われた5例では、全例が長期に生着し、2例がインスリン離脱するなど成績向上が得られています。

適応基準

膵島移植のレシピエント適応基準は、日本糖尿病学会「膵・膵島移植に関する常置委員会」および日本膵・膵島移植学会「膵島移植適応検討委員会」によって以下のように定められています。

1)膵島移植・膵臓移植について説明し、膵島移植に関し本人の同意がある
2)同意取得年齢が20歳から75歳頃まで
3)インスリン依存状態が5年を超えて継続する
4)高度の内因性インスリン分泌の低下(随時血清CPR<0.2ng/mL)
5)糖尿病専門医による治療努力によっても血糖管理困難
6)インスリン抗体や自律神経障害などにより4)に該当しなくとも、血糖管理が極めて困難で、適応検討委員会で適応認定されたもの

※適応基準以外にも、肥満や肝機能障害、悪性腫瘍などさまざまな禁忌があります。

今後の展望について

当院では現在、1例目の膵島移植実施に向け、準備を進めています。剣持教授は、「日本では約2000万人、6人に1人が糖尿病もしくはその予備軍とされています。当院が低侵襲な膵島移植に取り組むことにより患者さんの治療の選択肢を増やし、ひいては2型糖尿病における腎移植、1型糖尿病に対する膵腎同時移植を含めて、糖尿病に対するオールマイティな移植医療の実現をめざしていきます」と話しています。